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それを聞いて、別の夫人がそういえばと話し始めた。
「仕事場に普通の格好で来て平然としていると夫が話していたわ」
「……」
それを聞いて、父だとシーラはすぐに思った。そういうことをする男性など、早々いるはずがない。そんな男性ばかりとなったら、この国の終わりも近い気さえする。
それこそ、元々地味な格好を好まない者が、それをたくさん準備しておくことも、色々と言われるが、それでも地味めな服は数着は持っているものだ。喪中期間が長く、着る物がない場合はすぐにあつらえたりして、間に合わない場合もたまにあるが、全く普段と変わらなく過ごし続ける者などいない。
「え? お屋敷の中だけのお話しではないの?」
(私も、はじめはそう思ったけど……、思いたかったけど、違ったのよね)
シーラは、視線が集まっているのに気づかないようにお茶を飲んでいた。そのため、シーラに確認を取らずとも、みんな察したようだ。
「それ、息子からも聞きましたわ。奥方が長らく病にふせっていたから、喪に服す期間は最低でも13ヶ月はと息子も周りも思っていたのに。葬儀やらで一週間休んで仕事に復帰するなり、普段と変わりない格好で現れたまま、何の変化もなく過ごしているから、気でも触れたのかと心配していたそうよ」
確かに気が触れたのなら、わからなくはないだろう。
「それで、心配になって数日様子を見てから話しかけたら、古くさいことに囚われたくないって言われたそうなのよね」
「……」
(古くさい……? そんな風に思っていたのね)
「息子は、若いのにそんなことをいちいち気にしていたら、これから大変だとまで言われたそうよ。しかも、しっかりしろとまで言われたらしくて、それを周りも聞いていて、仕事場では用もないと誰も話しかけないそうよ」
それを聞いて、シーラは身体を縮こまらせながら、頭を抱えたくなった。
(何をしているんだか。無視どころか。理解できていないだけじゃない!? 恥ずかしすぎるわ)
姉と妹は、まだ年若いからと思われるが、父はいい大人だ。それなのにありえないことをしていることを知って、シーラはすぐさま謝っていた。
「申し訳ありません。父が失礼なことを」
「あなたが、謝ることではないわ。その、あなたも大変ね」
シーラは、苦笑するしかできなかった。
父の常識のなさから、姉と妹の態度やらで察するものがあったようだ。
話題は、常識のなさすぎる父親の話から、シーラの伯母のことに戻っていた。それこそ、ここで何を話したところで、腹立つだけだと思ったのかも知れない。
「私、あなたの伯母とは、今も交流がありますわ。丁度、来週、夫と隣国に行って会うことになっているのよ。よければ、手紙をお届けしますわ」
「っ、」
「それがいいわ。どこかで、行き違っては大変だから、お返事はここでお渡しするといいわね」
「行き違い」
それにシーラには、思い当たる節があった。常識外れで、ありえないことばかりを言う家族しか、シーラの側にはいないのだ。
(こうなると伯母様しか頼れる人がいないのよね)
「そんなことはないと思いたいけれど、誰かの手が多く入ると行き違ってしまうこともあるもの」
「……そうですね」
「なら、手紙と書くものを用意させるわ」
シーラは、心強い味方を得た。理解ある常識のある方々によって、思わぬ方向へと向かったのだ。それにシーラは、喜んでいた。
機嫌よく、帰宅したシーラだったが、そこからそれまで以上に酷い毎日が始まるとは思っていなかった。
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