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しおりを挟む私の名前は、ルクレツィア・オルランディ。伯爵家の娘で、上に兄姉がいて、下に双子の弟妹がいる真ん中に生まれた。
兄は美形で、文武両道な父によく似ていて、令嬢たちにモテている。
姉は物凄く美人で、母によく似ている。短所は料理が全くできないことだ。でも、頭はとてもいい。なのに料理になるとダークマターを生み出す。その被害者は、身内以外には出ていないから他所の面々、特に子息たちは姉のことを婚約者にしようとしている。そのさまは、花に群がる虫のようだ。
弟妹たちは、いつも元気いっぱいで楽しそうにしていて、笑顔が眩しい子たちだ。
そんな兄弟たちが、上にも下にも個性的でしっかりした人間ばかりの中で、私の特技と言ったら……。
「あら、ルクレツィア。ここにいたのね」
「なんだ家にいたのか」
「ルクレツィアねぇ、いつ、帰って来たの?」
なんてことをよく言われるが、どのパターンの時も私は、家にいた。どこかに出かけていたわけではない。大概、そこにいる。
悲しいかな。私には存在感というものがないらしい。残念ながら、両親にすら私の気配は全くないと思われている。
何なら護衛騎士であり、騎士団長をしている父にすら驚かれるほどだ。気配に物凄く敏感らしいが、そんな父を唯一驚かせられる存在が私らしい。
それを父に聞いたのか、騎士団の人たちにコツを聞かれたりしたことがある。はっきり言ってやりたい。そんなものはない。
普通に息をしているだけで、いないかのようにされるのだ。まぁ、そんな私に婚約者ができるわけもなく、同い年の令嬢が次々に婚約していく中で、私は修道院に行く覚悟をした方が早い気がしてならなかった。
騎士団の人にそんなことを言ったら、色々心配されていたはずだが、そうはならなかったのは、私が言わなかったからだ。何が悲しいかな。普通にしているだけで、そうなっているのを暴露しなくてはならないのか。
だから、騎士団の人たちはコツを教えてくれないのに何やら不満そうにしているようだが、そんなの知ったことじゃない。
知ったことじゃないけど、父の部下だ。気を悪くさせすぎるわけにもいかず、もてなすために色々しているが、父にはやめろとも言われず、多分ギリギリセーフというやつなのだろう。
そもそも、そんなことに悩んでいることすら誰にも気づいてもらえていないのだ。そんな話をしたところで、話を振られた方が困るだけだろう。
それこそ、存在感の出し方なんてあるのだろうか?
母のようにしていればいいのかもしれないが、あんなに真似ていられない。我が家の例外中の例外だ。
だからといって婚約することを完全に諦めているかと言うとそんなことはない。あわよくばできないかと思っている中で、幼なじみが婚約をした。羨ましすぎる。
「マルティナ。おめでとう」
「ありがとう。ルクレツィア」
幼なじみは、とても要領のよい令嬢で、私とは全然違う。存在感が、どこにいてもはっきりしている令嬢だ。……その言い方も変だが。
でも、姉のジュリエッタ・オルランディは、マルティナ・クレスピのことが好きではないようだ。なぜ、そう思ったかというと……。
「あの令嬢が、王太子と婚約するなんて、世も末ね」
「……」
そんなことを言っているのを聞いてしまったからだ。もっとも、それを誰かに聞かせる気はなかったはずだ。誰もいないと思って呟いたようなのだ。
私は、その時ほど存在感がないことを色々思ってしまった。
幼なじみのことを好きではないと思っていたけど、嫌っているというか。嫌味なことを姉が言うのを聞くことになってしまい、それに思いっきり幻滅してしまったのだ。あんな言い方をするとは思っていなかったから、本当にショックでならない。
それを聞いて以来、姉と顔を合わせづらくて、誰ともできれば会いたくないなと思っていたら、みんなに気配を感じられなくなって、益々無視されることになったかというとそうはならなかった。
ただ単に風邪を引いてしまい、私は寝込むことになった。そうなるとありがたいかな、家族は何かと心配してくれた。
「ルクレツィア、大丈夫か?」
「へいき」
兄が心配そうに様子を見に来てくれたのが一番多かった。どこにいるかがはっきりしていたのがよかったのか。部屋にそろ~と現れて、熱でぼんやりしているのを見て、眉を顰めて辛そうにしていた。
麗しい兄にそんな風に心配されるのが、私でなくて他所の令嬢なら、完全に勘違いしているはずだ。
でも、私は妹だ。兄にとっては大事な妹ということは、今回のことでよくわかった。それは、嬉しいことでしかなかった。
弟妹たちがお見舞いだと言って絵を描いてくれたりした。これまた、元気いっぱいの双子らしい絵だった。
「ルクレツィアねぇ、早く良くなってね」
「ありがと」
流石に弟の好きな虫を捕まえて持って来たのは丁重に断った。メイドたちが悲鳴をあげていたが、私とて悲鳴をあげたかったが、そんな元気なかった。
悲鳴を聞いて男性の使用人がすっ飛んで来て、虫は弟の部屋に置かれることになった。物凄く納得いかない顔を弟はしていたが、こればっかりは譲れない。あんなの見て元気にはなれない。気持ち悪くて仕方がない。
妹は庭の薔薇を引っこ抜こうとして、手を棘だらけにしたらしく、泣きながら現れたのにもびっくりした。
「とっても、きれいだから、ルクレツィアねぇのお部屋にいいかと思ったのに」
ぐすぐすと泣きながら、そんなことを言われて、私は包帯の巻かれた手を心配した。
何なら、弟も変わった虫を見つけたと薔薇に突っ込んで大変だったようだが、それでも私が元気になるより双子の方が元気になる方が早かった。
もう、お見舞いの品は十分だと言ったのもあり、今度はその日の話を聞かせてくれるようになった。……寝かせてくれと思ったが、私の気配がしっかりあるのが嬉しかったようだ。
朝と夜になると父が心配そうに顔を覗かせたりしたが、そんな中で不思議と姉の姿を見ることはなかった。
母が姿を見せないのは、いつものことだ。風邪を引いた者の側に寄って来ないのだ。そんなことをして、風邪を引きたくないのだとか。
だから、家族が具合を悪くしたと聞くと決して部屋に近づかないのが、母だ。
それは昔かららしく、弟妹たちですら、母はそういう人と思っていて、よほどの用事がないと話しかけたりしない。
それが我が家の当たり前になっている。
しばらくして、母はともかく、姉を見かけないことに首を傾げていたが、どうしても気になって兄に聞くことにした。
「お姉様は?」
「ジュリエッタなら、留学しに行った」
「え? 留学……?」
そんなこといつ決まったのだろうか。私は少なくとも、相談はともかく、話を聞いたこともなかった。すると兄いわく。
「傷心したから、新しい出会いを求めて留学することにしたようだ」
「傷心……? え、お姉様。失恋したの??」
母親譲りで物凄く美人な姉が、失恋したと言うではないか。そんなの1番似合わない。姉を選んで、他の令嬢が失恋したのなら、よくわかる。そんなことしょっちゅうあると言われても、私は納得できる。だが、それが姉がしたと聞いたことで、私は首を傾げずにはいられなかった。
そんなこと天地が逆転するほどありえないことだと勝手に思い込んでいた。
「ジュリエッタは、王太子の婚約者になるはずだったんだ。それが、直前になってお前の幼なじみと婚約することになった」
「そんなこと、初めて聞きました」
兄は、熱が下がったら話すと言ったが、中途半端にされた方が熱が下がりそうもないと言って無理やり話を聞くことになった。
それによって、更に熱が上がることになって家族みんなに迷惑をかけることになってしまったのは、本当に申し訳ない。
でも、姉も酷い。そんなことにしたのなら、話してくれていてもよさそうなのだが、私が幼なじみと仲良くしているから言いにくかったのかもしれない。
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