私は途中で仮装をやめましたが、周りはハロウィンが好きで毎日仮装を続けていると思ったら……?

珠宮さくら

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(ユーフォル視点)

その日は曇りの日だった。


(曇りでも、しんどいな)


久しぶりに昼間からの外回りをして戻って来た。営業部門の部長を任されているのだが、部下にだけ外回りをさせてはいられない時もある。

イベリス辺りが営業に回れば、身の丈にあわない仕事も頼む者もたくさん現れるが、それをし過ぎると来年以降に影響が出てしまう。

クレーム対応だけでも、そこから仕事を取って来るだけでも、あぁなんだ。本当に外回りさせたら、どれだけの影響力を発揮することか。だが、ただですら同性から嫌われるイベリスが、ユズカには偏見の目で見られずに普通に接してもらえていると喜んでいた。他所に行かせるようなことはさせられないとユーフォルは、苦手な外回りをそれなりにしていた。

そんな苦手なことをして会社に戻って来た時にミイラ男の包帯をユズカが一生懸命に替えているのを見つけてしまった。

ユーパトは、そわそわ落ち着かない様子だが、それに気づかずにユズカは怪我の心配をしていて、泣きそうにすら見えた。

それに私は、物凄いショックを受けてしまった。


(そうか。そういう関係なのか)


あんなに美味しそうな匂いを嗅いだことで、吸血衝動を抑えられなくなったのは、子供の頃以来だった。

モルセラが、止めてくれて助かった。じゃないと理性をおさえられずに欲望のまま、ユズカが何を言おうとも、彼女の首に牙をたてていたのは間違いない。


(絶対に美味しいに決まっている。たった数滴を舐めただけでも、甘美だった。今だって、喉が大して渇いてなくとも、彼女を見ると飲みたくてたまらないほどなのに。……そうか。彼女は、ユーパトを選んだのか)


ユーフォルは彼女に密かに己が恋をしているのを自覚するのだが、ユズカは天然なところが可愛いらしく、この世界では珍しい生粋と言える人間でもあった。

噂によると他所から家族と共に迷い込んだというよりも、家族で旅行に来ていたらしいが、その際にも無傷だったとか。彼女の両親だけでなく、その親からここに遊びに来ていたとも聞いたが、それは俄に信じられないことだった。

そんな強運な人間の家系の話など、聞いたこともなかったのだ。ここに家族で、数年に一度旅行に来る人間たち。それは、おとぎ話のように俄に信じられないものでしかなくて、嘲笑っている者ばかりだった。


「そんな人間がいるわけがない」
「どうせ、人間との共存共栄を望む輩の希望的観測に違いない」
「ただの人間が、ここに住み着くなど夢のまた夢。人間にとって、ここほど暮らしにくい世界はないだろう。人間たちにしたら、化け物しかいないような世界なんだからな」


それでも、迷い込んだ人間は時折いたが、長く生きる者はいなかった。昔、人間と血を交えた者の家系に先祖返りした者はいたが、見た目だけが人間のように見えるだけでしかなかった。

そういう人間もどきにしか会ったことはなかったが、本物の人間がどんなものかを知りもしなかった。

そんな時に社長が、稀なる人間がこの会社に入ることを切望していると聞いた時は、己の耳を疑った。


「人間が……?」
「他に取られたくはない。ユーフォル、他に圧力をかけてくれ」


そんな頼みをされて断れるわけもなく、頷きながら首を傾げたくなった。


(本気で、働けると思っているみたいだな)


社長は、既に彼女が他に取られないようにあの手この手を使っていたが、それだけで十分ではないかと頭をよぎったが約束をした手前、きちんと役目は果たした。

それだけでとどまらず、社長自ら面接を自らすると言い出した時は頭を抱えたほどだ。

同族でも、社長を前にすると大変なことになるのだ。人間が彼を目の前にしたら、どうなるなんて簡単に想像できたが、彼女は普通だった。

いや、普通とは言えないか。自分以外は、みんな仮装に拘っているのだと思い込んでいるようだった。

更には、研修にあんなに長い期間を要するとも思っていなかった。

色んなところで気に入られていたようで、この部署に来た新人たちを見渡して彼女がいないことに首を傾げたくなったら、そんなことになっていることを知り、研修期間がこれまでの新人の中でも最長となっていた。


(普通ここで、研修を受けたら2年を超えてしまうな。流石に長すぎる。どこになるにしろ。他の新人たちは部署で、色々と教わっているというのに彼女は、色んな部署で働けるように仕込まれながら、ここまで来たようなもののようだな)


他の部署は、彼女を自分たちのところに配属してもらう気満々で研修期間に詰め込んで教えたようだ。

そんなことになっているとは全く知らなかったが、流石にこれ以上は詰め込んではユズカが可哀想に思えて、最短で終えた。少なからずそこには、営業部には配属されないだろうと思う気持ちがあった。

だが、そんな思惑とは真逆にこの部署に配属されるとは思ってもみなかった。


(なぜ、ここに……?)


そもそも、元の世界に帰るのは無理で、あちらの世界で両親と一緒に死んでいることを育ての魔女は、ユズカに話していないのだとモルセラに聞いた時は、どれほど驚かされたことか。

自分ではなく、両親が死んだと思っていて墓までたてて供養しているのだと聞いて複雑な気持ちにもなった。

知らないままの方が幸せなこともある。


(だとしても、ここで人間が生きるのは、果たして彼女にとって幸せと言えるのだろうか)


人間は、ただですら儚い生き物なのだから、ここの世界で生活し、生き続けるには……。


(伴侶を見つけて、家族を作ることが何より重要になってくる。そうなれば、ここに無傷で来れた強運もあるんだ。普通の人間より、長く生きることも、生き続けることも可能になるのは確かだ)


ミイラ男のユーパトは、良い男だ。ミイラ男の中でも、直系でもある。

彼が夫になれば、ユズカにとって将来が安心なことは間違いない。

そう納得させようとしている自分がいたが、すぐには難しいようだ。


(血の匂いがしなくとも、香しいのは問題だな)


そんなことを思って切なげな顔をするせいで、彼の人気が益々上がっているとも知らずにいた。


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