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しおりを挟むそんなある日、この国の王太子であるビジェイから求婚されることになった。
「君のような妹思いで心優しい令嬢は、生まれて初めて見た。ぜひ、私の婚約者になってほしい」
「……申し訳ありません」
「なぜ、そんなにあっさりと断るんだ?」
「妹との時間がなくなるのが嫌なんです」
ジャイニは、息を吸うのと同じくらい、あっさりと考えることなく、答えは決まっているかのように断った。
そう、あっさりと王太子との婚約よりも妹が大事だと断ったのだ。
「え? 王太子からの婚約の話を断ったんですか?!」
「そうよ。あなたの方が、私には大事だもの」
「……」
そんなことをケロッと言う姉にシータは、ぎょっとした。それだけではない。絶対に面倒なことになるとシータは思ったが、その通りになるのも、すぐだった。
シータが、思っていた通りに王太子に目の敵にされることになったのだ。
王太子からの求婚をあっさり断るジャイニもどうかしているが、それをシータのせいにするビジェイも、どうかしている。
そう思うシータは、悪くないはずだ。
「お前のようなのが、ジャイニのような素晴らしい令嬢の妹だから、私との婚約を拒むんだ! 全て、お前のせいだ! わかっているのか。お前は、完全にお荷物にすぎないんだぞ」
「……」
シータは、ビジェイはジャイニのいないところで、責め立てられることになった。ジャイニがいる時にビジェイが現れることはない。
ジャイニがいなくなった途端を見計らったように現れるビジェイに暇なのだろうかとシータは、思って残念な者を見る目をして見てしまったのは、仕方がないと思う。
ビジェイは、王太子なのだから色々と忙しいはずだ。なのにこうして、婚約を拒まれて、受けてもらえないのが、シータのせいだと日に何度も言いに現れるのだ。
暇なのではないかと思われても無理ないと思うのだが、そんな失礼なことを思うのは、シータくらいしかいないようだ。
というか、何気に姉とはお似合いな思考をしているとシータは思って見ていた。
それだけでなく、ジャイニのところにも姿を見せて、婚約の話を受けてもらおうともしているようだ。本当に暇すぎやしないだろうか。
他の令嬢からは、いつものようにシータは勘違いされたことを言われていた。
「本当にジャイニ様が、可哀想だわ」
「本当よね。あんなのが、妹だなんて残念すぎるわ。あんなに完璧な令嬢の唯一の汚点が、あんな妹だなんて」
「……」
これみよがしにシータに聞こえる声で、そんなことを言われることが増えた。
ビジェイが、休み時間ごとにどこからともなく現れて、怒鳴り散らすのを疑問に思う者はいない。側近の人たちの姿が見えないから、彼らが執務をしているのではなかろうか。彼らも大変だなとシータは思っても、他の人たちがそれを話題にしているのを見聞きしたことはなかった。
そこまですることをしているのは、全てシータのせいとばかりにシータだけが標的となっていた。おかしな状況が続いていた。
それが面倒くさくなって、学園を休みたいと思っても、ジャイニが休めば側に居続ける。具合が悪い時に休んだ時も、シータの部屋にずっといて、全然休めなかったくらい、ジャイニは看病に向いてもいなかった。
何ならシータは、スキップして授業を姉と同じものを受けるくらい頭がよかったりするのだが、それをしないのは学園でもずっと姉と一緒なことに耐えられないからに他ならない。
子供の時は、心配だからと部屋も一緒だった頃があった。それは、手のひらを大怪我した後の頃だ。シータの怪我が治るまで世話を自分がやると張り切っていて、その間シータは苦痛でしかなかった。四六時中姉と一緒では、シータの気が休まらない。
手のひらの大怪我が治ってからは、別々の部屋となったが、世話をすると言った時も、ジャイニはシータがしてほしいことをしてはくれない。
シータに痛いかと聞いて来たり、ジャイニが好き勝手に話すのを聞いているだけだ。あの時は痛いのと怪我のせいで熱を出して横になって、大人しく休んでいたかったのにジャイニに付き合わなければならなくて、本当に最悪だった。
王太子との婚約の話を素っ気なく断り続けるジャイニのいないところで、繰り広げられる罵詈雑言の数々。その間も、シータはできる努力をやめることはなかった。頑張る目標が他にあったからこそ、シータは気を変にすることはなかった。
ビジェイが火付け役となって、酷くなる一方となっていたが極めつけに両親までもが、こう言い始めた。
「シータ。修道院に入ってくれないか?」
「え……?」
シータは、その言葉に目を丸くした。
「ジャイニが、王太子と婚約したくない理由を知っているでしょう? お前の世話で忙しいからって、ずっと断っているのよ」
「……」
それにシータは、眉を顰めずに入られなかった。一度断られたくらいで諦められなかったビジェイは、あれからずっと婚約してくれと言って来ているようだ。シータだけにではなく、姉に対してもしつこかったようだ。
「お前が、修道院に入れば、お前の世話にジャイニが追われることはなくなる」
「……」
シータのことを邪魔者扱いにしたのは、いつものことだ。それよりも、修道院という言葉にシータが思ったことと言えば、その手があったか!だったことに気づく者はいなかった。
そのせいで、両親はグチグチとシータに嫌味なことを言っていたが、シータはそれを全く聞いてはいなかった。
それこそ、やっと1人になれるチャンスが来たとばかりに内心で喜んでいたことに誰も気づいていなかった。
この家の中の使用人も、シータの気持ちをわかってくれる者はいない。みんなジャイニの将来を台無しにしようとしている存在と思っているようで、シータの扱いはこの家の中でも、あまり良くはない。
そんなこと知らないジャイニは着替えて、部屋からやって来て心配そうに妹を見た。いつもと違うように見えたのだろう。
シータは、内心で狂喜乱舞するほど、喜んでいた。でも、そんなことをここですれば頭をおかしくしたと思われるだけなため、今後のためにも平然といつもと同じようにしようとしていた。
でも、隠しきれない喜びが溢れ出していたのは、仕方がないと思う。
「シータ。どうしたの?」
喜びをひた隠しにしていることにも気づかないジャイニは、心配そうにシータを見ていた。
「……お姉様」
「なぁに?」
「私、修道院に行こうと思うの」
流石に姉は、そこまで来ることはないと思っていた。だから、名案だと思ってシータは喜んでいた。
他にも準備していることはあったが、修道院でちょっとのんびりしてからでも、そちらに行くのは大丈夫なはずだ。
駄目なら、修道院に行くふりして、準備していたことを実行すればいい。そんなことを頭の中で考えていた。
「そう」
「……」
シータは、姉の言葉に内心でガッツポーズをした。流石に着いては来ないのだと思って安心したからだ。
さっさと家を出るべきだったが、修道院は思いつかなかった。シータは、別のことを計画していた。
だが、両親の提案に乗ることにしたのは、この家と縁を切れると思ったからに他ならない。
もう、姉と四六時中一緒にいようとすることはなくなるはずだ。だが、姉はシータや両親、使用人たちと違う答えを口にした。
「なら、私も修道院に行くわ」
「え?」
そうと決まればとばかりにジャイニは、荷物をまとめるべく部屋に戻ろうとした。
それにシータだけでなくて、それを聞いたみんながポカーンとした。
すぐにシータは、頭を抱えたくなった。違う。そうじゃないと言いたかったが、言えなかった。言ったところで、この姉には通じはしないだろうことがわかったからだ。
この姉は、何が何でも妹の側にいる気だ。
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