私だけの王子様を待ち望んでいるのですが、問題だらけで困っています

珠宮さくら

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(何、あれ)

ルシアは、兄の婚約者のマルティーナが何かと同じ子息とやたらといるのを見かけるようになったのだ。しかも、二人っきりで周りに人がいない状態で楽しそうにしているのを見て、眉を顰めずにはいられない光景が、そこにはあった。


(どうして、彼女が……?)


それは、ルシアの兄といるのではなかった。婚約者となら、いくら二人っきりで会っていてもいい。まぁ、妹としてはそれをやたらと目撃するのも嫌ではあるが、そうではなくて別の子息とよくいるのだ。

それが一度や二度ではなくて気になってしまい、ルシアは兄にそのことを聞いてみることにした。もしかすると兄は知らないのではないかと思っていたが、その反応はルシアが思っていたのと全然違っていた。


「あぁ、それは、伯爵家の子息クラウディオ・バルガスだな」
「お兄様のお知り合いですか?」
「マルティーナの幼なじみだ」
「幼なじみ……?」


(それで、あんなに近いの? それにしては……)


ルシアが、まるで婚約者のようにしているマルティーナを思い返して、気に入らないとムッとしてしまったのも、すぐのことだった。兄の婚約者が、そんなことをしていて気に入らないのも無理はない。

だが、アドルフィトは大したことがないようにこう続けた。


「兄弟同然で育ったらしい。私たちのように仲がいいようだ」
「……」


(だから? あの距離が許されるって言いたいわけじゃないわよね?)


兄の何でもないように言うのにルシアは、眉を更に顰めずにはいられなかった。血の繋がりがあってもなくとも、婚約した肉親の異性と学園のような目立つ場所で、やたらと二人っきりで過ごす理由にはならないはずだ。

ルシアが、じっと見ているとアドルフィトは不思議そうな顔をした。


「それが、どうした?」
「お兄様と婚約したのに幼なじみとはいえ、その子息と二人っきりで、よくいるのを見かけるのですが……」
「らしいな」
「……」
「だから言ったろ? 兄弟同然だと。ただの幼なじみ同士だ。ルシアが、そこまで気にすることはないさ」
「……」
「ルシアと同じことを周りもよく言うんだ。そんな心配など必要ないというのに。私にやっと婚約者ができたからって、そんなこと言われずとも、きちんと理解しているというのに」
「……」


(自己申告したから、平気って言いたいってこと? この人、婚約した途端、残念になった気がしてならないわ)


ルシアは、そんなことを言う兄にすっかり失望したのは言うまでもない。

なのにルシアが、自分に婚約者ができて妬いているとでも思ったようでアドルフィトは見当違いなことばかりを言うのだ。それにルシアは冷めた表情をするようになっていたが、兄はそれにすら気づいていなかった。









それから、しばらくして家族で食卓を囲む時のことだ。


「ルシア。何かあったか?」
「……」


父親に聞かれて、ルシアはそちらを見た。どうにも、ルシアが不機嫌な気がして気になったのだろう。

ルシアは、わざと不機嫌を隠さずにいたのだが、そんな問いかけに先に言葉を紡いだのは、アドルフィトが先だった。


「ルシアは、私に婚約者ができて不機嫌なだけですよ」
「あら、そうなの?」
「……」
「とても良さげな令嬢だからな」
「そうね。ルシアは、アドルフィトに懐いていたものね。お兄さんを取られたと思っても無理ないわ」
「……」


両親も、あの令嬢が気に入っているようだ。ルシアは冷めきった顔をしたまま、食事を続けていた。

7歳の頃も、そんな表情をしようと思えばできたが、あの頃は上手く隠していた。でも、今は取り繕う気は全くないため、あからさまにわかるような顔をやめることはしなかった。

何なら、やってられないとすら思っていた。そんなルシアにアドルフィトは、仕方がないと言わんばかりにこんなことを言った。


「ルシア。そんなに拗ねることないだろ」
「拗ねてはいません。幼なじみの子息と二人っきりでよく過ごしている婚約者を放置しているお兄様に呆れているだけです」
「だから、それは説明しただろ。蒸し返すな」
「……」


アドルフィトは、流石にくどいと思ったようだ。珍しく怒っていた。


(何度だって、言ってやるわ。おかしいのは、お兄様なんだもの)


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