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しおりを挟むそこから、アドルフィトが骨を折って婚約者となったマルティーナとクラウディオは、学園で見かけるたびに喧嘩をしているのを目撃することになった。
「今度は喧嘩しているのね」
「もう、みんなが相思相愛なのを知っているのにね」
「わざわざ、仲の悪いふりなんてすることないのに」
二人を見て、そんなことを言う者は多かった。すっかり、相思相愛で婚約したいがために強行突破しようとしていたことが本当のことだと思われていた。
だが、ルシアは……。
(彼の方は、格上の他国の令嬢との婚約の話が持ち上がっていたのに幼なじみと婚約することになったのが、不満みたいね。あちらの令嬢は物凄く美人だって噂されていたから、それがなくなって苛ついているんでしょうね。お兄様の元婚約者は、自分のことを好きだと思っていたのに美人の令嬢と婚約できなかったことで、苛ついている幼なじみに自分の方が迷惑しているって言いたいんでしょうね)
ルシアは、それこそ、元は優秀だったのに残念になったと兄を見て、更にはルシアもそのうちそうなるから大したことないと言われた仕返しに嘘の噂を流すことにしたのだ。
セレスティノも、その嘘を流すのに一役買っていたのは、兄の婚約が決まりそうになって、弟に散々自慢していて腹が立って仕方がなかったからだ。
「本当にお似合いですね」
「えぇ、私も、そう思って見ていました。喧嘩していても、やはり違いますね」
「そうですね」
不意にルシアに話しかけて来たセレスティノにそんなことを言っていた。
言葉通りではなくて、皮肉でしかないことにこの二人以外は気づいていない。どちらも、本気で喧嘩していることをよく知っていた。だが、周りと同様にそういう二人だからこそ、お似合いだと本気で思っていたりする。
(さて、問題はお兄様の新しい婚約者ね)
ルシアは、そんなことを思っていた。するとセレスティノは、何てことなさげにこんなことを言い始めたのだ。
「ところで、ルシア嬢。婚約する気はありますか?」
「え?」
「兄上の婚約の話が、私のところに来ているんですが、私としてはあなたと婚約したいと思っているんです。同い年や少し年上の令嬢とも会話が成り立ったことがないんですが、年下のあなたとなら会話が成り立たないということがないんですよね」
「それは、奇遇ですね。私も、難しい話をしているつもりはないのですが、先生すら困った顔をさせてしまっていて、簡単な話がどの程度なのかがわからなくて困っていたんです」
「あれは、専門知識がないと答えられませんからね。それにこの学園の先生は、そういうことに答えてくれる大人はいないようですから仕方がないですよ」
「もしかして、留学をお考えですか?」
「えぇ、ここでは中々本気になりづらいので。ルシア嬢もでは?」
「えぇ、本気になることは滅多にないので」
「私もです」
留学する前に婚約した方が利害が一致するとルシアとセレスティノは思うのも早かった。
トントン拍子で、ルシアとセレスティノは婚約することになり、二人は留学の権利を勝ち取るのもぶっちぎりだった。
二人とも、本気を出すために留学することにしたのだ。その時も、二人にとってはまだ本気ではなかったのだ。
それこそ、留学先でとんでもない逸材がやって来たと騒がれることになったが、ルシアとセレスティノが婚約していて、どこで見かけても仲睦まじくしている姿から入り込む隙はないと思われるまで早かった。
まぁ、中には気が変わるだろうと思って諦めの悪いのもいたが、そんな連中に二人は見向きもしなかった。
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