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しおりを挟む(ずっと、ずっと、ほしかった。やっと、やっと、手に入った。私の妹)
そう、ルイーザは完璧な兄より、妹が欲しかった。幼い頃から街で見かける姉妹が仲良くしていようとも、仲悪くしていようとも、なぜか欲しくて、たまらなかった。
中には、妹が泣きじゃくって姉ばかり狡いと大騒ぎしている令嬢もいたが、それすら羨ましいと思うほど、異常なまでに欲しかった。
それこそ、姉妹なら妹にだけ拘らずに姉でも良いのではないかと思ってもいいところだが、ルイーザはそのことが頭になかった。
ようやく欲しいものが手に入ったルイーザは、クレールが義妹になってから、ずっと甘やかし続けた。それは、マンディアルグ侯爵家以外で見たら異様な光景だろうが、マンディアルグ侯爵家でそれを異様だと思って見ているのは、ルイーザの義母となったリンジーだけだった。
ルイーザのやることなすことに慣れている父親と兄、使用人たちは慣れているとはいえ、ルイーザがずっと機嫌よくにこにこしているのはいいが、相手にしている者に問題しかなかったことをルイーザはわかっていなかった。
父や兄が何か言いたげにしていたが、ルイーザはそれを無視していて、いじけていたりもしていたようだが、それよりも義妹の方に夢中になっていた。
「ルイーザ嬢」
「なぁに?」
兄の家庭教師だけが、聞いて来たことがあった。
「どうして、そこまで義妹が欲しかったんですか?」
「どうして……?」
ルイーザは、それを聞かれてキョトンとした。そして思い出したのは、楽しげにする姉妹とそれを微笑ましそうに眺める両親だった。
(あの母親は笑っていた。だから……)
「笑って欲しい人がいるからよ」
ルイーザは、朧気にしか覚えていない母親に笑って欲しかった。それだけだった。
家庭教師が、その答えに何とも言えない顔をしていたが、とやかく言って来ることはなかった。
それだけ、長年欲しくてたまらなかったのだ。ただ、家族を見て笑っている両親が……、母親がとても印象的で、ルイーザが羨ましいと本当に思っていたものが、妹ではないことに本人は全く気づいていなかったが、すぐに飽きるなんてことにはならなかった。思い込んでいたことが大きかった。
「ルイーザお義姉さま。これ、ほしい」
クレールが欲しいと言うとルイーザは……。
「いいわよ。あげる」
「やった!」
クレールは、ルイーザが持っているものを見てはほしいと言うようになったのは、すぐだった。それが日増しに増えていった。ほしい、ほしいとよく言うようになっていっても、それをにこにこしながらルイーザは聞いていて、駄目と言うことは決してなかった。
ルイーザの持っているものを欲しがるところが、無性に可愛く見えてならなかった。他の人たちが、それに何とも言えない顔をしていても、ルイーザは気にならなかった。
(なんて、可愛いんだろう。こんなものを欲しがるなんて、理解できないけど)
ルイーザは、クレールが欲しがるものが理解できなかった。そもそも、人のものを欲しがるより、ルイーザなら新しいものを欲しがる。人のお古なんて欲しいと思うことは、これまでただの一度もなかった。
そもそも、服なんて体型が違うのだ。どんなに頑張ったところで、クレールがルイーザのものを着こなせるはずがなかった。
(もしかして、義姉とはいえ、これが姉の持っているものは、何でも欲しがるって言うやつかしら?)
他の令嬢が、姉を真似ようとして欲しがって困るようなことを聞いたことがあったのを思い出して、ルイーザはそんなことを思っていた。
姉と認められている気がし始めて、それはそれでルイーザは嬉しくなっていた。もはや何をしてもクレールがすることならと受け入れてしまっていた。
でも、それに釘を刺す人物が1人いた。父や兄や使用人ではない。家庭教師でもない。
「ルイーザ様。あの子を甘やかさないでください」
「あら、可愛い義妹に優しくしているだけですわ。お義母様」
「……優しすぎです。もっと手厳しくしてください」
「……」
(そんなことできるわけがないわ。そんなことしたら、嫌われてしまうじゃない。せっかく手に入ったのに)
ルイーザは、内心でそんなことを思っていた。義母は、そのことを知らなかった。マンディアルグ侯爵が、ルイーザの欲しがっているものを手に入れるためにそんなことをしたことを知らなかったのだ。
知っていたら、マンディアルグ侯爵と結婚してはいなかっただろう。リンジーは、貴族になって贅沢がしたかったわけではないのだ。
父親がいないことで、クレールが寂しそうにしていたから、義父となる人物を手にできたらと思ってのことだった。
マンディアルグ侯爵の連れ子に嫌われるのではないかと思っていたら、それは奇遇となってルイーザは真逆なまでに可愛がってくれてはいるが、同時に駄目人間を生み出そうとしている。義姉として、義妹に意地悪をするよりも、甘やかし三昧にしている方が、今後のことを考えると駄目だろうとリンジーは思い始めていた。
それに比べてバスティアンは、父親が再婚してからはクレールのことを存在していないかのように無視していた。もちろん、義母となったリンジーのことも、いないかのように扱っているが、正直そちらの方がリンジーには有り難い反応になっていた。
リンジーは、娘が駄目になっていくのを見ていられなかった。それを見て、自分だけがマンディアルグ侯爵夫人として贅沢三昧な生活をするなんてことをする気もなかった。とにかくルイーザに甘やかさないでくれと言い続け、実の娘のクレールにも色々言っていた。
でも、それをこの2人はわかってくれはしなかった。挙げ句は……。
「ぐすっ、お母さんが意地悪する」
「可哀想に。お義母様、泣かせることないじゃないですか」
そのうち、クレールは泣き真似をするようになっていた。それは、ルイーザの友達やマンディアルグ侯爵家以外の人たちが、あれこれ言うのに言い返して怒鳴り返すよりも、泣いた方が簡単だと思ってのことのようだ。
何が簡単かと言えば、ルイーザが泣かせたことを咎めるからだ。
ルイーザは嘘泣きなのをわかっていながら、クレールの味方をして、今回は義母を責めた。
いつもは、やんわりと義妹をいじめないでと言っていたが、義母にははっきりと言っていた。
ルイーザは、クレールを手にしてから義妹にばかり構っていた。それが気に入らない兄は、義妹がこの家に来てからずっと無視していた。ついでのように義母の方も、まるでいないかのようにバスティアンは無視していた。
マンディアルグ侯爵も、ルイーザがクレールに夢中になってるのが気に入らないらしく、クレールのことをいないものとして扱っていた。だが、マンディアルグ侯爵家ではルイーザがクレールのことを気に入りすぎているため、クレールは実母に説教されるのがウザかろうとも、義父と義兄に無視されようとも、ルイーザが甘やかしてくれる限り問題はなかった。
問題なのは、ルイーザに構ってもらえない面々だ。
「父上。どうしてくれるんですか?」
「そんなこと言ってもな。背に腹は代えられないだろ。見つからないままだったら、失望されていたのは、私なんだぞ?」
「私には痛くも痒くもないですから」
父と兄が、そんな会話をしていることもルイーザは知りもしなかった。
何でも欲しがるクレールにルイーザは、言われるままに何でもあげていた。
(可愛いな)
ルイーザは未だに義妹が可愛く見えている。他から見たら可愛いなんて言えないというのに。ルイーザには可愛くて仕方がなかった。そのため、クレールが視界に入っているとにこにこしていた。
「ルイーザ。まだ、あれを気に入っているのか」
「そうみたいです」
「はぁ、どこがいいんだろうな」
ルイーザの父と兄は機嫌のいいのは嬉しいが、クレールとばかり話して、楽しそうにするのにふてくされ始めていた。
そんな中で、リンジーはもう我慢の限界だとして、マンディアルグ侯爵と離婚をした。それに侯爵は異論はなかった。元よりリンジーのことを何とも思っていなかったのだ。
むしろ、離婚したいと言われてマンディアルグ侯爵が内心でホッとしていることにリンジーとバスティアンは気づいているくらいわかりやすさはあった。
「クレール。一緒にここを出ましょう」
「っ、嫌よ! 私は、ルイーザお義姉様と一緒にいるわ」
そう言って、クレールはルイーザに抱きついていた。クレールは何あるたび、ルイーザの名前を出せば何とかなると思っていて、この時もそうしていた。
「クレール」
ルイーザは、義妹が実母より自分を選んだことに目を輝かせていた。
実母は、何とも言えない顔をして娘を見ていたが、クレールは母親が小煩くて仕方がなかった。何なら離婚すると聞いて、贅沢できているのに何を勿体ないことをするんだと思っていた。マンディアルグ侯爵家にいる限り、贅沢ができるのに。なぜ、離婚をして自分まで連れ立って出て行こうとするのかが全くわからなかった。
クレールは、マンディアルグ侯爵家にいる限りはわがままを聞いてもらえると思っていた。だから、口煩い実母よりも残ることを選んだ。
リンジーは、もう娘に何を言っても無駄だと思ったようだ。娘を置いて、さっさと出て行ってしまった。
それを見ながらルイーザは……。
(面白いな。実母より、私と一緒にいたいなんて、とっても可愛い!)
ルイーザは血の繋がった母親よりも、自分を選んだ義妹が可愛いくて仕方がなかった。
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