私だけの王子様を待ち望んでいるのですが、問題だらけで困っています

珠宮さくら

文字の大きさ
4 / 65

しおりを挟む

たまに夜会に行くのにルシアたちの両親はこっそりと着飾ってはいたようだが、子供たちを心配して早めに戻って来ていた。何が心配なのかは言うまでもない。バレリアが、ルシアに何かしていないかと気が気ではいられないからだ。使用人たちが目を光らせていようとも、バレリアは周りが思いもつかないことをしでかすのだ。そんなことをしそうなのを警戒していて、夜会に出かけても楽しめるはずもなく、そのうちバレリアの婚約者が中々決まらないせいで、その話をされることを避けるために出席しなくなっていた。

それが、この日の朝になって普段はしないようなおめかしをすることになったのだ。珍しく朝から楽しそうにしている母に身支度を整えてもらうことになったルシアは、ずっと笑顔だった。

父にも、おめかしした姿を見てもらい、ついさっき可愛いと褒められたばかりだった。そのため、ルシアは不自然な動きをしながらも、本人は至って約束を守っていい子にしているつもりでいた。着飾った格好の時は、いい子にしていると約束したことで、服を汚さないようにしながら、お淑やかにもしなければと色々といっぱいいっぱいに考えすぎているせいで、ぎくしゃくした動きとなっていたが、そんなつもりのないルシアは大真面目だったが、周りはそんなルシアを見て微笑ましそうにしていたことにも、ルシアは気づいてはいなかった。そんな風に周りを見る余裕がなかったのだ。

そこまでは、家族団欒を絵に描いたように和やかなものだった。使用人たちも、素敵な家族だと眩しいものを見る目をして微笑ましそうに見守っていた。

そこにルシアの一回り近く歳の離れた姉のバレリアがやって来たことで、何やらピリピリとしたような雰囲気になったのは、すぐのことだった。

使用人たちも、バレリアを見るなり笑顔を引っ込めて無表情になっていた。

そうなるのも、以前にこんなことがあったからだ。笑顔なだけでも、バレリアは……。


「何を笑ってるのよ」
「いえ、そんなつもりは……」


機嫌が悪いと笑顔1つで、くどくどと文句を言われて、他の仕事ができなくなるのだ。バレリアの気が済むまで、言われ放題になるのだ。

笑っているのと笑われているのは違うのだが、バレリアが当たり散らせて鬱憤を晴らせるのなら、きっと誰でもよかったのかも知れない。誰でも良くて、その人がどうなろうとバレリアが気にかけることはないのだ。

以前、何かと目をつけられていた使用人が侯爵家にはいた。彼女は集中的にバレリアから嫌味を言われ続けることになり、精神的におかしくなってしまって、結婚をすることを理由に辞めてしまったが、その際は両親はバレリアが彼女に何をしていたかを執事や他の使用人たちに聞いていて、給料のみならず、結婚のお祝いにと多めにご祝儀を渡したこともあったようだが、そんなことをバレリアも、ルシアも知らなかった。

ただ、ルシアはその使用人が暗い顔と悲しげな顔をしていることを気にしていた。結婚するから辞めると聞いた時には、彼女の絵を描いていた。

まだ、6歳になった頃だっただろうか。ルシアは、彼女にこんなことを言いつつ、絵と共に渡して彼女に抱きついていた。


「いいこにしてたら、おうじさまにあえるのよ」
「え?」


突然、ルシアがそんなことを言い出して、その使用人はきょとんとしていた。

抱きついていたルシアを至近距離で見つめたことは、その時が初めてではなかったが、彼女はまるで違う人物を見ているような不思議な感覚に陥ることになった。


「っ!?」
「あなただけのおうじさま、みつけられてよかったね」
「ルシア様」
「しあわせになれるわ。かみさまが、みていてくれてるもの。だから、おうじさまにあえたんだから、しあわせになれないわけがないわ」
「っ、」


使用人は、ルシアであって別の誰かにそんなことを言われた気がした。そう神様の御使いに祝福されたような気がして感極まることになったのは、すぐのことだった。彼女は感激して大泣きしていた。その涙は、悔し涙の時とうってかわって、嬉し泣きをしていた。


「ルシア様、ありがとうございます!」


ルシアに何度もお礼を言って、ルシアが描いた絵を大事そうに抱えて去って行った。その笑顔は晴れ晴れとしたものだった。結婚が決まって仕事を辞めると言っていた彼女だが、ずっと浮かない顔をしていたのだ。それが嘘のようにスッキリした顔をして去る姿に使用人たちも、ホッとしていた。

だが、そんなことをした当の本人は、そんなことがあったことをケロッと忘れてしまったのは、すぐだった。

あの使用人が大泣きしていたが、何を言ったのかと両親に聞かれても、きょとんとするばかりで絵を描いて渡したとしか言わなかったのだ。


「ルシアの絵か」
「あんなに感激していたのなら、私も見せてもらえばよかったわ」


両親は、そんなことを思っていたようだが、ルシアがお絵かきに夢中になることは、それ以降なかった。

いい子にしていたら、王子様に会える。そんなことをルシアの周りで、彼女に言う者はいなかったのだが、ルシアがなぜか不意にそんな言葉が飛び出したことも、本人は覚えてはいなかったのだ。

時折、そんな風になることはあったが、それをおかしいと思い、ルシアに追求しようとする者はいなかったことで、ルシアも自分がおかしなことになっていることに全く気づいてはいなかった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約者は冷酷宰相様。地味令嬢の私が政略結婚で嫁いだら、なぜか激甘溺愛が待っていました

春夜夢
恋愛
私はずっと「誰にも注目されない地味令嬢」だった。 名門とはいえ没落しかけの伯爵家の次女。 姉は美貌と才覚に恵まれ、私はただの飾り物のような存在。 ――そんな私に突然、王宮から「婚約命令」が下った。 相手は、王の右腕にして恐れられる冷酷宰相・ルシアス=ディエンツ公爵。 40を目前にしながら独身を貫き、感情を一切表に出さない男。 (……なぜ私が?) けれど、その婚約は国を揺るがす「ある計画」の始まりだった。

転生した女性騎士は隣国の王太子に愛される!?

恋愛
仕事帰りの夜道で交通事故で死亡。転生先で家族に愛されながらも武術を極めながら育って行った。ある日突然の出会いから隣国の王太子に見染められ、溺愛されることに……

狂おしいほど愛しています、なのでよそへと嫁ぐことに致します

ちより
恋愛
 侯爵令嬢のカレンは分別のあるレディだ。頭の中では初恋のエル様のことでいっぱいになりながらも、一切そんな素振りは見せない徹底ぶりだ。  愛するエル様、神々しくも真面目で思いやりあふれるエル様、その残り香だけで胸いっぱいですわ。  頭の中は常にエル様一筋のカレンだが、家同士が決めた結婚で、公爵家に嫁ぐことになる。愛のない形だけの結婚と思っているのは自分だけで、実は誰よりも公爵様から愛されていることに気づかない。  公爵様からの溺愛に、不器用な恋心が反応したら大変で……両思いに慣れません。

「地味で無能」と捨てられた令嬢は、冷酷な【年上イケオジ公爵】に嫁ぎました〜今更私の価値に気づいた元王太子が後悔で顔面蒼白になっても今更遅い

腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢クラウディアは、婚約者のアルバート王太子と妹リリアンに「地味で無能」と断罪され、公衆の面前で婚約破棄される。 お飾りの厄介払いとして押し付けられた嫁ぎ先は、「氷壁公爵」と恐れられる年上の冷酷な辺境伯アレクシス・グレイヴナー公爵だった。 当初は冷徹だった公爵は、クラウディアの才能と、過去の傷を癒やす温もりに触れ、その愛を「二度と失わない」と固く誓う。 彼の愛は、包容力と同時に、狂気的な独占欲を伴った「大人の愛」へと昇華していく。

家族から冷遇されていた過去を持つ家政ギルドの令嬢は、旦那様に人のぬくもりを教えたい~自分に自信のない旦那様は、とても素敵な男性でした~

チカフジ ユキ
恋愛
叔父から使用人のように扱われ、冷遇されていた子爵令嬢シルヴィアは、十五歳の頃家政ギルドのギルド長オリヴィアに助けられる。 そして家政ギルドで様々な事を教えてもらい、二年半で大きく成長した。 ある日、オリヴィアから破格の料金が提示してある依頼書を渡される。 なにやら裏がありそうな値段設定だったが、半年後の成人を迎えるまでにできるだけお金をためたかったシルヴィアは、その依頼を受けることに。 やってきた屋敷は気持ちが憂鬱になるような雰囲気の、古い建物。 シルヴィアが扉をノックすると、出てきたのは長い前髪で目が隠れた、横にも縦にも大きい貴族男性。 彼は肩や背を丸め全身で自分に自信が無いと語っている、引きこもり男性だった。 その姿をみて、自信がなくいつ叱られるかビクビクしていた過去を思い出したシルヴィアは、自分自身と重ねてしまった。 家政ギルドのギルド員として、余計なことは詮索しない、そう思っても気になってしまう。 そんなある日、ある人物から叱責され、酷く傷ついていた雇い主の旦那様に、シルヴィアは言った。 わたしはあなたの側にいます、と。 このお話はお互いの強さや弱さを知りながら、ちょっとずつ立ち直っていく旦那様と、シルヴィアの恋の話。 *** *** ※この話には第五章に少しだけ「ざまぁ」展開が入りますが、味付け程度です。 ※設定などいろいろとご都合主義です。 ※小説家になろう様にも掲載しています。

溺愛王子の甘すぎる花嫁~悪役令嬢を追放したら、毎日が新婚初夜になりました~

紅葉山参
恋愛
侯爵令嬢リーシャは、婚約者である第一王子ビヨンド様との結婚を心から待ち望んでいた。けれど、その幸福な未来を妬む者もいた。それが、リーシャの控えめな立場を馬鹿にし、王子を我が物にしようと画策した悪役令嬢ユーリーだった。 ある夜会で、ユーリーはビヨンド様の気を引こうと、リーシャを罠にかける。しかし、あなたの王子は、そんなつまらない小細工に騙されるほど愚かではなかった。愛するリーシャを信じ、王子はユーリーを即座に糾弾し、国外追放という厳しい処分を下す。 邪魔者が消え去った後、リーシャとビヨンド様の甘美な新婚生活が始まる。彼は、人前では厳格な王子として振る舞うけれど、私と二人きりになると、とろけるような甘さでリーシャを愛し尽くしてくれるの。 「私の可愛い妻よ、きみなしの人生なんて考えられない」 そう囁くビヨンド様に、私リーシャもまた、心も身体も預けてしまう。これは、障害が取り除かれたことで、むしろ加速度的に深まる、世界一甘くて幸せな夫婦の溺愛物語。新婚の王子妃として、私は彼の、そして王国の「最愛」として、毎日を幸福に満たされて生きていきます。

突然決められた婚約者は人気者だそうです。押し付けられたに違いないので断ってもらおうと思います。

橘ハルシ
恋愛
 ごくごく普通の伯爵令嬢リーディアに、突然、降って湧いた婚約話。相手は、騎士団長の叔父の部下。侍女に聞くと、どうやら社交界で超人気の男性らしい。こんな釣り合わない相手、絶対に叔父が権力を使って、無理強いしたに違いない!  リーディアは相手に遠慮なく断ってくれるよう頼みに騎士団へ乗り込むが、両親も叔父も相手のことを教えてくれなかったため、全く知らない相手を一人で探す羽目になる。  怪しい変装をして、騎士団内をうろついていたリーディアは一人の青年と出会い、そのまま一緒に婚約者候補を探すことに。  しかしその青年といるうちに、リーディアは彼に好意を抱いてしまう。 全21話(本編20話+番外編1話)です。

【完結】旦那様に学園時代の隠し子!? 娘のためフローレンスは笑う-昔の女は引っ込んでなさい!

恋せよ恋
恋愛
結婚五年目。 誰もが羨む夫婦──フローレンスとジョシュアの平穏は、 三歳の娘がつぶやいた“たった一言”で崩れ落ちた。 「キャ...ス...といっしょ?」 キャス……? その名を知るはずのない我が子が、どうして? 胸騒ぎはやがて確信へと変わる。 夫が隠し続けていた“女の影”が、 じわりと家族の中に染み出していた。 だがそれは、いま目の前の裏切りではない。 学園卒業の夜──婚約前の学園時代の“あの過ち”。 その一夜の結果は、静かに、確実に、 フローレンスの家族を壊しはじめていた。 愛しているのに疑ってしまう。 信じたいのに、信じられない。 夫は嘘をつき続け、女は影のように フローレンスの生活に忍び寄る。 ──私は、この結婚を守れるの? ──それとも、すべてを捨ててしまうべきなの? 秘密、裏切り、嫉妬、そして母としての戦い。 真実が暴かれたとき、愛は修復か、崩壊か──。 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 いいね❤️励みになります!ありがとうございます!

処理中です...