私だけの王子様を待ち望んでいるのですが、問題だらけで困っています

珠宮さくら

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婚約者となって数ヶ月が経っていた。二人は授業がある時も、ない時も何か二人で過ごしていた。家族と四六時中いても、苦痛になることもあったが、この二人はお互いが一緒にいないことの方が、しっくりくるのだ。


「あなたを初めて見た時に頼もしいという話をししたのを覚えていますか?」
「えぇ、しっかりと」


久々の休日にお茶をしていた時のことだ。

セレスティノが、懐かしそうにそんなことを言い始めたのだ。

ルシアは、そんな風に話されることにも随分と慣れた。ふと思い出したかのようにセレスティノは何気なく話すのだが、その内容がかなり重要なことになることにルシアは最初の頃に気づいたことだった。


(忘れられるわけがないわ。あとにも先にも、前世ですら、頼もしいなんて言われたことないんだもの)


ルシアは、そんなことを思ってセレスティノが何を言うのだろうかと意識を集中した。


「実はあの時に一目惚れしたんですよ」
「え……?」


一目惚れと聞いて、物凄く驚いてしまった。ルシアは何気にこうして驚かされるが、その驚きはいつもよりも大きかった。

そして、ルシアはふと自分が一目惚れだと思っていた7歳の頃のことを思い出して、何とも言えない顔をしかけてしまった。


(あれは、一目惚れじゃないわ。ただの勘違いだもの。でも、あんな風に勘違いじゃなくて、一目惚れしてくれていたってことよね)


そう思うとルシアは嬉しく思ってしまった。王子様うんねんのことは、まだ引っかかりがあるが。

そんなルシアに気づかないまま、セレスティノは話を続けていた。

気づかれていたら大変だったろうが、セレスティノは昔を懐かしむのに忙しいようでルシアはホッとしていた。


「頼もしくて、まるでおとぎ話の王子のようだと思ってしまったんです。あの頃は、王子に憧れがあって、自分がなるのは難しいと思ってしまっていて、そんな風な令嬢がいないものかと思っていたんですよね」
「……」


ルシアは、目をパチクリさせた。そして、ふと7歳の頃に前世を思い出した時のことを思い返した。もう、忘れかけていたというか。すっかり、それにそぐわない人生を歩むようになっているようで、思い出すと悲しくなってしまうルシアは、忘れたくとも忘れられないことをぽつりと呟いていた。


「“いい子にしていたら、神様がちゃんと見ていてくれて、相応しい王子様を寄越してくれる“」
「え?」
「昔、そんなことを教えてくれた人がいたんです。だから、常にいい子でいれば、必ず王子様がやって来てくれると思っていました」


(忘れようとしたけど、心のどこかで生まれ変わってもなお覚えているくらいだもの。私だけの王子様に会いたくて仕方がなかったのよね)


ルシアは、ふとそう思って笑った。それは、とても懐かしそうな儚いものだった。

セレスティノは、それを見ていたたまれない気持ちになっていた。


「ルシア」
「でも、そうですか。ふふっ、私が王子様。……私でも、誰かの王子様になれるんですね」
「っ、」


とても楽しそうに笑うルシアにこの日、セレスティノは二度目の一目惚れをした。

一度目の時は、ルシアのことを頼もしく見えて王子様のようだと思っていた。

でも、二度目は自分だけのお姫様が、そこにいたのだ。

セレスティノは、そんなことを話すつもりで一目惚れの話を始めたわけではなかったが、伝えなくてはならないと言葉を紡いでいた。


「ルシア。君は、私の、私だけのお姫様だ」
「セレスティノ……?」


なぜか、セレスティノがルシアの側にしゃがみ込んだのだ。ルシアは、話の展開についていけずにきょとんとしていた。

自分が王子様だと思って笑っていただけなのにお姫様だと言われて、そんな顔をするのは無理はない。


「今の笑顔に二度目の一目惚れをした」
「二度目の一目惚って、言い得て妙ね。でも、ふふっ、そうですね。やっぱり、お姫様の方がいいわ。そうなるとあなたが、私の、私だけの王子様なのですね」
「そうなれているのかな?」
「勿論です。お姫様にしてくださったので」
「そうか。君の王子になれたのなら、この上なく嬉しいよ」


ルシアたちは、そこから以前にも増して幸せそうにしているのを目撃されるようになった。

そんなことがあってから、留学期間を終えて自国に戻ってから、仲睦まじくしている姿を目撃されることになり、色んな人たちに羨ましがられるようになるほどだった。


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