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レオノーラは、婚約する気はなかった。留学中は勉強がしたかった。友達ができれば、それで満足だった。
なのになぜか、王太子に見初められることになって、トントン拍子で婚約することになった。
それもこれも、王太子に全く興味がないところを彼が気に入ったからに他ならない。婚約してからも、レオノーラは全く変わっていない。
「レオノーラ」
「はい」
「王太子妃の勉強、そんなに楽しいか?」
「えぇ、とても」
「そうか」
王太子は、楽しそうに夢中で勉強するレオノーラに複雑な思いを抱いていた。
こんなにも側にいるのに緊張どころか。王太子に名を呼ばれても、間近で微笑んでも、頬も染めることがないレオノーラが、勉強をしている時に王太子が向けてほしいキラキラした瞳を向けられるのだ。
そんな経験、これまでなかった。そこが気に入って婚約したのだが、こうも思っている通りにならない令嬢がいることにイライラするなんてことはなかった。
こんな面白い生き物が世の中に入るのかと思って楽しくて仕方がなかった。
「あら、あれをごらんになって」
「王太子殿下とレオノーラ様ね。本当にお似合いね」
王太子は、この国で一番のイケメンで、レオノーラは美人のため、並ぶと美男美女で見惚れる者が多かった。
王太子がレオノーラのことをそれはもう見たことないほど、うっとりとした目で見ているのは、いつものことだ。それで平然としているレオノーラのことを尊敬している者も少なくなかった。
「王太子が、あんな風に女性を見るなんてね」
「よほどのことよね」
「それで自惚れもしないところが、レオノーラ様よね」
王太子とお似合いなのは、1年以上前まではリーヴァイと婚約していた令嬢こそ相応しいと思っていたが、あんなことになってしまったのだ。
お似合いだと周りが思っていても、実際に色々あると見方が変わってしまう。王太子と修道院に入った令嬢が婚約していたから、リーヴァイとレオノーラが婚約していたかというとそれは誰にもわからない。
王太子は物凄いイケメンだが、すり寄ってくる女性を勘違いさせないようにずっとしていた。
でも、レオノーラには勘違いしてくれとばかりにしているのだが、レオノーラはそれらをものの見事にスルーしていた。ちょっぴり王太子が可哀想になるくらいのスルーっぷりだが、王太子がそれを気に病んではいないから周りは放置していた。
「レオノーラ様は、凄いわね」
「本当ね。私なら、あんな風にされたら、心臓がもたないわ」
「私もよ。殿下は素敵すぎるもの」
レオノーラは、ケロッとしていた。王太子のことで頬を染めるなんてことはなかった。ある意味、失礼な態度をとっているのだが、そんなところに益々惚れられることになるなんて気づくことはなかった。
レオノーラは王太子に溺愛され、周りからも羨ましがられながら、幸せな毎日を送ることになった。そんな彼女が、アドレイドのことを思い出すことも、迷惑をかけられた子息たちのことも、どうでもよくなっていた。
それこそ、最初に双子の片割れが、自分が主人公なのだと勘違いしたことから始まり、本来始まるはずだった物語が始まらないまま、レオノーラはやらなければなるないことに夢中になってしまっていて、それに自分より夢中になっていることが可愛らしいと思いつつ、ちっとも見向きもしないレオノーラに益々惚れ込むことになった王太子に大事にされる一生を送った。
レオノーラは知らず知らずのうちに一番幸せになることになったのだが、そうなるきっかけとなった片割れのことを思い出すことはなかった。あまりになさすぎて、周りもレオノーラにつられるようにアドレイドのことを忘れてしまっていた。
何なら、アドレイドもレオノーラと会っても、昔のようにそっくりなところがなくなっていて、誰だかわからなかったほどだ。
最も、レオノーラの方も記憶がちゃんとあったとしても、片割れだとはわからなかったはずだ。その日その日を生きるのに必死になっておるかと思いきや手っ取り早く誰かの愛人にでもなろうとした彼女は、自分の可愛らしさを過信し過ぎて旦那にしてはならない類の人を選んでしまった。それによって、気軽に出歩くこともできなくなっていたため、以前のような可愛らしさは陰っていた。
同い年には見えないくらいになっていて、可愛らしさが損なわれ始めたことで、捨てられそうになっているのに勘付いて、必死になる姿は昔の面影なんてなくなっていた。
もはや、私が主人公なんて言ってはいられなくなっていた。
オリヴァーやリーヴァイは、レオノーラに関わって人生を台無しにしたと思ったようだが、リーヴァイの元婚約者の令嬢は修道院に入ってから、別の国から怪我をして瀕死の状態で助けられた男性とのロマンスが始まり、婚約することになって幸せになる未来が待っていた。
リーヴァイと添い遂げるよりずっと幸せになったが、リーヴァイは未練たらたらな人生を送ることになっただけでは終わらなかった。
王太子にレオノーラのことで嫌われてしまい、散々すぎる日々を憂鬱に過ごすことになったのだ。それもこれも、レオノーラのことを利用できたらと考えてしまったがためだったが、本人はそのことに気づくことはなかった。
そんな風に関わった人たちが周りにいることも知らないまま、レオノーラの笑顔が昔のように曇ることはなくなって、溺愛してくる婚約者に幸せにしてもらうことになった。
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