9 / 12
9
しおりを挟む「信じられない!」
「誤解だ。そんなの事実ではない」
オルコット侯爵家でも、夫婦喧嘩が繰り広げられていた。妻である侯爵夫人は、友人と夫が長らく不倫していたことを責めていたが、侯爵は事実ではないと言うばかりだった。
アドルファスはオルコット侯爵家に戻っていて、小綺麗な格好をして父のしたことのせいで、散々なことになったとばかりに睨んでいた。
「あなたとは、離婚します。アドルファスは、私が実家に連れて行きます。アドルファス。行くわよ」
「はい」
「ま、待ってくれ。本当に誤解なんだ」
「そんな言葉、信じられるわけがないでしょ。私の学生時代からの友人だと知っていたのに不倫するなんて、そんなの気持ち悪い以外の何者でもないわ」
そう言って、オルコット侯爵夫妻も離婚した。母親の実家にアドルファスは行くことになり、とんでもないことに巻き込まれたとして、祖父母は歓迎した。
でも、母の兄である叔父は、王女との婚約を蹴って、ジュディスと駆け落ちしたのに腹違いの妹だとわかった途端、ジュディスのせいと更には実の妹のところにまで行って、知っていたのに黙っていたのかと責め立てたことを知って、アドルファスのことを甥っ子として認める気はなかった。
祖父母も、アドルファスは悪くないと言い切れない状態に巻き込まれたくないと距離を置くようになるのも、すぐだった。
「私は、知らされてなかったんですよ!」
「……だとしても、妹の幼なじみと恋をして、王女との婚約よりも、王太子と婚約している娘を選んだのは、お前だ。それが、腹違いの妹だとわかったから、全部その娘と周りが悪いで済まされるわけがないだろ」
叔父は、甥を養子に取る気はないと言い、勘当したのをなしにしても、面倒を見る気はないと言われて眉を顰めた。
「お兄様」
「お前もだ。いつ知ったのか知らないが、知ってすぐに対処していれば、こんな大事にはならなかったはずだ。元夫のせいにしていられはしない身分なのを忘れるな」
「っ、」
アドルファスは、叔父の言葉に母を問い詰めた。すると母も、元夫が浮気しているのを知っていて、だから自分も浮気しても許されるとばかりに若い男をとっかえひっかえしていた。
ある意味、ジュディスの母親だけと不倫していた方がマシなくらいだったことを知ってアドルファスは、眉を顰めた。
それこそ、アドルファスに母親は、父親が言っていたような言い訳を言うのを聞いて、似たりよったりな親だったことを思い知るだけだった。
「……プリシラのようにどこかに養子に行っていればよかった」
アドルファスは、散々煩わしく思えてならなかった妹が、一番面倒のない道を歩んでいることを知って、狡いと思うばかりだった。
そんな彼が、再びプリシラのところに現れることはなかった。会って色々言いたいことはあったが、会わせてもらえることはなかった。
それこそ、会って八つ当たりしたいことはアドルファスは山のようにあったが、それをすることは叶わなかった。
そもそも、そんなことをするのはおかしいと言うことに気づくことはなかった。
「あんな女に騙されたせいで、こんな目にあうなんて……。今頃、王女と婚約して、誰もが羨むような出世を約束されていたはずなのに」
もっとも、王女と婚約できていたかというと王女は全く乗り気ではなかった。それを駆け落ちしたと聞いて、丁度いいとなかったことになったことをアドルファスが知ることはなかった。
母親の方も、浮気していたのは自分だと言うのにバレたければ、こんなことにはならなかったとばかりにしていて、悪かったと思う気持ちはなかった。
「そもそも、あの女がちょっかいかけてきたのが悪いのに。とばっちりもいいところだわ」
それにジュディスだ。母親に似て、人の人生を台無しにするところは一緒で、男を誑かす才能がそっくりだと思うばかりだった。
そんなことがあったから、オルコット侯爵家ではプリシラのことを連れ戻すのに心血を注ぐかと言えば、不倫していたことが広まりすぎたのとプリシラが王太子と婚約したのを知って、再び何かすれば大変な目にあうとして、養子から戻って来るように言うことはなくなった。
129
あなたにおすすめの小説
幸せな結婚生活に妻が幼馴染と不倫関係、夫は許すことができるか悩み人生を閉じて妻は後悔と罪の意識に苦しむ
❤️ 賢人 蓮 涼介 ❤️
恋愛
王太子ハリー・アレクサンディア・テオドール殿下と公爵令嬢オリビア・フランソワ・シルフォードはお互い惹かれ合うように恋に落ちて結婚した。
夫ハリー殿下と妻オリビア夫人と一人娘のカミ-ユは人生の幸福を満たしている家庭。
ささいな夫婦喧嘩からハリー殿下がただただ愛している妻オリビア夫人が不倫関係を結んでいる男性がいることを察する。
歳の差があり溺愛している年下の妻は最初に相手の名前を問いただしてもはぐらかそうとして教えてくれない。夫は胸に湧き上がるものすごい違和感を感じた。
ある日、子供と遊んでいると想像の域を遥かに超えた出来事を次々に教えられて今までの幸せな家族の日々が崩れていく。
自然な安らぎのある家庭があるのに禁断の恋愛をしているオリビア夫人をハリー殿下は許すことができるのか日々胸を痛めてぼんやり考える。
長い期間積み重ねた愛情を深めた夫婦は元の関係に戻れるのか頭を悩ませる。オリビア夫人は道ならぬ恋の相手と男女の関係にピリオドを打つことができるのか。
悪役令嬢カタリナ・クレールの断罪はお断り(断罪編)
三色団子
恋愛
カタリナ・クレールは、悪役令嬢としての断罪の日を冷静に迎えた。王太子アッシュから投げつけられる「恥知らずめ!」という罵声も、学園生徒たちの冷たい視線も、彼女の心には届かない。すべてはゲームの筋書き通り。彼女の「悪事」は些細な注意の言葉が曲解されたものだったが、弁明は許されなかった。
その愛情の行方は
ミカン♬
恋愛
セアラには6歳年上の婚約者エリアスがいる。幼い自分には全く興味のない婚約者と親しくなりたいセアラはエリアスが唯一興味を示した〈騎士〉の話題作りの為に剣の訓練を始めた。
従兄のアヴェルはそんなセアラをいつも見守り応援してくれる優しい幼馴染。
エリアスとの仲も順調で16歳になれば婚姻出来ると待ちわびるセアラだが、エリアスがユリエラ王女の護衛騎士になってしまってからは不穏な噂に晒され、婚約の解消も囁かれだした。
そしてついに大好きなエリアス様と婚約解消⁈
どうやら夜会でセアラは王太子殿下に見初められてしまったようだ。
セアラ、エリアス、アヴェルの愛情の行方を追っていきます。
後半に残酷な殺害の場面もあるので苦手な方はご注意ください。
ふんわり設定でサクっと終わります。ヒマつぶしに読んで頂けると嬉しいです。なろう様他サイトにも投稿。
2024/06/08後日談を追加。
だって悪女ですもの。
とうこ
恋愛
初恋を諦め、十六歳の若さで侯爵の後妻となったルイーズ。
幼馴染にはきつい言葉を投げつけられ、かれを好きな少女たちからは悪女と噂される。
だが四年後、ルイーズの里帰りと共に訪れる大きな転機。
彼女の選択は。
小説家になろう様にも掲載予定です。
婚約破棄? え? そもそも私たち婚約していましたか?
久遠れん
恋愛
「パトリシア・ヴェルガン! 貴様との婚約を――破棄する!!」
得意げな子爵令嬢のクロエを隣において侯爵令息フランクが高らかに告げた言葉に、きょとんと伯爵令嬢パトリシアは首を傾げた。
「私たち、いつ婚約していたんですか?」
確かに二人は古馴染だが、婚約など結んでいない。彼女の婚約者は辺境伯のアンドレである。
丁寧にそのことを説明し、明後日には嫁入りする旨を告げる。フランクもクロエも唖然としているが、知ったことではなかった。
嫁入りした土地で幸せな新婚生活を送る中、ある日ぽろりと「婚約破棄されたのです」と零したパトリシアの言葉に激怒したのはアンドレだった。
詳細を聞いた彼は、彼女の名誉を傷つけた二人への報復を計画し――?
お前との婚約は、ここで破棄する!
ねむたん
恋愛
「公爵令嬢レティシア・フォン・エーデルシュタイン! お前との婚約は、ここで破棄する!」
華やかな舞踏会の中心で、第三王子アレクシス・ローゼンベルクがそう高らかに宣言した。
一瞬の静寂の後、会場がどよめく。
私は心の中でため息をついた。
王子が親友を好きになり婚約破棄「僕は本当の恋に出会えた。君とは結婚できない」王子に付きまとわれて迷惑してる?衝撃の真実がわかった。
❤️ 賢人 蓮 涼介 ❤️
恋愛
セシリア公爵令嬢とヘンリー王子の婚約披露パーティーが開かれて以来、彼の様子が変わった。ある日ヘンリーから大事な話があると呼び出された。
「僕は本当の恋に出会ってしまった。もう君とは結婚できない」
もうすっかり驚いてしまったセシリアは、どうしていいか分からなかった。とりあえず詳しく話を聞いてみようと思い尋ねる。
先日の婚約披露パーティーの時にいた令嬢に、一目惚れしてしまったと答えたのです。その令嬢はセシリアの無二の親友で伯爵令嬢のシャロンだったというのも困惑を隠せない様子だった。
結局はヘンリーの強い意志で一方的に婚約破棄したいと宣言した。誠実な人柄の親友が裏切るような真似はするはずがないと思いシャロンの家に会いに行った。
するとヘンリーがシャロンにしつこく言い寄っている現場を目撃する。事の真実がわかるとセシリアは言葉を失う。
ヘンリーは勝手な思い込みでシャロンを好きになって、つきまとい行為を繰り返していたのだ。
私が、全てにおいて完璧な幼なじみの婚約をわざと台無しにした悪女……?そんなこと知りません。ただ、誤解されたくない人がいるだけです
珠宮さくら
恋愛
ルチア・ヴァーリは、勘違いされがちな幼なじみと仲良くしていた。周りが悪く言うような令嬢ではないと心から思っていた。
そんな幼なじみが婚約をしそうだとわかったのは、いいなと思っている子息に巻き込まれてアクセサリーショップで贈り物を選んでほしいと言われた時だった。
それを拒んで、証言者まで確保したというのにルチアが幼なじみの婚約を台無しにわざとした悪女のようにされてしまい、幼なじみに勘違いされたのではないかと思って、心を痛めることになるのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる