私だけの王子様を待ち望んでいるのですが、問題だらけで困っています

珠宮さくら

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ルシアが、階段から落ちる少し前のことだ。

その日の始まりは、ルシアにとって素敵なものだった。まさか、その素敵なままで、その日が終わればいいなと多くの者が思っていたことをルシアは知りもしなかった。

その日の予定を何も知らなかったのは、ルシアだけだったとも知りもしなかったのだ。


「おかあさま、どうして、おめかしするの?」


ルシアは、自分の部屋でそんなことを母親に聞いていた。母親は、久々に末っ子の髪を梳いていて、とても嬉しそうにしていた。

ここしばらくは、侯爵家の家の中ではそわそわしているようなピリピリしているような妙な感じは、ルシアも肌で実感はしていた。

だが、ルシアは数ヶ月前に7歳となったばかりで、この家の中で何が起こっているのかがよくはわかっていなかった。

他と違うこともわかっていなかったのは、ルシアの世界がこの家と庭までしか、まだないようなものだったからだ。

そして、ルシアにとって家族と使用人たちと侯爵家に時折、出入りする人しか知っている人間はいなかった。

そのため、外の世界が、どんなに素晴らしいのかも、どんなに大変なことかも、全てが未知数すぎるというか。ルシアには想像もできていなかった。

この時のルシアには、どこか行ったことがないところへ行きたいという気持ちもなかった。

そんな中で、すくすくと成長していたルシアだったが、ルシアの姉のバレリアがいつにも増して凄く気難しくなっていく一方となっていた。

彼女は一回り近くルシアとは違う年の差のあるというのに妹に対して、不満があるとことあるごとにぶつけるのだ。


「こんなところにいないでよ!」
「っ、」
「本当に見てるだけでイライラするわね!」
「……」


彼女の言うこんなところとは廊下だったり、玄関だったりしていた。それこそ、家族なのだから、家のどこにいても問題などないはずなのだが、怒鳴り散らされてばかりいた。

それにルシアは、そこで遊んでいるわけでも、騒ぎ立てているわけでもないのだ。メイドと話しているだけで、邪魔だと言わんばかりにされるのだ。


「ルシア様、行きましょうか」
「うん」


そんなことが、ルシアの物心ついてから続いていた。

一回り近く違うというのに姉は、学園や他のところで思い通りにならないと決まってルシアに八つ当たりするようになっていたのだ。

バレリアの少し下の弟のアドルフィトのできがあまりにも良すぎるせいで、周りに色々言われるのにストレスがあったのかも知れない。

だが、そうだからと言っても、ルシアに八つ当たりするのもどうなのかと思うが、この家でストレス発散できるのがルシアが一番手頃だと思っているようだ。

何を言っても、他のように言い返せたいことをいいことに一方的に言うのだ。

ルシアにとって兄のアドルフィトがいる時は、それでも何とかなっていた。ルシアが意地悪いことばかりするのを見つけるたびに両親に告げてくれていたのだ。

流石に使用人が、それをやると更に騒ぎ立てられて、辞めさせるまで騒ぎかねないと思ってのことだ。

実際にバレリアは、面倒くさいことに物凄くしつこいのだ。他で思い通りにならない分、この家の中では思い通りになると思いたいのかも知れないが、家族は迷惑でしかなかった。

いや、ルシアは迷惑というか。よくわかっていない方が正しいかも知れないが。


(なんか、いやなことあったのかな?)


姉に何か言われるたび、そんなことを思うばかりで、姉に対して嫌な気持ちになるから会いたくないと思うこともなかった。

ただ、遊ぶ邪魔さえしなければ、それでいいかとルシアは思うばかりだった。


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