欲しいものを手に入れようと必死になって足掻いて父と兄を巻き込みましたが、一番欲しいと思っていたものがそもそも違っていたようです

珠宮さくら

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侯爵家に生まれたルイーザ・マンディアルグには、物心がついた頃から、ほしいものがあった。


(ほしいな)


ルイーザのほしいものがあっても、大概がずっと手に入らないものはなかった。そこは、マンディアルグ侯爵家に生まれた令嬢だ。ほしいと口にしたら、大体それを手にするのに時間はかからなかった


(ほしくてたまらないのに。てにはいらない)


だから、ずっとずっとルイーザがほしいと望み続けることは珍しいことだった。ルイーザの目線の先には、楽しそうに買い物する姉妹がいた。そして、それを微笑ましそうに見ている両親らしき人がいた。

そんな光景を見かけるたび、ルイーザは羨ましくて仕方がなかった。自分にはないものが、そこにあった。


(いいな)


そんな風に何度思ったことか。それを羨ましいと口にしたことはない。


「ルイーザ。行こう」
「……うん」


ぼんやりしていると声をかけられた。誰もが羨む完璧な兄のバスティアンが、そこにいて途方に暮れるルイーザの手を掴まえて歩き出した。

そう、ルイーザが生まれた時から、兄を持つならこういう人が欲しいと思うような人がルイーザには既にいた。そんな人だったため、兄はルイーザのことを生まれた時から溺愛してくれていた。

ぼんやりしている時に声をかけてくれるのは、大概兄だった。

そんなことが続いていたが、兄はマンディアルグ侯爵家の跡継ぎだ。成長するにつれて、何かと忙しくなり始めて、ルイーザに四六時中構っていられなくなっていくのも無理はなかった。


「ルイーザ様。今、バスティアン様は勉強中ですので」
「……」


ルイーザが兄に遊んでもらおうとしたら、家庭教師に邪魔をするなと言わんばかりに素気なくされたことがあった。

それは、ルイーザにとって初めてのことだった。


「ぐすっ」
「っ、ルイーザ。どうした?」


邪魔なんて欠片もした覚えのないルイーザは、父親にも兄にも、マンディアルグ侯爵家の使用人たちからも、そんな風に素気なくされたことがなかった。

やりたいことをやることを邪魔されたこともなかったことから、ルイーザは兄と遊びたかったのにそれができずに泣いていると兄が慌てて部屋から出て来た。

ぐすっ、ぐすっと泣くルイーザとその側に立ち尽くす兄の家庭教師。バスティアン・マンディアルグが、ギロッと家庭教師を睨んだのは、すぐだった。


「妹に何をした?」
「っ、何もしてません! バスティアン様の邪魔をしようとしていたので、勉強中だと言っただけです」


バスティアンは、家庭教師の邪魔をしようとしていたと言う言葉に眉を顰めつつ、泣きじゃくるルイーザを抱っこした。


「どうした? ルイーザ? 何を泣いているんだ?」


そこで父親が早めに帰宅して、ぐすぐすとバスティアンに抱っこされて泣く娘を見て驚いていた。

まぁ、そこから家庭教師がルイーザにしたことを話して、邪魔者として扱ったとわかってから、その家庭教師をマンディアルグ侯爵家で見かけることはなかった。

そんなことが、その後も何度かあったが、今の兄の家庭教師は余計なことを言う人ではなかった。むしろ、兄が勉強している間、ルイーザと遊んでくれようとしたり、ルイーザが興味を持ちそうなことをあれこれと話して聞かせてくれるため、面白くて仕方がなかった。


「ルイーザ様は、凄いですね」
「?」
「お兄様と同じことができる」
「? 勉強するの見聞きしてるもの」
「……」


その家庭教師は、それ以上、何か言って来ることはなかった。ルイーザには普通のことだった。

ルイーザにも家庭教師がついていたこともあったが、みんなつまらない人たちで辞めてしまった。質問攻めにすると答えに詰まってしまうのだ。

でも、この家庭教師はのほほんとしていても、知りたいことにはきちんと答えてくれた。何なら兄が勉強しているのと違うことも、色々と教えてくれて、その話が面白くて好きだった。

ルイーザが喜んでいるからと2人分のお給料が出ているようで、他所で楽な仕事だと言っているようだが、家庭教師としても、ルイーザの相手をするにしても、楽な仕事以外で悪く言ってはいないようだから、家庭教師を辞めるまでには至っていなかった。

兄も、家庭教師と楽しげにしているルイーザを見て、拗ねていることもあったし、時折戸惑っている感じもちらほらしていたが、にこにこと笑って家庭教師とお喋りしている妹に笑顔なことが多かった。

そんな兄妹の父であるマンディアルグ侯爵もルイーザを可愛がってくれていた。マンディアルグ侯爵家で一番ルイーザを可愛がっているのは、彼だ。亡くなった妻にそっくりなところがルイーザにあるせいか。嫌われたり、お前のせいで妻が死んだと言われることもなく、目に入れても問題ないくらいにとことん甘やかしている。


「ルイーザ。嫌なことはなかったか?」
「何もないわ。お兄様の家庭教師が、構ってくれたから、とても楽しかったわ」
「そうか、そうか」


何をどう考えているかなんてマンディアルグ侯爵には、どうでもよかった。息子の勉強もきちんと見ながら、娘の機嫌がいいのがただ嬉しかったようだ。

そんな父をバスティアンは手本にしているところがあった。ルイーザにとって、それが当たり前の日常だった。

ルイーザは母によく似たらしく、幼い頃から愛らしく美少女なこともあり、大概何をしても許してもらえた。もっとも、激怒させるようなことをしたことはないが。

あの、家庭教師は当たり前のことをしただけだが、この侯爵家では当たり前ではないことを知らなかっただけだ。

もっとも、侯爵家からルイーザを泣かせて辞めることになった家庭教師を雇おうとするところはなかった。


「マンディアルグ侯爵家のルイーザ様を泣かせたそうじゃないか」
「それは……」
「事実なのだな?」
「っ、」


確認されるたび、嘘をつけばいいものをできなかったこともあり、家庭教師に就くことは難しかった。

中には、要領よく適当に嘘をついて、他の屋敷で家庭教師になったのもいたようだが、それが嘘だとバレた途端、嘘をつかない者より散々な目にあうことになったようだが、ルイーザは兄の元家庭教師のその後になんて欠片の興味もなかった。

そんな幼少期を過ごしてきたルイーザが、ずっとほしがっているものの不動の1位となっているものが何かを父と兄や使用人たちですら知っていた。

ルイーザは言葉にしなければ叶わないと思っているから、言葉にしているだけだ。でも、ほしい、ほしいと毎日言うことはない。時折、呟く程度が効果的だが、それでもこの願いを叶えるのは難しいようだ。


(こんなに手に入らないものなのね)


ルイーザは、そんなに難しいことを口にしている気はなかったが、中々叶わないことから段々と無理難題を口にしている気がし始めていた。


「ルイーザ。今年の誕生日は何がほしいんだ?」
「お父様。私は……」


ほしいものを聞かれるたびに同じことを答えていた。すぐにどうこうできるものではないのは、昔よりも重々わかってきているが、それでも叶わないままになることはないと思っていた。

それでも、可愛い娘の願いを叶えるために父は動いてくれたようだ。それか、何もしないままでは嫌われると思ったのかもしれない。……痺れを切らし始めて、そんなことを仄めかし始めていたが、面と向かって言ってはいない。そんなことしたら、父が立ち直れなくなってしまう。

父が鬼気迫る顔をしていたかと思えば、安堵した顔を見せるようになった。だから、ルイーザは願いが叶う日が近いのではないかと思っていたが、それを顔に出すことはしなかった。


「バスティアンとルイーザ。今日から、お前たちの義母になるリンジーと義妹になるクレールだ」


ある日、ルイーザは父からそう言われた。ルイーザは、父にそう言われて目を輝かせていた。


(やっと、やっと手に入った!)


兄は複雑そうにしていたが、妹が喜んでいるのがわかって何も言わなかった。

そう、ルイーザはずっと妹がほしかったのだ。義妹であろうとも、血の繋がりがなかろうとも、そんなの関係なかった。ルイーザはかねてからほっしていたものが手に入って、これまで見せたことないほどの輝かんばかりの笑顔を見せていた。

たとえ、それがとんでもなく残念な義妹であろうとも、ルイーザはそんなこと関係ないとばかりに喜んでいた。


「クレール。私は、ルイーザよ。わからないことがあったら、何でも聞いてね」


クレールは、にこにこしているルイーザに戸惑った顔をしながら、実母を見て、それから小さく頷いた。それすら、可愛いとルイーザははしゃいでいた。

父と兄が複雑そうにしていても、ルイーザはにこにこしていて、それ以外の表情を見せることはなかった。

それを見ていた義母となったリンジーは何とも言えない顔をしていたが、クレールだけがきょとんとして、ルイーザが喜んでいるのを不思議そうにしていた。


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