37 / 57
37
しおりを挟むシーラは、散々なことを言われることになり、微妙な空気となる中で、声をかけて来た者がいた。
「シーラ! ここにいたのか」
「お義兄様」
そこにヴァジムが、幼なじみの子息を紹介しようとやって来たのだ。すっかり、ヴァジムは幼なじみが一目惚れした相手がシーラだということを忘れていたようだ。だが、それが役に立つこともあるようだ。
「シーラ嬢! 留学中は、何かと世話になった。覚えているよな?」
「……」
さも親しげに話しかけて来た人物を見て、シーラは無表情となった。
するとそれに気づいていないのかヴァジムが補足し始めたのだ。
「幼なじみのゲラーシー・ヴィトゲンシュタインだ。彼は、王弟殿下の子息なんだが、そうか。シーラは、会っていたんだったな」
シーラは、義兄の言葉に首を傾げた。
「私がお会いした方は、身分が低いとご自分でおっしゃっておられる方でした」
「え? 身分が低い……?」
「っ、」
ヴァジムは、シーラの言葉に驚いて、ゲラーシーを見た。周りの面々も、ことの成り行きを見届ける気のようだ。それこそ、先程シーラは誑かそうとしていたとまで言われていたのだ。自分が何か言われるのは、我慢できるが、この男性は許せないことをしているのだ。もはや留学生ではないため、我慢するのをやめただけにすぎなかった。
(留学生でさえなければ、もっと前にきっちり言っていたところよ。私でなくとも、周りの令嬢や子息たちは、自称身分が低い子息に物申したかったでしょうよ)
自称というのも、着ている普段着の身なりが良すぎたからだ。制服もオーダーメイドだった。喪服も、そうだ。
(見ればわかるのに、わからないと思って、あんなことを言っていたのよね。馬鹿にされたものだわ)
そんなこと知らない二人は、シーラの機嫌がいまいちなことに気づいていないようだ。
こんなんだから、婚約者がいないのだ。
「あ、いや、あれは、その、騒がれると困ると思って言っただけなんだ」
それを聞いていた令嬢たちは、眉を顰めていた。全然違う話を彼に聞かされていて、ナタリアと同じようにシーラが誑かしていたと思っていたのだ。
「あら、騒がれて迷惑していたと聞きましたけど?」
「っ、いや、それは、誤解だ」
ゲラーシーが、取り繕うとして言えば言うほど、周りで聞いていた面々が白けた顔をしていた。
「そうでしたか。だとしても、私が留学生の方に話しかけていたのは、私がお世話係をしていたからにすぎません。他の誰もやりたがらず、男子生徒もそりが合わないと苛ついてしまって、大変そうにしていたので、問題が起こっては困るからと先生に頼まれたからにすぎません。そもそも、身分が低く、つり合わないから話しかけるなどと言わなければ、皆さん留学生に親切だったはずなんですけどね。一番最初に王女殿下にそんなことを言ったせいで、私がお世話するしかなくなったようなものですし」
「お、王女……?」
「えぇ」
ゲラーシーは、顔色を更に悪くし始めていた。
ヴァジムは、ゲラーシーの話していたのと違いすぎることに眉を顰めながらも、成り行きを聞くことにしたようだ。
「でも、あなたは、王弟殿下のご子息なのでしょう? 同じ名前でも、別の方ですよね? そうでなければ、こんな矛盾だらけなことになるわけがありませんもの」
「っ、」
シーラは、にっこりとそんなことを言っていたが、その目は怒りに満ちていた。王女や学園にいた者を馬鹿にして、侮辱をしていたのだ。
217
あなたにおすすめの小説
【完結】私が誰だか、分かってますか?
美麗
恋愛
アスターテ皇国
時の皇太子は、皇太子妃とその侍女を妾妃とし他の妃を娶ることはなかった
出産時の出血により一時病床にあったもののゆっくり回復した。
皇太子は皇帝となり、皇太子妃は皇后となった。
そして、皇后との間に産まれた男児を皇太子とした。
以降の子は妾妃との娘のみであった。
表向きは皇帝と皇后の仲は睦まじく、皇后は妾妃を受け入れていた。
ただ、皇帝と皇后より、皇后と妾妃の仲はより睦まじくあったとの話もあるようだ。
残念ながら、この妾妃は産まれも育ちも定かではなかった。
また、後ろ盾も何もないために何故皇后の侍女となったかも不明であった。
そして、この妾妃の娘マリアーナははたしてどのような娘なのか…
17話完結予定です。
完結まで書き終わっております。
よろしくお願いいたします。
幼なじみと再会したあなたは、私を忘れてしまった。
クロユキ
恋愛
街の学校に通うルナは同じ同級生のルシアンと交際をしていた。同じクラスでもあり席も隣だったのもあってルシアンから交際を申し込まれた。
そんなある日クラスに転校生が入って来た。
幼い頃一緒に遊んだルシアンを知っている女子だった…その日からルナとルシアンの距離が離れ始めた。
誤字脱字がありますが、読んでもらえたら嬉しいです。
更新不定期です。
よろしくお願いします。
[完結]だってあなたが望んだことでしょう?
青空一夏
恋愛
マールバラ王国には王家の血をひくオルグレーン公爵家の二人の姉妹がいる。幼いころから、妹マデリーンは姉アンジェリーナのドレスにわざとジュースをこぼして汚したり、意地悪をされたと嘘をついて両親に小言を言わせて楽しんでいた。
アンジェリーナの生真面目な性格をけなし、勤勉で努力家な姉を本の虫とからかう。妹は金髪碧眼の愛らしい容姿。天使のような無邪気な微笑みで親を味方につけるのが得意だった。姉は栗色の髪と緑の瞳で一見すると妹よりは派手ではないが清楚で繊細な美しさをもち、知性あふれる美貌だ。
やがて、マールバラ王国の王太子妃に二人が候補にあがり、天使のような愛らしい自分がふさわしいと、妹は自分がなると主張。しかし、膨大な王太子妃教育に我慢ができず、姉に代わってと頼むのだがーー
手放してみたら、けっこう平気でした。
朝山みどり
恋愛
エリザ・シスレーは伯爵家の後継として、勉強、父の手伝いと努力していた。父の親戚の婚約者との仲も良好で、結婚する日を楽しみしていた。
そんなある日、父が急死してしまう。エリザは学院をやめて、領主の仕事に専念した。
だが、領主として努力するエリザを家族は理解してくれない。彼女は家族のなかで孤立していく。
私を捨てた皆様、どうぞその選択を後悔なさってください 〜婚約破棄された令嬢の、遅すぎる謝罪はお断りです〜
くろねこ
恋愛
王太子の婚約者として尽くしてきた公爵令嬢エリシアは、ある日突然、身に覚えのない罪で断罪され婚約破棄を言い渡される。
味方だと思っていた家族も友人も、誰一人として彼女を庇わなかった。
――けれど、彼らは知らなかった。
彼女こそが国を支えていた“本当の功労者”だったことを。
すべてを失ったはずの令嬢が選んだのは、
復讐ではなく「関わらない」という選択。
だがその選択こそが、彼らにとって最も残酷な“ざまぁ”の始まりだった。
【完結】旦那様、その真実の愛とお幸せに
おのまとぺ
恋愛
「真実の愛を見つけてしまった。申し訳ないが、君とは離縁したい」
結婚三年目の祝いの席で、遅れて現れた夫アントンが放った第一声。レミリアは驚きつつも笑顔を作って夫を見上げる。
「承知いたしました、旦那様。その恋全力で応援します」
「え?」
驚愕するアントンをそのままに、レミリアは宣言通りに片想いのサポートのような真似を始める。呆然とする者、訝しむ者に見守られ、迫りつつある別れの日を二人はどういった形で迎えるのか。
◇真実の愛に目覚めた夫を支える妻の話
◇元サヤではありません
◇全56話完結予定
妹に婚約者を奪われましたが、私の考えで家族まとめて終わりました。
佐藤 美奈
恋愛
セリーヌ・フォンテーヌ公爵令嬢は、エドガー・オルレアン伯爵令息と婚約している。セリーヌの父であるバラック公爵は後妻イザベルと再婚し、その娘であるローザを迎え入れた。セリーヌにとって、その義妹であるローザは、婚約者であり幼馴染のエドガーを奪おうと画策する存在となっている。
さらに、バラック公爵は病に倒れ寝たきりとなり、セリーヌは一人で公爵家の重責を担うことになった。だが、イザベルとローザは浪費癖があり、次第に公爵家の財政を危うくし、家を自分たちのものにしようと企んでいる。
セリーヌは、一族が代々つないできた誇りと領地を守るため、戦わなければならない状況に立たされていた。異世界ファンタジー魔法の要素もあるかも?
愛を騙るな
篠月珪霞
恋愛
「王妃よ、そなた一体何が不満だというのだ」
「………」
「贅を尽くした食事、ドレス、宝石、アクセサリー、部屋の調度も最高品質のもの。王妃という地位も用意した。およそ世の女性が望むものすべてを手に入れているというのに、何が不満だというのだ!」
王妃は表情を変えない。何を言っても宥めてもすかしても脅しても変わらない王妃に、苛立った王は声を荒げる。
「何とか言わぬか! 不敬だぞ!」
「……でしたら、牢に入れるなり、処罰するなりお好きに」
「い、いや、それはできぬ」
「何故? 陛下の望むままなさればよろしい」
「余は、そなたを愛しているのだ。愛するものにそのような仕打ち、到底考えられぬ」
途端、王妃の嘲る笑い声が響く。
「畜生にも劣る陛下が、愛を騙るなどおこがましいですわね」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる