高校生の頃に同じ場所にいたことを僕だけが知っている

珠宮さくら

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彼女に初めて出会ったのは、桜が咲き始めた頃だった。


「あの!」
「?」


桜に見惚れていた僕こと伊東凪は、そんな声に立ち止まって、そちらを声のした方をゆっくりと見た。

そこには、電車で見かけていた女子がいた。中学の時と違って、同じ路線を使う高校に進学したらしく、真新しい制服ではなくて、この一年見慣れた制服姿だった。

あぁ、やっぱり、いつ見ても可愛いな。

新学期から、2年生になる。同い年なのは知っている。


「あなたが、好きです!」


それは、僕が彼女から聞きたかった言葉だった。


「あー、ありがとう。気持ちは嬉しいよ。だけど、俺……」
「佳都くん! ごめ~ん。お待たせ」
「いや、全然、待ってないよ。待ち合わせより早いし」


彼女が告白した相手は、僕ではない。別の男子だった。

待ち合わせをしていたらしく、別の制服を着た女の子が駆けて来たのが見えた。

あちらが、カノジョ……? 趣味悪いな。僕なら……。

そんなことを思ってしまっていたら、後から来た女子はようやく他に人がいることに気づいたかのようにした。


「ん? こちらは?」
「あー、えっと」


流石に告白されていたとは言えなくて、男の方が言い淀むと告白した方は、絞り出すような声を出した。


「その、道に迷ってしまって」
「え? そうなの? どこ、行くとこ? 私、わかるかな?」
「あの、場所は聞けたので、大丈夫です。その、すみません。ありがとう、ございました」


謝罪とお礼の言葉は、道のことではなくて告白のことだと言うのは、聞いていたぼくでなくとも、相手には伝わったようだ。


「いや、こちらこそ。その、気をつけて」


恋人が既にいるとそもそも知らなかったようだ。タイミング悪く待ち合わせしていたこともあって、お互いが下手なこと言えない状況の中でも、そんな会話をしているのを目撃することになった僕は、何とも言えない顔をしてしまった。

こんな場面を盗み見ることになるとは、思わなかった。

告白した彼女のことを好きな僕は、その言葉を聞きたかったはずなのに。それが別の人に向けられていて、その一部始終を目撃することになってしまっていたたまれない気持ちになってしまった。

彼女がいなくなり、僕も立ち去ろうとしていたが、待ち合わせでやって来た女の子は先程までと違う声音で恋人に話しかけた。あれが、素のようだ。


「ねぇ、さっきの告白されてたんでしょ?」
「……」
「ちゃんと断ったの?」
「……」
「道を聞いてたとか惚けちゃって、何なの? あんな見た目で、よく告白できるわ」


ボロクソに言うのに僕は腹が立ってしまった。そこまで言うことないだろ。特に見た目のことは、お前にそこまで言われることじゃないと言ってやりたい。

あの子の方が断然、可愛い! イケメンだけど、見る目ないな。

そんなことを思ってしまった。


「そういえばさ。俺、君への告白の返事してなかったよね?」
「へ? あ、そうだっけ? え? 今更じゃん」


照れ始めた女の子に彼は、にっこりと笑っていた。

うわっ、そんなの聞きたくなさすぎる。早く離れて……。


「そうだよな。ごめんな。ずっと保留にしてたけど、俺、別の子と付き合ってるんだ」
「は……?」


え? 保留??

僕は思わず、立ち去ろうとしていた足を再び止めてしまったが、ここに居続けるのも変だとスマホで桜を撮り始めた。

そこに他の生徒たちも、続々と集まって来た。


「え??」
「悪い。やっぱ、学校違うと集まるの大変だな」
「だよね。あれ? こっちは、学校の友達?」
「いや、別の学校の子」
「あれ? その制服、ここから遠くね? 何で、俺らより早いの?」
「あ、えっと、早めに出たから」
「それって、新学期早々にサボったってこと? すげぇな」


どうやら、彼氏と思っていた男子と2人でデートだと思っていたのにみんなで花見をすることを知らなかったようだ。


「それで、彼女なの?」
「いや、違う。俺の彼女は……」


親に車で送ってもらって来た女の子を指さした。


「うわっ、あの制服って、超お嬢様じゃん!」
「すみません。お待たせしましたか?」
「いや、時間より早いよ」


どうやら、彼女を紹介するのも兼ねて花見を計画したようだ。

それを目撃することになった僕は、凄い展開だと見たことが夢幻のように思えてしまっていた。

悔しそうにする勘違いしていた彼女だと思った方は、雰囲気をぶち壊せずに巻き込まれるように花見に行くことになって、凄い顔をしていた。

あれは、大丈夫な顔ではない。そもそも、断ろうとしている相手をここに呼んで花見って発想が凄い。

……なんか、疲れたな。

僕は、とんでもない告白の現場に居合わせてしまい、怒涛の告白ラッシュに疲れてしまった。

それが、僕の高校2年にあがる年の春の思い出だ。


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