訳あり少女は、転生先でも散々な目に合う道を自ら選び続けて、みんなの幸せを願わずにはいられない性分のようです

珠宮さくら

文字の大きさ
32 / 55

32

しおりを挟む

それから、しばらくして見続けていた夢が正夢のようになる日がやって来たのは、アンジェリーカが12歳の時のことだ。

あれから、毎日ではなくて忘れた頃に夢を見るようになり、決して忘れさせないみたいに思い出せるように夢を見るようになっていた。

この世界では、13歳から学園に入って勉強することになるのだが、もう既にアンジェリーカの座学はばっちりのようになっていた。そこまでになって入学してから何を学ぶのかと思うところだが、何で卒なくこなせるのもまた自慢になると思われているようだ。

アンジェリーカとしては、前の世界では小学生から普通に授業を受けていたこともあり、13歳からなんて暇を持て余すと思ってのこともあり、勉強が忙しいと言えば、パーティー三昧の両親に付き合わなくともいいと思ってのことでしかなかった。

そのため、ずっと部屋に閉じこもっていても、アンジェリーカは何の苦でもなかった。ここで必要なものが、アンジェリーカには面白いものばかりで勉強していても楽しくて仕方がなかったのもある。

でも、それを楽しみにすることで、アンジェリーカは現実逃避をしていたようだ。

約束もしていないのにふらりとエジェオは、アンジェリーカのところに現れた。彼じゃなければ、アンジェリーカの部屋のバルコニーに立っている男性など、お構いなしの魔力で吹っ飛ばしていたところだ。


「エジェオ先生……?」
「アンジェリーカ様、あなたにおり言って頼みがあります」
「?」
「この方の話を聞いてほしいんです」


そんなことを突然言ったエジェオの隣にフードを目深に被っている人物がいた。

もう一度言うが、先生でなければ吹っ飛ばしていたところだ。それに人に会うとなって、その格好のままなことにも物申したいところがなかったわけではない。ただ、先生が困っているのがよくわかってしまい、失礼すぎるという話をしなかっただけだ。

それに気になることもあった。そっちが、メインだ。聞く前から面倒くさそうだと思ってなんかいない。


(不思議な気配。先生よりも、弱ってる……? 人間の病気とも違うみたいだけど、何かしら? ……というか。これから眠ろうとしている時に来るって、どうなの?)


「……聞くだけなら」


無下にできずにアンジェリーカは、そう答えていた。それもこれも、1番長く家庭教師をしてくれているからだ。それと寝てるところを起こされていたら、確実に誰なのかを気づいていようとも、問答無用で吹っ飛ばしていた。

すると目深にフードを被っていた者は、そのままで名を付けた。


「突然、申し訳ない。私は、メンフィス。エルフ族の王子です。あなたに頼みがあってやって来た」
「初めまして、私は、アンジェリーカ・グラッツィアーニといいます。エジェオ先生にも言いましたが、聞くだけ聞きますが、その頼みを聞くかどうかは聞き終えてから考えます。それでもよければ、話をしてください」
「……わかった」


一体、何事だろうと思っていた。眠気もあって、アンジェリーカは若干イライラしてもいたが、アンジェリーカの持つ祝福と魔力が、エルフの国のピンチを救う鍵だとメンフィスは切々と語ってくれたことで、眠気もどこかに吹っ飛んでしまった。


(エルフ、やっぱりいたんだ)


それを教えてくれたのは、見目麗しいはずのエルフのはずが、彼がフードを下ろして素顔を見せてくれたのは、話し終えてからだった。その容姿は酷く弱々しく見えて、それを見たアンジェリーカは、悲痛な顔をしていた。


(なんてことなの。こんなにも危うい存在を目の当たりにしたのは初めてだわ。……人間なら、とっくに亡くなっていてもおかしくないでしょうに。よく生きてるな)


彼からしたら、幼いアンジェリーカにメンフィスは必死に現状を話してくれて、仲間のためにと頭を下げたのだ。

その話を一緒に聞いていたエジェオも同じく頭を下げていた。


「先生も、エルフなんですか?」
「私は、エルフと人間とのクォーターなんだ。すまない。君が、エルフのことを聞いてきた時に答えられなかったのは、エルフの存在は訳あって秘密になっているんだ。そのため、人間にエルフの存在を打ち明けるのに許可が必要になっていて、話をすることができなかったんだ」
「ごめんなさい」
「? なぜ、あなたが謝るのですか?」
「先生に答えられないことを聞いてしまっていたとわかったからです。先生は、私が尋ねたことでわからないことでも、調べてあとから必ず答えてくれていた。なのにエルフについては、いるも、いないも、答えてはくれなかった。2年近く前になるのにその間、あなたを悩ませ続けていたと思ったので」
「謝らないでください。あなたに聞かれてから、メンフィス様に救ってくれる唯一の人として報告できたんです。でも、人間にエルフの存在を打ち明けることになることで、エルフ内で揉めてしまっていたせいで、深刻な事態になってしまっていて」


(存在を打ち明けるだけで、揉めるくらいなんだ。それじゃ、どこを探しても見つからないわけよね。歴史に存在を残さないように隠れて生きていたみたいだし。……でも、そんな存在が何でここにいるんだろ?)


アンジェリーカは、そんなことを思って不思議に思ってしまっていた。ここでなくとも良さげな気がしていた。でも、それも初めての人間以外の種族におかしなことを思ってしまうのは、眠たいのを無理して起きているせいだと思うことにした。


「エルフは、長寿の一族だ。たった数年で、こんなに深刻な事態になるとは想定できる者が殆どいなかったんだ。これまでが、ずっと緩やかなものだったから、まだそこまでではないと思っていたが、急激に一刻を争うことになってしまった。こんな事態になることを誰も思っていなかったんだ。……すべては王族である私の読みが甘かったせいだ」
「メンフィス様。1番辛い思いをなさっているのは、メンフィス様たち王族です。私は、クォーターなので、そこまで、ではありませんが、こうしているだけでもお辛いのはわかります」
「そんなこと言ってはいられない。エルフ族が潰えてしまうかもしれないんだ。私の苦痛など、民の苦しみに比べれば大したことではない」


そんな事態となって、メンフィスは見目麗しい容姿ではなくなった姿をさらすまでになったのだ。

それだけ、切羽詰まっていてなりふりかまっていられないエルフ族を救うために目の前の2人は必死になっていることが、アンジェリーカにも伝わってきていた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

転生皇女セラフィナ

秋月真鳥
恋愛
公爵家のメイド・クラリッサは、幼い主君アルベルトを庇って十五歳で命を落とした。 目覚めたとき、彼女は皇女セラフィナとして生まれ変わっていた——死の、わずか翌日に。 赤ん坊の身体に十五歳の記憶を持ったまま、セラフィナは新しい人生を歩み始める。 皇帝に溺愛され、優しい母に抱かれ、兄に慈しまれる日々。 前世で冷遇されていた彼女にとって、家族の愛は眩しすぎるほどだった。 しかし、セラフィナの心は前世の主・アルベルトへの想いに揺れ続ける。 一歳のお披露目で再会した彼は、痩せ細り、クラリッサの死を今も引きずっていた。 「わたしは生涯結婚もしなければ子どもを持つこともない。わたしにはそんな幸福は許されない」 そう語るアルベルトの姿に、セラフィナは決意する。 言葉も満足に話せない。自由に動くこともできない。前世の記憶を明かすこともできない。 それでも、彼を救いたい。彼に幸せになってほしい。 転生した皇女が、小さな身体で挑む、長い長い物語が始まる。 ※ノベルアップ+、小説家になろうでも掲載しています。

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました

iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

【完結】私が誰だか、分かってますか?

美麗
恋愛
アスターテ皇国 時の皇太子は、皇太子妃とその侍女を妾妃とし他の妃を娶ることはなかった 出産時の出血により一時病床にあったもののゆっくり回復した。 皇太子は皇帝となり、皇太子妃は皇后となった。 そして、皇后との間に産まれた男児を皇太子とした。 以降の子は妾妃との娘のみであった。 表向きは皇帝と皇后の仲は睦まじく、皇后は妾妃を受け入れていた。 ただ、皇帝と皇后より、皇后と妾妃の仲はより睦まじくあったとの話もあるようだ。 残念ながら、この妾妃は産まれも育ちも定かではなかった。 また、後ろ盾も何もないために何故皇后の侍女となったかも不明であった。 そして、この妾妃の娘マリアーナははたしてどのような娘なのか… 17話完結予定です。 完結まで書き終わっております。 よろしくお願いいたします。

捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。 これで、貴方も私も自由です。 ……だから、もういいですよね? 私も、自由にして……。 5年後。 私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、 親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、 今日も幸せに子育てをしています。 だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。 私のことは忘れて……。 これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。 はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?

何もしない公爵夫人ですが、なぜか屋敷がうまく回っています

鷹 綾
恋愛
辺境公爵カーネル・クリスの妻となったフィレ・バーナード。 けれど彼女は、屋敷を仕切ることも、改革を行うことも、声高に意見を述べることもしなかった。 指示を出さない。 判断を奪わない。 必要以上に関わらない。 「何もしない夫人」として、ただ静かにそこにいるだけ。 それなのに―― いつの間にか屋敷は落ち着き、 使用人たちは迷わなくなり、 人は出入りし、戻り、また進んでいくようになる。 誰かに依存しない。 誰かを支配しない。 それでも確かに“安心できる場所”は、彼女の周りに残っていた。 必要とされなくてもいい。 役に立たなくてもいい。 それでも、ここにいていい。 これは、 「何もしない」ことで壊れなかった関係と、 「奪わない」ことで続いていった日常を描く、 静かでやさしい結婚生活の物語。

処理中です...