30 / 57
30
ヴァジムは義妹の足を医者に診てもらうことになり、大したことないとわかってホッとしていた。
「ヴァジム。旦那様が、読んでいるわ」
「っ、」
母にそう言われ、硬い表情のまま訪れていた。
「ち、父上。先程は……」
「シーラに誠意をもって対処しろ。それと人の話は、きちんと聞け。相手をよく見ろ」
「はい。気をつけます」
ヴァジムは、頷いていた。
それを見て、ボリスはこれで何度目なのかと言いたくなったが、彼は黙っていた。今回のことでは、かなりこたえているように見えたからだ。
そんな姿をボリスは父親がしていたところを見たことはなかった。まだ、息子の方が幾分マシだと思ってはいるが、あんなことがあった後だ。聞いているものと思っていて、ヴァジムの頭の中でものごとが見事に変わっているのだ。どこをどうしたら、そんな勘違いになるのかが、ボリスやエルヴィーラには全く理解できないことだった。
「それより、ゲラーシーのことを言っていたようだが、留学中にシーラに会ったのか?」
「っ、そうなんです。それが、隣国でゲラーシーは身分の低い貴族だと思われていたようで、散々な留学だったようですが、シーラだけが親切だったそうなんです」
「……」
身分うんねんにボリスは、怪訝な顔をしていた。ヴァジムは、それに気づかずに聞いていたことを話していた。
「その、シーラの産みの母親の死を悼んで葬儀にも参列したそうです。あまりにも、素敵な令嬢だったので、早めに戻って婚約できないかと思案しに戻って来たようです」
「……それで?」
「シーラが、婚約破棄になった情報までは掴んでいました。ですが、私の義妹になっていることは、まだだと思います」
ボリスは、ゲラーシーが婚約者にしたいと思って動いていたことに驚いていた。それこそ、そのために留学して、大して経っていないのに戻って来たとは思いたくなかった。
「……」
「あの、ゲラーシーにシーラのことを教えても構いませんか?」
ヴァジムの言葉にボリスは、冷めた表情をした。
「……その意味は、わかって言っているんだろうな?」
「わかってます。でも、留学から戻って来てから、シーラのことばかり考えているみたいで、私の義妹となったなら身分にも問題はないですし……」
ボリスは、わかっていないのではないかと思って、息子の言葉に内心で呆れてしまった。
「……義妹であるシーラの気持ちは、無視してか?」
「あ、いや、それは……」
「幼なじみだとしても、まずは家族となったシーラのことを考えるべきだ。お前は、義理の兄となったのだからな」
「あ、兄。そ、そうですね」
「……」
父に言われて、ヴァジムはしどろもどろになった。
幼なじみの評判がよければ、ボリスとてそんなことをわざわざ言ったりしないが、なぜ未だに幼なじみだというだけで、友達を続けているのかが疑問でしかなかった。この調子で、幼なじみが何をしているかを深く考えて聞いてはいないのだろう。
そもそも、父親に話しているだけでも、不信感を抱くことをヴァジムが言っていることにそもそも気づいていないのだ。
指摘されていなければ、また勝手に判断してヴァジムは暴走していた。それに気づいて、眉を顰めていたが、言われた部分しか理解していなかった。
ゲラーシーは、どうにかして婚約を解消させて、婚約したくて戻って来たのだ。その話もヴァジムは聞いていたはずなのだが、そのことをすっかり忘れているのだ。
何はともあれ、幼なじみのことより、ヴァジムは自分がシーラと仲良くならなけらばと奮闘することになったが、とんでもなく大変だとは思ってもみなかった。
あなたにおすすめの小説
今、私は幸せなの。ほっといて
青葉めいこ
ファンタジー
王族特有の色彩を持たない無能な王子をサポートするために婚約した公爵令嬢の私。初対面から王子に悪態を吐かれていたので、いつか必ず婚約を破談にすると決意していた。
卒業式のパーティーで、ある告白(告発?)をし、望み通り婚約は破談となり修道女になった。
そんな私の元に、元婚約者やら弟やらが訪ねてくる。
「今、私は幸せなの。ほっといて」
小説家になろうにも投稿しています。
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
※不定期更新
『婚約破棄?結構ですわ。わたくしは何もしないで生きていきます』
鷹 綾
恋愛
内容紹介
王太子ユリウスの婚約者だった伯爵令嬢リュシエンヌは、公衆の面前で一方的に婚約を破棄される。
だが彼女は泣かず、怒らず、復讐も選ばなかった。
「働かないと、決めましたの」
婚約者として担ってきた政務補佐、調整、裏方の仕事をすべて手放し、彼女は“何もしない”生活を始める。
すると王宮は静かに軋み、これまで彼女が支えていた日常だけが浮き彫りになっていく。
新たな婚約者を得た王太子。
外から王宮を支える女性。
そして、何もせず距離を保つ元婚約者。
誰も声高に責めず、誰も派手なざまぁをしない。
それでも、関係は変わり、立場は入れ替わり、真実だけが残っていく。
これは、頑張らないことで人生を取り戻した令嬢の物語。
婚約破棄のその先で、“何もしない”という最強の選択をした女性が、静かに自由を手に入れるまでの40話。
妹なんだから助けて? お断りします
たくわん
恋愛
美しく聡明な令嬢エリーゼ。だが、母の死後に迎えられた継母マルグリットによって、彼女の人生は一変する。実母が残した財産は継母に奪われ、華やかなドレスは義姉たちに着られ、エリーゼ自身は使用人同然の扱いを受ける。そんなある日――。
善人ぶった姉に奪われ続けてきましたが、逃げた先で溺愛されて私のスキルで領地は豊作です
しろこねこ
ファンタジー
「あなたのためを思って」という一見優しい伯爵家の姉ジュリナに虐げられている妹セリナ。醜いセリナの言うことを家族は誰も聞いてくれない。そんな中、唯一差別しない家庭教師に貴族子女にははしたないとされる魔法を教わるが、親切ぶってセリナを孤立させる姉。植物魔法に目覚めたセリナはペット?のヴィリオをともに家を出て南の辺境を目指す。
妹が聖女の再来と呼ばれているようです
田尾風香
ファンタジー
ダンジョンのある辺境の地で回復術士として働いていたけど、父に呼び戻されてモンテリーノ学校に入学した。そこには、私の婚約者であるファルター殿下と、腹違いの妹であるピーアがいたんだけど。
「マレン・メクレンブルク! 貴様とは婚約破棄する!」
どうやらファルター殿下は、"低能"と呼ばれている私じゃなく、"聖女の再来"とまで呼ばれるくらいに成績の良い妹と婚約したいらしい。
それは別に構わない。国王陛下の裁定で無事に婚約破棄が成った直後、私に婚約を申し込んできたのは、辺境の地で一緒だったハインリヒ様だった。
戸惑う日々を送る私を余所に、事件が起こる。――学校に、ダンジョンが出現したのだった。
更新は不定期です。
壊れていく音を聞きながら
夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。
妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪
何気ない日常のひと幕が、
思いもよらない“ひび”を生んでいく。
母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。
誰も気づきがないまま、
家族のかたちが静かに崩れていく――。
壊れていく音を聞きながら、
それでも誰かを思うことはできるのか。
【完結】婚約破棄に祝砲を。あら、殿下ったらもうご結婚なさるのね? では、祝辞代わりに花嫁ごと吹き飛ばしに伺いますわ。
猫屋敷むぎ
恋愛
王都最古の大聖堂。
ついに幸せいっぱいの結婚式を迎えた、公女リシェル・クレイモア。
しかし、一年前。同じ場所での結婚式では――
見知らぬ女を連れて現れたセドリック王子が、高らかに宣言した。
「俺は――愛を選ぶ! お前との婚約は……破棄だ!」
確かに愛のない政略結婚だったけれど。
――やがて、仮面の執事クラウスと共に踏み込む、想像もできなかった真実。
「お嬢様、祝砲は芝居の終幕でと、相場は決まっております――」
仮面が落ちるとき、空を裂いて祝砲が鳴り響く。
シリアスもラブも笑いもまとめて撃ち抜く、“婚約破棄から始まる、公女と執事の逆転ロマンス劇場”、ここに開幕!
――ミステリ仕立ての愛と逆転の物語です。スッキリ逆転、ハピエン保証。
※「小説家になろう」にも掲載。
※ アルファポリス完結恋愛13位。応援ありがとうございます。