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しおりを挟む数日して、エルヴィーラの夫がシーラたちが泊まっているところにやって来た。それこそ、養子にするのだ。もっとかかってもいいところだが、それを短縮して早馬で駆けつけてくれたようだ。もしかすると準備していてくれたのかも知れない。
シーラの母が、噂で怖い人と言っていたのをシーラは思い返していた。
(でも、伯母様の方が怖がりだったなら、慣れたら怖くないのかも)
失礼にも、そんなことをシーラは考えていた。
「エルヴィーラ」
「旦那様。お忙しいのにお呼び立てしまって、申し訳ありません」
ボリスは、そんな風に謝る妻に必要ないと言った。
とても体格のいい男性が、そこにいた。素っ気ないが、冷たさを感じることはなかった。妻を見て、ホッとしていたのだ。きっと、妹を亡くしただけでなくて、こんな事になってどうしているかと心配だったのだろう。
早馬で駆けつけたはずが、疲れた表情など全くしていなかった。普段から、馬に乗ることにも慣れ親しんでいるのだろう。
「この子は、シーラです。シーラ、私の夫のボリス・バシュキルツェフよ」
「初めまして、シーラと言います」
シーラは、礼儀正しく挨拶をした。エルヴィーラの時にしたようなものではなかった。緊張はしていたが、まずまずな挨拶ができたはずだ。
それをボリスは、じっと見ていた。いや、観察しているようだった。
シーラは不快に覚えることなく、意味が分からずに首を傾げていた。
(どこか、変かしら?)
「……エルヴィーラによく似ているな」
「中身は、妹にそっくりですわ。似ているのは、この髪だけです」
そう言って、エルヴィーラはここ数日で何度目になるかわからないほど、シーラの頭を撫でていた。その手付きがシーラの母親にそっくりで、嬉しいような悲しいような複雑な顔をしていた。
「その髪色は、珍しい。息子が、その色を受け継いでくれたらと思っていたが……」
「あの子は、旦那様に似ている方が、素敵ですわ。中身が、どちらにも似てないことが残念ですけど」
「……」
ボリスという侯爵家の当主は、怖い方だと思っていた。だが、シーラはそのやり取りを聞いて目をパチクリとしていた。
会話を聞いてる分には、妻を溺愛しているようにしか聞こえない。
「……どうした?」
「えっと」
「あぁ、旦那様のことを誤解しないでね? 怖い方っていうのは、噂でしかないわ」
エルヴィーラの言葉にボリスは、しかめっ面をした。器用に片眉を上げていた。
「……そんな噂がされているのか?」
「昔のことです。ほら、妹と話したことをお話ししたでしょう? シーラは、その話をあの子からされていたのよ。だから、怖い方だと思っていたのでしょう」
それを聞いていたボリスは、何とも言えない顔をしてからシーラを見た。
「……怖いか?」
「いえ、ちっとも」
ボリスは、シーラの言葉に嬉しそうにした。それを見てエルヴィーラも、にこにこしていた。
「エルヴィーラ。書類は用意した」
「旦那様」
「私だけでいい」
「くれぐれも、何を言われても、言い返すだけにしてくださいませ」
「……前処する」
「軽く殴っても、大怪我をさせてしまうような輩ですから」
「……」
ボリスは、納得してない顔をしながらも、小さく頷いていた。
それを聞いていたシーラは……。
(確かにあの人とボリス様の体格差からしても、軽く振り払っただけでどこかをおかしくしてしまいそうだわ)
そんなことを思っていた。
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