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しおりを挟む隣国へと向かう前にシーラが泣きつかれて眠ってしまってから、ボリスとエルヴィーラは、こんな話をしていた。エルヴィーラも、シーラと同じく泣き腫らした顔をしていた。それをボリスは心配しながら……。
「あいつには、まだ伝えていない」
「帰って来てからの方がいいわ。文面では、勘違いするでしょうから」
それを聞いていたボリスは、無言で妻を見ていた。エルヴィーラは、それに気づいていても夫を見ることはなかった。
「文面どころか。会っても誤解しそうだけど」
「……」
夫が何を言いたいのかに気づいてエルヴィーラは、ぽつりと呟いた。その間、夫はエルヴィーラから視線を反らしたままだった。
「……あの人には似てほしくなかったのだがな」
「シーラを知れば、誤解も解けるわ」
「……そうだな」
そんなやり取りを二人がしていることなど、シーラは全く知らなかった。
ボリスに似た見た目をしてはいるが、中身は両親のどちらにも似てはいなかった。それこそ、この二人の一人息子であり、シーラの従兄なのだが、寮生活をしていて長期休暇しか戻って来ていなかった。
生まれてから、従兄妹同士は会ったこともなかった。そのため、中途半端に知らせるとまずいと思い、戻って来てから口頭で話すことにしたのだが、戻って来る前にとんでもない誤解をされていることを二人はそもそも知らなかったのだ。
とんでもない勘違いをしていて、知らぬ間に養子になって従妹が義妹になっていても、他の余計な偏見がなければ、勘違いしやすくとも何とかなると思っていたが、甘かったようだ。
その誤解が解けるまで、ややこしいことになるとは誰も想像していなかった。
「まぁ、まぁ、まぁ! 奥様にそっくりですわね」
「シーラ。この女性は、インガよ。この屋敷の侍女長をしていて、旦那様のお父様の代から務めているから、わからないことは何でも聞くといいわ。インガ、可愛いでしょ?」
「えぇ! 若い頃、こちらに来たばかりの奥様を見ているようですわ。旦那様も、お喜びになられたでしょうね」
「それは、もう、お養父様と呼ばれて嬉しそうにしていたわ」
インガは、それを聞いて、うんうんと頷いていた。他の侍女たちも、微笑ましそうにしていた。
「あの、初めまして、シーラと言います。これから、色々教えてください」
「侍女長にそんなにかしこまることはありませんよ。シーラ様は、このお屋敷のご令嬢になられたのですから」
シーラは、子爵令嬢から、侯爵家の養子になったのだ。しかも、隣国の。色々と違うこともあると不安そうにしていた。
「大丈夫よ。インガ、この子の色合いの知識は凄いのよ。あちらの王妃様が、褒めてくださって未成年ながらお茶会に呼ばれていたほどなのよ」
「まぁ! それは、素晴らしい! あの方が褒めるようでしたら、そちらは問題ありませんね。1からでは何かと大変で、いらぬ恥をかくかと心配していましたが」
インガは、シーラだけでなくて、この家の者たちが恥をかくのを危惧しているとシーラは思っていた、
(そうよね。私のせいで、評価を下げるわけにいかないわ)
シーラは、そう思っていた。そこに食い違いがあることに誰も気づいていなかった。
こうして、シーラは伯母夫妻の養子になって過ごすことになったのだが、それがここ数週間の出来事だった。
(そういえば、あの留学生も、こっちにいるのよね)
シーラは、変わった留学生だったが、数回しか話したことがないのに母親の葬儀に喪服をわざわざあつらえてまで参列してくれたことに首を傾げていた。
(留学生の世話係だっただけなのに律儀というべきなのかしらね。大体、あの身なりで身分のことやつり合わないから話しかけるなとか言うせいで、かなり浮いていたのよね。できれば、関わりたくないな)
そんなことを思っていた。更には、彼が一番最初にとんでもないことを言った人物に対する無礼が未だに許せていなかった。
(それでも、先生に頼まれたからって、きちんと仕事をしたものよね。数回しか話してなかったけど)
そんなシーラは、相手に全く違うことを思われていることなど知りもしなかった。
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