10 / 15
10
「……」
シャルレーヌは、兄とも、キルペルクとも呼ばないと伝えてから、じっと王太子を遠くから見ていた。
どうなろうともいいと言いたいところだが、王太子の代わりになるのは、嫌だった。どうにかして使い物になってもらわなければ困る。
「王太子殿下の側近たちは、あなたのために残ったようです」
「私のため……?」
「あなたが、執務をこなすことになると身体に負担がかかりすぎる。また、部屋で引きこもって療養することになると思ったようです」
「……」
つまりは、側近たちは噂話の病弱なのを信じているということだ。キルペルクの代わりにシャルレーヌが女王になると早死にすると思われているということになる。
チラッとオーギュストを見ると困ったような顔をしているのにシャルレーヌは首を傾げた。
それにオーギュストは観念したかのように明々後日の方を見て答えた。それは、オーギュストには珍しいことだった。シャルレーヌが側にいるとシャルレーヌを目に焼き付けんばかりに見て来るが、この時は逆にシャルレーヌがオーギュストを見ていた。
「申し訳ありません。根も葉もないことだと言うのは容易かったのですが、何も言わない方が良いかと思って、そのままにしました。……あなたを王太子殿下のやるべき執務に取られたくなくて」
執務に取られるなんて、オーギュストが言うとは思わなかった。子供っぽく言い訳をするのにぽつりと呟いた。
「独り占めしたかったの?」
「はい」
「そう。私も、やる気がないからいい。母にも、相応しいのを応援すると言われたけど、その気はないって答えてある」
「では、全力で阻止します。側近やら、護衛やらに取り囲まれるのなんで見たくないので」
「……」
そちらが一番な気がした。他の男が、シャルレーヌのや側にいる。それだけで、オーギュストは腸を煮えたぎらせそうだ。
そうなったら、オーギュストはどうなるのか。ちょっと気になってしまったシャルレーヌ。
だが、そんなことを考えたことが見透かされたかのようにオーギュストの目が細まった。
「シャルレーヌ様。私は、あなただけがいればいい」
「……」
「同じようになっていただけるように私も、今後はもっと努力した方がよろしいですか?」
どんな努力をするのかを見てみたい気もするが、それを言ったら取り返しのつかない方向に向かいそうだから、別のことを言った。
「同じになる必要があるの? 私が私のままなのが好きだと言ったと思うけど。私らしさをあなたが奪うの?」
「……そうでした。あなたの素晴らしいところは、そういうところでした」
「……」
シャルレーヌは、とても厄介なものに好かれた気がする。他の誰にも扱いきれない子息に惚れられた気がしても、王太子ほど面倒と思うことはなかった。
むしろ、この状況がずっと続くのも悪くないと思ってしまう程度には、オーギュストのことをシャルレーヌが気に入っているのは間違いない。
それより、問題なのは王太子の評判の回復と相応しい婚約者ができることをどうしたものかとシャルレーヌは頭を悩ませることになったが、その合間にオーギュストが構ってほしそうにうろちょろするのも、シャルレーヌは面白くて仕方がなかった。
オーギュストという子息は、シャルレーヌがいればいいのだ。
シャルレーヌは、それが面白くもあり、愛おしくもあった。彼がいるから、狂わずにいられると思わずにはいられなかった。
母のように引きこもり続ける一生など、シャルレーヌは迎える気が最初からなかった。それを王太子である兄は最初から見余っていたのだ。
あなたにおすすめの小説
喋ることができなくなった行き遅れ令嬢ですが、幸せです。
加藤ラスク
恋愛
セシル = マクラグレンは昔とある事件のせいで喋ることができなくなっていた。今は王室内事務局で働いており、真面目で誠実だと評判だ。しかし後輩のラーラからは、行き遅れ令嬢などと嫌味を言われる日々。
そんなセシルの密かな喜びは、今大人気のイケメン騎士団長クレイグ = エヴェレストに会えること。クレイグはなぜか毎日事務局に顔を出し、要件がある時は必ずセシルを指名していた。そんなある日、重要な書類が紛失する事件が起きて……
え?わたくしは通りすがりの元病弱令嬢ですので修羅場に巻き込まないでくたさい。
ネコフク
恋愛
わたくしリィナ=ユグノアは小さな頃から病弱でしたが今は健康になり学園に通えるほどになりました。しかし殆ど屋敷で過ごしていたわたくしには学園は迷路のような場所。入学して半年、未だに迷子になってしまいます。今日も侍従のハルにニヤニヤされながら遠回り(迷子)して出た場所では何やら不穏な集団が・・・
強制的に修羅場に巻き込まれたリィナがちょっとだけざまぁするお話です。そして修羅場とは関係ないトコで婚約者に溺愛されています。
手作りお菓子をゴミ箱に捨てられた私は、自棄を起こしてとんでもない相手と婚約したのですが、私も含めたみんな変になっていたようです
珠宮さくら
恋愛
アンゼリカ・クリットの生まれた国には、不思議な習慣があった。だから、アンゼリカは必死になって頑張って馴染もうとした。
でも、アンゼリカではそれが難しすぎた。それでも、頑張り続けた結果、みんなに喜ばれる才能を開花させたはずなのにどうにもおかしな方向に突き進むことになった。
加えて好きになった人が最低野郎だとわかり、自棄を起こして婚約した子息も最低だったりとアンゼリカの周りは、最悪が溢れていたようだ。
【短編完結】地味眼鏡令嬢はとっても普通にざまぁする。
鏑木 うりこ
恋愛
クリスティア・ノッカー!お前のようなブスは侯爵家に相応しくない!お前との婚約は破棄させてもらう!
茶色の長い髪をお下げに編んだ私、クリスティアは瓶底メガネをクイっと上げて了承致しました。
ええ、良いですよ。ただ、私の物は私の物。そこら辺はきちんとさせていただきますね?
(´・ω・`)普通……。
でも書いたから見てくれたらとても嬉しいです。次はもっと特徴だしたの書きたいです。
メリザンドの幸福
下菊みこと
恋愛
ドアマット系ヒロインが避難先で甘やかされるだけ。
メリザンドはとある公爵家に嫁入りする。そのメリザンドのあまりの様子に、悪女だとの噂を聞いて警戒していた使用人たちは大慌てでパン粥を作って食べさせる。なんか聞いてたのと違うと思っていたら、当主でありメリザンドの旦那である公爵から事の次第を聞いてちゃんと保護しないとと庇護欲剥き出しになる使用人たち。
メリザンドは公爵家で幸せになれるのか?
小説家になろう様でも投稿しています。
蛇足かもしれませんが追加シナリオ投稿しました。よろしければお付き合いください。
可愛い妹を母は溺愛して、私のことを嫌っていたはずなのに王太子と婚約が決まった途端、その溺愛が私に向くとは思いませんでした
珠宮さくら
恋愛
ステファニア・サンマルティーニは、伯爵家に生まれたが、実母が妹の方だけをひたすら可愛いと溺愛していた。
それが当たり前となった伯爵家で、ステファニアは必死になって妹と遊ぼうとしたが、母はそのたび、おかしなことを言うばかりだった。
そんなことがいつまで続くのかと思っていたのだが、王太子と婚約した途端、一変するとは思いもしなかった。
冷徹公に嫁いだ可哀想なお姫様
さくたろう
恋愛
役立たずだと家族から虐げられている半身不随の姫アンジェリカ。味方になってくれるのは従兄弟のノースだけだった。
ある日、姉のジュリエッタの代わりに大陸の覇者、冷徹公の異名を持つ王マイロ・カースに嫁ぐことになる。
恐ろしくて震えるアンジェリカだが、マイロは想像よりもはるかに優しい人だった。アンジェリカはマイロに心を開いていき、マイロもまた、心が美しいアンジェリカに癒されていく。
※小説家になろう様にも掲載しています
いつか設定を少し変えて、長編にしたいなぁと思っているお話ですが、ひとまず短編のまま投稿しました。
完結 女性に興味が無い侯爵様、私は自由に生きます
ヴァンドール
恋愛
私は絵を描いて暮らせるならそれだけで幸せ!
そんな私に好都合な相手が。
女性に興味が無く仕事一筋で冷徹と噂の侯爵様との縁談が。 ただ面倒くさい従妹という令嬢がもれなく付いてきました。