母と約束したことの意味を考えさせられる日が来ることも、妹に利用されて婚約者を奪われるほど嫌われていたことも、私はわかっていなかったようです

珠宮さくら

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あまりの態度の違いに見たことない令嬢を見ているような奇妙な感覚がミュリエルはしてならなかった。

あれが、トレイシーの本性だったのだ。それに気づかなかったのは、どうやらミュリエルと王太子とオリーヴくらいだったようだ。

通りで使用人たちは、伯父やトレイシーと距離を置かせようとしていたわけだ。そんなことに今更気づいても、ミュリエルの心が癒されることはなかった。

そのせいで、ミュリエルはしばらく寝込むことになった。トレイシーはケロッとしていたというのにおかしな話だ。

伯父とて、出生の秘密を知ってショックを受けていたが、それどころではなかった。

伯父の妻であるミュリエルの伯母は、我が子よりもトレイシーを可愛がっていた理由を自分の子供だと分かっていたからだと思った。まぁ、誰でもそう思うはずだ。


「違う! 知らなかったんだ!」
「……それが信じられるわけがないでしょ。息子まで連れて行って、ミュリエルの相手をパーシヴァルにさせて、自分はトレイシーを甘やかしていたのを知っているのよ。おかしいと思っていたのよ。義姉さんに似ているからって、あんなに休みのたびに会いに行くなんて、何かあると思ったいたのよ」


伯父が、父子鑑定も間違いだと言っていたが、やり直したところで覆ることはなかった。そもそも、そういう関係だったのだ。子供がいるいないに関係なく、不倫していたのに変わりはないことに伯父は気づいていなかった。

そんな証拠となる子供がいなければ、不倫していたこともあちらは死んでいるのだからバレることはないと思っていた。最低な男だった。

その頃には、パーシヴァルを連れて実家に行ってしまっていて、しばらくしてこの2人は離婚した。元より、家のことを夫人に任せっきりで、公爵家に入り浸っていたのだ。こんなことがなくても離婚していてもおかしくはなかった。

息子であるパーシヴァルは、父親に失望して父と一緒にいたくないと言い、家の跡継ぎにもなりたくないとまで言い出したのも、すぐだった。

そんな風に大揉めすることになったが、トレイシーはそんなの我関せずのまま、王太子の婚約者になれたことに浮かれていたのと甘やかしてくれていた人が実父だったとわかり、玉の輿に乗る娘を自慢に思うものと思っていた。

パーシヴァルたちのことなど、トレイシーが気にする素振りもなかった。元より、自分のことばかりなのだ。周りがどうなろうとも気にもしないのが、トレイシーだ。

怒涛の展開となったミュリエルは、オリーヴにも王太子にも、ましてや溺愛していたのにいいように利用して、自分だけが幸せになることに躍起になっている父親違いの妹に会いたくなくて留学をすることにした。

これ以上、傷つきたくなかった。父が、一番傷ついた顔をしていたのも、見たくなかった。あんな風に言うつもりはなかったのだろう。

でも、怒りのあまり言いたくなるのも無理はない。だから、この家にいる時間をずらしていたのだ。ずらした結果、実の娘との時間を持てなかったのだ。

それでも、公爵家にいさせたのは、トレイシーに罪はないと思っていたからかもしれない。それが、姉から婚約者を奪ったことで、やはりと思うことになってしまったようだ。

父がしていたのが、今のミュリエルならよくわかる。ミュリエルも、会いたくはない。だから、留学するのだ。そこが似ているなと思って苦笑してしまった。

それに従兄も、父親が祖父と愛人の子だと知って、どうしているかも会って話すことができる心境ではなかった。

自分のことで手一杯になりすぎて、従兄にも伯母にも心無いことを言ってしまいそうで離れることにした。

それにこの国にこのままいても、学園で王太子とトレイシーが一緒にいるのを平然と見ている余裕も、ミュリエルには残っていなかった。


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