文字サイズ
小
中
大
特大
2 / 10
2
ヴァリャは、ホームステイ先に着くなり、ぶっ倒れることになった。その前に人の顔を見て大泣きしたのだ。これからお世話になるというのにとんでもなく迷惑なことばかりをしたものだ。
だというのにそこから、ヴァリャは母の従妹にあたるチャクラバルディ侯爵夫人に甲斐甲斐しく世話をされていたらしいが、その間、眠れるものなら眠っていたいと思っていたのを有言実行してしまっていたようだ。
侯爵家の入口で、ぶっ倒れたヴァリャは3日も起きなかったらしく、医者はそんなヴァリャを診察するなり……。
「栄養失調と過労と精神的なものが重なったのでしょう。この状態で隣国から来られたのには、驚きしかありません。よく来れましたね」
医者からするとあり得ない体調だったようだ。
だが、ヴァリャは快適に来たとしか思っていなかった。
それこそ、公爵令嬢の到着を自分のせいで遅らせられないと思ったのも確かにあった。それでも、ヴァリャが思っていた3倍以上は掛かったイメージだが、ヴァリャの場合、隣国までの移動は弾丸ツアー並みを予定していた。早馬までいかなくとも、途中での旅費や食費を浮かせようと思ってのことだ。
そう、父に取り上げられたお金にはギリギリのお金しかなかった。体力勝負のようなことをしようとしていたのだ。
それは、健康体の時ならできたかもしれないが、それでもかなり無茶なことをしようとしていた。大の男でも、寝込むようなことでも、ヴァリャはなぜかイケる!と思っていた。まぁ、大概のことを謎の自信で、乗り切ってきたのだ。そんな無茶なことをしなければならなかったのだが、それがヴァリャにとっての悲しいかな普通になってしまっていた。頼りにならない父のせいで、苦労しっぱなしで逞しくなったものだ。
それを察したのは、医者だ。ここまで、身体を酷使している状態では、このままにしておいたら駄目だと思ったようだ。たとえ、本人がイケる!と謎の自信を持っていても。行く先が、あの世になりかねないと思っていた。
「留学が始まるまで、日にちがなかろうとも、療養していただきます」
それを聞いて、ヴァリャはすぐさま反論した。3日ぶりに目が覚めた令嬢とは思えなかったようで、医者もびっくりしていた。だが、そんなこと構っていられない。
「そんな、特待生として援助していただいているんです。療養なんてしていられません!」
そこで、ヴァリャは医者と口論することになった。療養したくて、ここまで来たのではないのだ。ヴァリャは、あることがしたくてここまで来たのだ。
ホームステイ先のベッドの寝心地の良さなんて、知らずともよかった。まだ、休養が必要なはずなのにヴァリャは、医者が驚くほどに元気だった。普通は、3日でここまで回復しない。
それを止めさせたのは、ヴァリャの母の従妹であるラヴィシャ・チャクラバルディだった。パン!と手を叩いたかと思えば……。
「援助を気にするのなら、我が家で出します」
「でも」
「ヴァリャ。あなたのすべきは勉強ではなく、休養することよ。お医者様が良いと言うまで、学園には行かせません」
「そんな、本が読めると思ってここまで来たのに」
「え? 本??」
ラヴィシャの言葉にヴァリャは、また泣いた。それに医者は、ヴァリャが情緒不安定になっていると思っていたが、勉強というか。本が読みたいと言うのは、疲れていたからではなかったようだ。本当だったようだと気づくのも、すぐだった。
ヴァリャは、前からそうだったせいで、留学する理由が人とは異なっていたことに全く気づいていなかった。彼女は、無類の本好きなのだ。
自国の本を読み尽くしてしまった彼女は、留学して本を読み漁ろうとしたのだ。
それこそ、ヴァリャは留学してきて、学園に行かずにチャクラバルディ侯爵家で試験を受けたが、余裕で卒業できるほどだった。
「ここまで、できるとなると授業に出る必要がなさそうですね。即卒業してもよいのでは?」
「それだと学園の本が読めなくなってしまいます」
あくまでも、本のために留学して来たヴァリャに学園の先生は苦笑するしかなかった。
「それでは、学園長や他の先生方と話してみます」
つまり、留学して来たというのにヴァリャは、授業を真面目に受ける必要がないほどだったのだ。異例ではあるが、ヴァリャは授業を免除されることになった。その代わり、好きなだけ本を読んで良いことになったが、その分、ヴァリャの試験は難しいものになったが、それでも難なく満点を取るほどだった。
それでも、そんなことのためにとヴァリャを怒るような者はいなかった。
シダルタは、ヴァリャが家に来てから、帰って来るなり妻にヴァリャのことを尋ねるようになった。まぁ、大概が部屋で読書しているのだが。天気がよくて医者が許可すれば、庭でお茶をしながら読書したりしているのを聞くのも楽しみにしていた。
「ヴァリャは、部屋で読書か?」
「……」
その日も、シダルタはヴァリャのことを聞いたのだが……。何やら妻の様子が、おかしかった。
「ラヴィシャ?」
「え?」
「どうした?」
「……ヴァリャの集中力についていけなくて」
「ん?」
ラヴィシャの夫であり、侯爵のシダルタは妻の言葉に首を傾げた。療養が必要だと言ったが、本が読みたいと言い、ヴァリャをよく知るカシシャも見舞いに来て、全て取り上げると逆に暴走するかもしれないと言われて、読書は許したのだが、侯爵家の本や学園の本を読んでも、ヴァリャの速読に追いつかなかったのだ。
しかも、あまりに早く読むため、読めているのかと試してみれば一語一句覚えていた。それには、誰もが絶句してしまったが、ヴァリャは普通のことだと思っていて、不思議そうに周りを見ていた。
シダルタも、それにびっくりした1人だ。また具合を悪くするのではないかと心配もしていた。だが、ヴァリャは……。
「睡眠時間も、ちゃんと取れているので大丈夫です」
「……ちなみにヴァリャ。前の生活は、どんな感じだったんだ?」
ヴァリャに聞いたのは、使用人よりも過密な忙しいスケジュールだった。
シダルタは聞いておいて、目眩と同時に目頭が熱くなってしまった。
ラヴィシャも、目眩と共に気になったことがあるようだ。
「ヴァリャ。あなたの家に使用人は?」
「いません。お給料、出せないので、みんな辞めてしまいました」
「「……」」
つまり、ヴァリャは使用人の仕事もこなしていたのだ。だが、そんなこと昔からだった。母が元気な頃から、使用人なんていないようなものだった。
ふと、父親たちが、どうしているのかとヴァリャは思ってしまった。それに義母たちが買い物三昧をしていて、そろそろ支払い期日になるはずだが、どうするのだろうかと思った。
それらのことも、ヴァリャがしていた。好き勝手にさせている父は、支払い額を把握してはいないのだ。父が、今回の請求書を見たら、腰を抜かすのではなかろうか。ヴァリャは、全く関わっていないから凄いことになるはずだ。
ヴァリャが、留学するとわかってディルフィニアはストレス発散するかのようにいつも以上に買い物をしていたのだ。普段なら、ヴァリャがそれとなく安いものにすり替えていた。だが、それを毎回しても彼女たちは全く気づかなかった。そもそも、2人には見分けがつかないようだ。高級品を買っているのが、楽しいようだ。何を買ったかなんて、どうでもいいようだ。
そんな親子がいるのかと思ったが、貴族となってお金を自由に使えることが楽しいようだ。
そんなものを買い漁っても、パーティーに呼ばれるわけではない。それでも、いつ呼ばれてもいいように母娘は、常に完璧にしていた。
いや、あれを完璧だと思っているのは、あの2人だけだと思うが、貴族になったことで貴族のイメージが親子揃っておかしいのだが、その辺の話をヴァリャがしても、聞き入れてもらえないとわかってからは一切していない。
色々と売っている方も、何も知らない2人に売りつけると金になるとばかりにしていて、いいカモにされていることにも全く気づいていなかった。
2人は気づかずとも、父であるチャンダ男爵なら気づいてもいいところだが、面倒くさいことはヴァリャにやらせていたから、まだまだ気づくまで時間はかかるかもしれない。
まぁ、あちらのことなど、あちらがどうにかするだろう。ヴァリャは、そう思って、もう考えるのをやめた。
それこそ、戻りたくないと思ってしまったが、留学の延長なんて、たかが知れている。目下の悩みは、実家に帰らない方法が、本に書かれていたらいいのにとそんなことを思っていたが、そんな心情に気づく者はいなかった。
ちなみにヴァリャが倒れたことで、カシシャやチャクラバルディ侯爵夫妻と同じくらいヴァリャを心配したのが、護衛していた者たちだった。
ネヘラ公爵家に雇われた者たちで、ヴァリャが気になってラジェスで観光していたようだ。3日ぶりに目が覚めて、顔が見たいと侯爵家に来て見たのは、医者と言い争うヴァリャだった。
「お嬢さん、元気そうだな」
「あぁ。あれで、起きたばっかとか。すげぇな」
しかも、留学に来た理由が読書がしたいというのに護衛たちは……。
「あれだけ、本のこと知ってるのに。まだ、読み足りないのか」
「お嬢の話してた本のは、よかったな」
護衛たちは、ヴァリャと出会ったことで本を少しずつ読むようになった。
護衛で、時々ラジェスに来たらヴァリャのところに訪れて、本の話をしたり、ヴァリャにすすめられた本を読むうちに貴族の護衛に引っ張りだこになった。
それだけでなく、稼ぎもアップしていくことになったようだが、ヴァリャは護衛の方たちに何かしたとは思っていなかった。
だが、護衛たちはヴァリャとの出会いで大きく変わったと感謝し続けてくれたようだが、ヴァリャは……。
「良質な本って、やっぱり凄いな。護衛の方たちが、みんな出世してる」
本のおかげだと思っていた。
感想
あなたにおすすめの小説
義理姉がかわいそうと言われましても、私には関係の無い事です
マーガレットは政略で伯爵家に嫁いだ。
愛の無い結婚であったがお互いに尊重し合って結婚生活をおくっていければいいと思っていたが、伯爵である夫はことあるごとに、離婚して実家である伯爵家に帰ってきているマーガレットにとっての義姉達を優先ばかりする。
そんな生活に耐えかねたマーガレットは…
結末は見方によって色々系だと思います。
なろうにも同じものを掲載しています。
婚約破棄された公爵令嬢は心を閉ざして生きていく
「アメリアには申し訳ないが…婚約を破棄させてほしい」
私はグランシエール公爵家の令嬢、アメリア・グランシエール。
決して誰かを恨んだり、憎んだりしてはいけない。
苦しみを胸の奥に閉じ込めて生きるアメリアの前に、元婚約者の従兄、レオナールが現れる。
「俺は、アメリアの味方だ」
「では、残された私は何のためにいるのですか!?」
遊び人の令嬢が目を付けたのは、私の真面目な婚約者でした
子爵家の令嬢エリーネと伯爵家の次男のノルトが婚約を結んだのは、半年前だった。
真面目で優秀なノルトに相応しい婚約者であろうとするものの、エリーネには自信がなかった。
ある日、遊び人と噂の令嬢べルティーナとノルトが共にいるところを見てしまう。
「真面目クンは壁さえ破っちゃえばこっちのもんだからね〜」
「きっと、彼女の美しさに嫉妬しているのだわ…」
「…今度は、ちゃんと言葉にするから」
お姉ちゃん今回も我慢してくれる?
「マリィはお姉ちゃんだろ! 妹のリリィにそのおもちゃ譲りなさい!」
「マリィ君は双子の姉なんだろ? 妹のリリィが困っているなら手伝ってやれよ」
「マリィ? いやいや無理だよ。妹のリリィの方が断然可愛いから結婚するならリリィだろ〜」
私が欲しいものをお姉ちゃんが持っていたら全部貰っていた。
代わりにいらないものは全部押し付けて、お姉ちゃんにプレゼントしてあげていた。
お姉ちゃんの婚約者様も貰ったけど、お姉ちゃんは更に位の高い公爵様との婚約が決まったらしい。
ねぇねぇお姉ちゃん公爵様も私にちょうだい?
お姉ちゃんなんだから何でも譲ってくれるよね?
気絶した婚約者を置き去りにする男の踏み台になんてならない!
ヒロインにタックルされて気絶した。しかも婚約者は気絶した私を放置してヒロインと共に去りやがった。
え、コイツらを幸せにする為に私が悪役令嬢!?やってられるか!!
それより気絶した私を運んでくれた恩人は誰だろう?
契約破棄された聖女は帰りますけど
「聖女エルディーナ!あなたとの婚約を破棄する」
「…かしこまりました」
王太子から婚約破棄を宣言され、聖女は自身の従者と目を合わせ、頷く。
では、と身を翻す聖女を訝しげに王太子は見つめた。
「…何故理由を聞かない」
※短編(勢い)
私だけが愛して1度も笑ったことの無い夫が、死んだはずの息子を連れてもどってきた
夫はただの一度も私に笑いかけたことは無く、穏やかに夫婦の時間をもったこともない。魔法騎士団の、騎士団長を務める彼は、23年間の結婚生活のほとんどを戦地で過ごしている。22歳の息子の戦死の知らせが届く。けれど夫は元気な息子を連れて私の元に戻って来てくれた。
実家に帰ったら平民の子供に家を乗っ取られていた!両親も言いなりで欲しい物を何でも買い与える。
リディア・ウィナードは上品で気高い公爵令嬢。現在16歳で学園で寮生活している。
そんな中、学園が夏休みに入り、久しぶりに生まれ育った故郷に帰ることに。リディアは尊敬する大好きな両親に会うのを楽しみにしていた。
しかし実家に帰ると家の様子がおかしい……?いつものように使用人達の出迎えがない。家に入ると正面に飾ってあったはずの大切な家族の肖像画がなくなっている。
不安な顔でリビングに入って行くと、知らない少女が高級なお菓子を行儀悪くガツガツ食べていた。
「私が好んで食べているスイーツをあんなに下品に……」
リディアの大好物でよく召し上がっているケーキにシュークリームにチョコレート。
幼く見えるので、おそらく年齢はリディアよりも少し年下だろう。驚いて思わず目を丸くしているとメイドに名前を呼ばれる。
平民に好き放題に家を引っかき回されて、遂にはリディアが変わり果てた姿で花と散る。