母と約束したことの意味を考えさせられる日が来ることも、妹に利用されて婚約者を奪われるほど嫌われていたことも、私はわかっていなかったようです

珠宮さくら

文字の大きさ
16 / 22

16

しおりを挟む

(パーシヴァル視点)


突然のことだった。叔父に呼ばれたかと思えば、養子にしたいと言われたのだ。

最初、聞き間違えたのだと思った。だって、あんなことをした男の息子だ。それに祖父の愛人との間に生まれたのが父だと分かったのだ。

それを公爵家の跡継ぎにしたいからと言われるとは思うわけがない。

だから、同情からなら受けられないと思っていた。それに要らぬことを言う者も現れることになりかねない。祖父のことはバレていなくても、その事実が変わることはない。

私が、本当は公爵の実子なのではないかと言われるのだけは避けたい。そんなことになれば、母上を今以上に悲しませる。

公爵とてわかっているはずだ。タイミングが悪すぎる。なのになぜ、そんな話を呼び出してまでするのかが、私には分からなかった。


「ミュリエルのためなんだ」
「ミュリエルの……?」


なぜ、そこで従妹の名前が出るんだと首を傾げたのは無理もないはずだ。わけがわからない顔をしている私にこんなことを話してくれた。

隣国で国王に見初められたことを教えてくれた。それに驚いたが、ミュリエルなら国王に見初められるのは無理はないとすぐに思えた。

そもそも、元王太子は見る目がなさすぎたのだ。あんなにも婚約してから努力し続けていたのに。それすら見ようとせずにミュリエルに事実確認をすることもなく、きちんと調べもせずに決めつけたのだ。

あちらとの婚約が破棄になったのは、良かったことなのだ。


「この家の跡継ぎは、あいつがいなくなって、自分の婚約も破棄になったから、この家を継ぐのは自分だと思っているんだ。だが、そんなことで断らせたくない」
「隣国の国王陛下は、人柄がよい方ですからね」
「あぁ、若くして国を治められているだけはある」


そんなことを話しても、私は母と相談すると言って即答しなかった。

母とて、ミュリエルのことを話せば、断れとは言えないはずだ。母も、ミュリエルのことをずっと気にかけていた。

それと同じくらい叔父も、私を気にかけてくれていたのだ。実の父にそんな心配は一度もされたことがないが、叔父は違っていた。


「母上。ただいま戻りました」
「お帰りなさい」


叔父と何の話をしてきたのかが気になる顔をしていても、私が口にするまで聞くことはなかった。

だから、何食わぬ顔をして話をした。私が叔父から聞いた話をしばらく思案する素振りすら母は見せることはなかった。

まるで、そうなるのはわかっているかのように見えてならなかった。


「あなたなら、どこの家の養子になっても、養子先に恥をかかせることはないわ」
「母上」
「でも、そうね。公爵は、私とも話したがるでしょうね」
「……」


そう言って、しばらくして話し合いの末に私は公爵家の養子になった。

何を言われても母は、蹴散らせるだけのことをこれまで散々父にされてきたとばかりにしていて、すっかり逞しくなった母を見て、公爵も何とも言えない顔をしていた。

それは、私も同じで同じような顔をしていたに違いない。昔から、ミュリエルとよく似ていて、兄妹だと思われることもあった。父の珍しい色合いを持たずに生まれた私は、叔父に似ていた。

もっと言うと祖母に似ているということになる。そこも、祖父に似ていたら祖母からは疎まれていた可能性があるが、そうならなかったから良かった。

そうなった原因が、公爵の弟である父だと思っていたが、祖父からだったのだ。複雑でしかない。

それに兄の嫁と不倫して、産ませた子供を自分の子供ではないかもしれないからと可愛がっていたのだ。それが、実子だとわかって、可愛くなくなるというのがおかしすぎるのだ。

まぁ、腹違いの妹のことなんて、どうでもいい。あちらは、私にどうこう思われたくないだろう。

そんな私は棚からぼた餅ではないが、ミュリエルのおかげで予期せぬ跡継ぎとなれた。


「ミュリエルには、感謝してもしきれないな」


そんなことを思いつつ、ミュリエルが幸せになることを願わずにはいられなかった。

それなのに腹違いの妹は、どんどん酷くなっていて、頭の痛いことばかりをやらかしていて学園で見かけるたび、恥ずかしくてならなかった。

あれは、父がわがまま放題にさせていたツケだ。

好き勝手させて、勉強させずにいたからあぁなっていることに父はわかっているのやら。

……父のことだ。恥をかかせた娘なんて、ほしくなかったと言うだろう。そういう人だ。

自分は何もしていないのに。私が頑張ってきたことすべてが、自分に似ているからだと言える人だ。

そんな人から離れられて、よかったとしか思えなかった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されたショックで前世の記憶を取り戻して料理人になったら、王太子殿下に溺愛されました。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 シンクレア伯爵家の令嬢ナウシカは両親を失い、伯爵家の相続人となっていた。伯爵家は莫大な資産となる聖銀鉱山を所有していたが、それを狙ってグレイ男爵父娘が罠を仕掛けた。ナウシカの婚約者ソルトーン侯爵家令息エーミールを籠絡して婚約破棄させ、そのショックで死んだように見せかけて領地と鉱山を奪おうとしたのだ。死にかけたナウシカだが奇跡的に助かったうえに、転生前の記憶まで取り戻したのだった。

【完結】愛くるしい彼女。

たまこ
恋愛
侯爵令嬢のキャロラインは、所謂悪役令嬢のような容姿と性格で、人から敬遠されてばかり。唯一心を許していた幼馴染のロビンとの婚約話が持ち上がり、大喜びしたのも束の間「この話は無かったことに。」とバッサリ断られてしまう。失意の中、第二王子にアプローチを受けるが、何故かいつもロビンが現れて•••。 2023.3.15 HOTランキング35位/24hランキング63位 ありがとうございました!

私の方が先に好きになったのに

ツキノトモリ
恋愛
リリカは幼馴染のセザールのことが好き。だが、セザールはリリカの親友のブランディーヌと付き合い始めた。 失恋したが、幼馴染と親友の恋を応援しようとする女の子の話。※連作短編集です

【完結】伯爵令嬢は婚約を終わりにしたい〜次期公爵の幸せのために婚約破棄されることを目指して悪女になったら、なぜか溺愛されてしまったようです〜

よどら文鳥
恋愛
 伯爵令嬢のミリアナは、次期公爵レインハルトと婚約関係である。  二人は特に問題もなく、順調に親睦を深めていった。  だがある日。  王女のシャーリャはミリアナに対して、「二人の婚約を解消してほしい、レインハルトは本当は私を愛しているの」と促した。  ミリアナは最初こそ信じなかったが王女が帰った後、レインハルトとの会話で王女のことを愛していることが判明した。  レインハルトの幸せをなによりも優先して考えているミリアナは、自分自身が嫌われて婚約破棄を宣告してもらえばいいという決断をする。  ミリアナはレインハルトの前では悪女になりきることを決意。  もともとミリアナは破天荒で活発な性格である。  そのため、悪女になりきるとはいっても、むしろあまり変わっていないことにもミリアナは気がついていない。  だが、悪女になって様々な作戦でレインハルトから嫌われるような行動をするが、なぜか全て感謝されてしまう。  それどころか、レインハルトからの愛情がどんどんと深くなっていき……? ※前回の作品同様、投稿前日に思いついて書いてみた作品なので、先のプロットや展開は未定です。今作も、完結までは書くつもりです。 ※第一話のキャラがざまぁされそうな感じはありますが、今回はざまぁがメインの作品ではありません。もしかしたら、このキャラも更生していい子になっちゃったりする可能性もあります。(このあたり、現時点ではどうするか展開考えていないです)

(完)イケメン侯爵嫡男様は、妹と間違えて私に告白したらしいー婚約解消ですか?嬉しいです!

青空一夏
恋愛
私は学園でも女生徒に憧れられているアール・シュトン候爵嫡男様に告白されました。 図書館でいきなり『愛している』と言われた私ですが、妹と勘違いされたようです? 全5話。ゆるふわ。

癒しの聖女を追放した王国は、守護神に愛想をつかされたそうです。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 癒しの聖女は身を削り激痛に耐え、若さを犠牲にしてまで五年間も王太子を治療した。十七歳なのに、歯も全て抜け落ちた老婆の姿にまでなって、王太子を治療した。だがその代償の与えられたのは、王侯貴族達の嘲笑と婚約破棄、そして実質は追放と死刑に繋がる領地と地位だった。この行いに、守護神は深く静かに激怒した。

虐げられたアンネマリーは逆転勝利する ~ 罪には罰を

柚屋志宇
恋愛
侯爵令嬢だったアンネマリーは、母の死後、後妻の命令で屋根裏部屋に押し込められ使用人より酷い生活をすることになった。 みすぼらしくなったアンネマリーは頼りにしていた婚約者クリストフに婚約破棄を宣言され、義妹イルザに婚約者までも奪われて絶望する。 虐げられ何もかも奪われたアンネマリーだが屋敷を脱出して立場を逆転させる。 ※小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。

【完結】婚約破棄された私は昔の約束と共に溺愛される

かずきりり
恋愛
学園の卒業パーティ。 傲慢で我儘と噂される私には、婚約者である王太子殿下からドレスが贈られることもなく、エスコートもない… そして会場では冤罪による婚約破棄を突きつけられる。 味方なんて誰も居ない… そんな中、私を助け出してくれたのは、帝国の皇帝陛下だった!? ***** HOTランキング入りありがとうございます ※こちらの作品はカクヨムにも掲載しています

処理中です...