王太子と婚約した幼なじみが、何の相談もしてくれないまま駆け落ちした相手は、私のことを嫌っている兄でした。愛の逃避行は儚すぎました

珠宮さくら

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「信じられない!」
「誤解だ。そんなの事実ではない」


オルコット侯爵家でも、夫婦喧嘩が繰り広げられていた。妻である侯爵夫人は、友人と夫が長らく不倫していたことを責めていたが、侯爵は事実ではないと言うばかりだった。

アドルファスはオルコット侯爵家に戻っていて、小綺麗な格好をして父のしたことのせいで、散々なことになったとばかりに睨んでいた。


「あなたとは、離婚します。アドルファスは、私が実家に連れて行きます。アドルファス。行くわよ」
「はい」
「ま、待ってくれ。本当に誤解なんだ」
「そんな言葉、信じられるわけがないでしょ。私の学生時代からの友人だと知っていたのに不倫するなんて、そんなの気持ち悪い以外の何者でもないわ」


そう言って、オルコット侯爵夫妻も離婚した。母親の実家にアドルファスは行くことになり、とんでもないことに巻き込まれたとして、祖父母は歓迎した。

でも、母の兄である叔父は、王女との婚約を蹴って、ジュディスと駆け落ちしたのに腹違いの妹だとわかった途端、ジュディスのせいと更には実の妹のところにまで行って、知っていたのに黙っていたのかと責め立てたことを知って、アドルファスのことを甥っ子として認める気はなかった。

祖父母も、アドルファスは悪くないと言い切れない状態に巻き込まれたくないと距離を置くようになるのも、すぐだった。


「私は、知らされてなかったんですよ!」
「……だとしても、妹の幼なじみと恋をして、王女との婚約よりも、王太子と婚約している娘を選んだのは、お前だ。それが、腹違いの妹だとわかったから、全部その娘と周りが悪いで済まされるわけがないだろ」


叔父は、甥を養子に取る気はないと言い、勘当したのをなしにしても、面倒を見る気はないと言われて眉を顰めた。


「お兄様」
「お前もだ。いつ知ったのか知らないが、知ってすぐに対処していれば、こんな大事にはならなかったはずだ。元夫のせいにしていられはしない身分なのを忘れるな」
「っ、」


アドルファスは、叔父の言葉に母を問い詰めた。すると母も、元夫が浮気しているのを知っていて、だから自分も浮気しても許されるとばかりに若い男をとっかえひっかえしていた。

ある意味、ジュディスの母親だけと不倫していた方がマシなくらいだったことを知ってアドルファスは、眉を顰めた。

それこそ、アドルファスに母親は、父親が言っていたような言い訳を言うのを聞いて、似たりよったりな親だったことを思い知るだけだった。


「……プリシラのようにどこかに養子に行っていればよかった」


アドルファスは、散々煩わしく思えてならなかった妹が、一番面倒のない道を歩んでいることを知って、狡いと思うばかりだった。

そんな彼が、再びプリシラのところに現れることはなかった。会って色々言いたいことはあったが、会わせてもらえることはなかった。

それこそ、会って八つ当たりしたいことはアドルファスは山のようにあったが、それをすることは叶わなかった。

そもそも、そんなことをするのはおかしいと言うことに気づくことはなかった。


「あんな女に騙されたせいで、こんな目にあうなんて……。今頃、王女と婚約して、誰もが羨むような出世を約束されていたはずなのに」


もっとも、王女と婚約できていたかというと王女は全く乗り気ではなかった。それを駆け落ちしたと聞いて、丁度いいとなかったことになったことをアドルファスが知ることはなかった。

母親の方も、浮気していたのは自分だと言うのにバレたければ、こんなことにはならなかったとばかりにしていて、悪かったと思う気持ちはなかった。


「そもそも、あの女がちょっかいかけてきたのが悪いのに。とばっちりもいいところだわ」


それにジュディスだ。母親に似て、人の人生を台無しにするところは一緒で、男を誑かす才能がそっくりだと思うばかりだった。

そんなことがあったから、オルコット侯爵家ではプリシラのことを連れ戻すのに心血を注ぐかと言えば、不倫していたことが広まりすぎたのとプリシラが王太子と婚約したのを知って、再び何かすれば大変な目にあうとして、養子から戻って来るように言うことはなくなった。


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