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ルクレツィアが目が覚めた時、母が側にいて手を握っていた。伯爵家の使用人たちも心配そうに側にいた。
「お母様……?」
「っ、ルクレツィア! 目が覚めたのね。よかった!」
「??」
泣きながら抱きしめられて、ルクレツィアは目をパチクリさせた。ルクレツィアとしては、寝不足な日々が続いていて、スッキリして目覚めたら、母親に泣かれてわけがわからなかった。
「すぐに旦那様に知らせて。それとお医者様も、呼んで」
母は、泣きながらも指示を出していた。痛いくらい抱きしめられて、ルクレツィアはぼーっとしていた。
どうやら、気が抜けたせいか。熱を出して寝込んでしまっていたようだ。倒れてから1週間も寝ていたらしく、知らせを聞いて父は仕事どころではないとすぐに帰って来てくれた。
そんな慌てふためいて帰って来る父を見たことないがなかったし、顔を見て心から安堵してくれたが、両手には似つかわしくないものが抱えられていた。
「ルクレツィア」
「お父様」
「これは、部下たちからだ」
「え?」
その日も、お見舞いを色々もらったと見せてくれたが、部屋の中が賑やかになっているのも、父の部下やジョヴァンナの父親やその部下たちからもお見舞いが届いていたようだ。
もちろん、ジョヴァンナの家からもジョヴァンナの弟妹たちから早く良くなるようにと手紙や絵が届いていたりした。
何を思い悩んでいたのかと聞かれてルクレツィアは、正直に両親に話した。ここまで心配と迷惑をかけたのだ。何もないとは言えなかった。そんな嘘はつきたくなかった。
「そうか。エヴァリストを真似た子息が、そんなことをしていたのか」
「ジョヴァンナちゃんの婚約者にまで影響を及ぼすなんて信じられないわ」
「あの、お兄様は?」
「……」
「……あいつは、予定をこなしている」
「予定、ですか?」
「妹が倒れたというのに。血も涙もないとは、あの子のことを言うのよ」
ルクレツィアは、兄がどうしているのかと聞けば、予定をこなすのに忙しくしていて、妹が倒れたと聞いても医者でもないからと次の日の予定に関わるからと部屋に行ってしまい、その後もルクレツィアの心配など欠片もしていなかったようだ。
それに両親は憤慨していたし、使用人たちも怒っていた。
だが、ルクレツィアは怒る気にはなれなかった。予定の方が大事になってしまっているのは前からだ。臨機応変さの欠片もない。更には、約束を取りやめにするという発想が、そもそも兄の頭にないのだ。
昔は頭が良いと思っていたが、最近は馬鹿の一つ覚えみたいに同じことを繰り返していて、つまらなくはないかと思い始めている。婚約者より、予定を優先して、一体何を目指しているのやら。
だが、そんな兄を尊敬して真似ることに必死になりすぎて、婚約者のジョヴァンナを蔑ろにしてまで、女性に優しくしようとしていて、おかしなことをしているヴァレリオに両親は凄い顔をしていた。
そんなことを両親に話していると兄が帰って来た。
「あぁ、ルクレツィア。目が覚めたのか」
「……」
久々に見た兄は、格好よかった見た目をしていたはずが、全然そんな風に見えなくなっていた。これが、昔は色んな令嬢に羨ましがられていた人物と同じなのかと思うほど、何というか。劣化していた。
「エヴァリスト。それだけか?」
「え? 起きたなら、それでよかったじゃないですか?」
まるで、血の繋がりもない赤の他人に対してのような物言いに両親は眉を顰めて不愉快そうにしていたが、ルクレツィアは何とも思うことはなかった。もう、この人は兄であって、兄ではない。そう思えた。
「エヴァリスト。お前に話したいことがある」
「は? 明日の予定が……」
「すぐに済む。この家の跡継ぎをお前ではなく、ルクレツィアにすることにした」
「「え?」」
それを聞いてルクレツィアも、兄と同じような声が出た。そんな話を今、初めて聞いたのだ。驚かないはずがない。
「ご冗談を」
「冗談ではない。お前のようなのを跡継ぎにしては、この家が潰れる」
エヴァリストは、それを聞いて腹が立ったようで怒鳴り散らして来たが、父の考えに母も賛同しているようだ。
ちらっとルクレツィアを見た兄は、面倒くさそうな顔をした。さも、当たり前のようにこう言った。
「どう考えても、ルクレツィアの方が家を潰すと思いますが」
「っ、」
それにルクレツィアは、腹が立った。そえ、この兄に言われたくないと本気で思ったからに他ならない。
「何を言ってるんだ。お前の方が確実に潰す。婚約者でもない令嬢たちにどれだけ貢いでいると思っているんだ! 今後は、跡継ぎでもない上、婚約者でもない令嬢にこの家に請求できないようにしてある。払う時は自分でどうにかしろ!」
「っ、そんな!」
エヴァリストは、それを聞いて初めて慌て始めていた。跡継ぎうんねんより、そっちが死活問題のようだ。
それを見ていたルクレツィアは益々、こんな兄を見たくなかったと思えてならなかった。
いつから、こんな残念な人になってしまったのだろうか。人とは、変わるものだ。
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