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しおりを挟む(この世界の人たちにとって、当たり前のことなのだろうけど、私からしたら異常にしか見えないことだらけだわ)
それだけ、神様に気にかけてもらっていることに感謝はしている。感謝してもしきれないほどだ。でも、与えられたそれらはアンジェリーカには過ぎたものにしか思えずにいたのも確かだった。
自分のことを私利私欲のために必要とする人ばかりが周りをうろうろする生活を送っていることもあり、アンジェリーカは思い悩むようになっていた。
(私は、たくさんのものを与えられるのに相応しい人間なのかな? そんな風には思えないけど……)
大好きな使用人が寿退社してしまい、アンジェリーカに縁結びをしてもらえると勘違いした使用人たちが、アンジェリーカの側を用もないのにうろちょろし始めてから、そんなことを思わずにはいられなくなっていた。
そんな人たちの大好きな使用人だった彼女と同じことをする気にはなれなかったし、する気もアンジェリーカにはなかった。
そのうち、やっぱりアンジェリーカがしたわけではなかったと思ったらしく、アンジェリーカの周りをうろつくことはなくなったのも早かった。そういう判断でしか動かない人たちしかいないようだ。
何かしてもらおうとする時は、ごますりに勤しむのだが、それが上手くいかなくなると給料分を真面目に働くなんてことをしない人たちばかりだった。そんな面々にアンジェリーカが何かしようと思うことはなかった。
(何だか、彼女がもう既に恋しくて仕方がないわ)
アンジェリーカにとって、貴重な存在だった人が自分の側からいなくなったことで、常に遠い目をするようにすらなっていた。近くを見ていても、つまらないと思ってしまっているのもあった。
そんな気持ちを幼くして持ってしまっていた。もっとも、それはアンジェリーカの見た目でしかない。生まれ変わり続けたのを合計すれば、その年齢はかなりのものになっていた。
煮えきらない思いに苛まれることになるとは思いもしなかった。それも、アンジェリーカが記憶があるままがいいと願ったからだと思うと皮肉でしかない。
(記憶がなかったら、素直に喜んでいられたのかな? それとも、両親や周りの大人たちみたいに傲慢な小娘になってたりして……。そう考えると今の方が断然いい気がしてくるけど。……何でかな。無性に悲しくなって仕方がない。私は、与えられた寿命をまっとうできさえすれば幸せだと思っていたけど、こんな状況でのらりくらりと生きながらえても幸せだとは思えそうもないな)
そんなことを思って憂いを帯びていると制御も上手くできるようになっていると周りに思われるようになってしまっていた。もとから完全に制御しきれなくなるなんてことは、ただの一度もなかったのだが、そのことに誰も気づいてはいなかった。
そのため、一時期離れて行った大人たちが再び、媚びへつらいにアンジェリーカのところに戻って来るようになるのも早かった。
親戚だけでなく、その他の面々まで増えることになったアンジェリーカが、これまで以上に反応することはなかった。そのため、彼らはアンジェリーカの両親や親戚の方に媚を売る方が手応えがあると思って、アンジェリーカにやたらと話しかけて来ることはなかった。
(ものを貰ってばかりいて、それを他の人のものと比べて喜んだり、優遇したりするようにはなりたくないな。そんなもので比べてばかりいて、何が楽しいのかがわからないのよね)
浮かれる両親たちを近くで何度となく見ることになったアンジェリーカは、白けた顔をよくしていた。それを機嫌が悪いと思われて、何かと機嫌を取ろうとする面々がすり寄ってきたりもしていたが、その対応は常に素っ気なかった。
「アンジェリーカ様。今、こういった物が隣の国では流行りなんですよ」
「そう」
「……いち早くアンジェリーカ様がお持ちになれば、瞬く間にこの国でも流行りますよ」
「……」
アンジェリーカが何も言っていないことをいいことに色んなことを言って来る人間は、いつもいる。そういう人に話を聞く前にすっぱり断るよりもある程度、好き勝手なことを言わせてから、こう言っていた。
「そういうものに興味ないわ」
「そ、そうですよね」
「……」
流行り物とやらをアンジェリーカに持たせて金儲けしようとする者も多くいた。そんな人たちの話を一度でも承諾してしまえば、色んな流行りの先駆けを身につけることになっていただろう。
(流行るとわかっているなら、自分の子供にでも着せればいいのに)
アンジェリーカは、内心でそんなことを思っていた。決してうんとは言わないことがわかってもらえず、益々アンジェリーカの機嫌が悪くなる一方となっていたが、それが通じないツワモノだけがアンジェリーカにしつこくしていて、げんなりしてしまっていた。
(こういう時に鈍感だと自分の感情で突き進めるのね。……こうならないように私は気をつけたいものだわ)
反面教師がアンジェリーカの周りにはたくさんいた。居すぎなくらいいた。そちらの勉強ばかりに特化しそうで、アンジェリーカはため息をつきたくなることが増える一方となっていた。
更には、祝福がない者への扱い方と祝福が消えかけている者の必死さを見ることになり、この世界の多くの人間の考え方が、アンジェリーカには理解できずにいた。
そんな人たちを見続けて、少しづつ確実にこの世界の住人のように自分もなっていっていることにこの時のアンジェリーカは気づいてもいなかった。そうはなりたくないと思いながら、自分のやりたいことしかやらずに面倒くさいとか。迷惑だとして、何もしないで突き進む血断をし続けているのだ。与えられた力をどうやったら活かせるかを考えることなく、自分だけが安寧に暮らせることを1番に考えている辺り、この世界の住人と同じになってしまっていることに早くに気づいていれば良かったのだろうが、そのことに行き着かずにいた。
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