見るに堪えない顔の存在しない王女として、家族に疎まれ続けていたのに私の幸せを願ってくれる人のおかげで、私は安心して笑顔になれます

珠宮さくら

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王宮では、ずいぶん昔にこんなことがあった。


「やだ。視界に入らないでよ。幸せな気分が台無しになるじゃない」
「本当にそうだな。おい、隅によってろ」
「はい」
「答えるな。黙れ。お前の声ほど耳障りなものはないんだ」
「っ、」


マルへリートと父である国王にそんなことを言われて、部屋の隅にアンネリースは寄った。返事するのも、いい時と悪い時があり、アンネリースはその差がわからずにげんなりしていた。

声に関しては、耳がおかしいと思っているが、そんなこと口が裂けても言葉にできない。


「もっと端よ。もう、わからないわね。視界にどう合っても入るのやめてよ。食事が不味くなるわ」
「もう、面倒くさいわね。これからは、部屋で食事しなさい」
「あ、そうよ! そうすればいいんだわ」
「……」


母である王妃の言葉が妙案だとなり、アンネリースが家族で食事をすることがなくなったのは、マルへリートが婚約するよりずっと前のことだった。

それまでは王族のしきたりに拘っていた。仮面つきであろうと王族は、10歳になってからは一緒に食事をするようにと初代が決めたことだったが、それをあっさりと破ることになったのは、数回の食事の後だった。

3食なんて、無理だとなり1日1食になっても我慢ならないと色々と言われて、最終的にはなくなった。

まぁ、それはお互いのためにはよかった。


(あの人たちと食べてる方が苦痛だったのよね。何で初代は、王族は家族で食事しろなんてしきたりを作ったりしたんだか。しかも、10歳から嫁ぐまでなんてしきたりも変よね。顔を合わせなければやり過ごせるのに。無理やり会うようになれば、火に油を注ぐだけだと思うけど)


他にも、おかしなしきたりがたくさんあったが、食事を別々にしてから、次々とその昔からのしきたりを破っていった。もちろん、両親と妹がしたことだ。

どれも、拘ってなどいなかったアンネリースにはありがたいことばかりだった。何気に10歳から、色々やることが多くてげんなりしていたが、それがやらなくていいとなって、こんなに嬉しいことはなかった。

そこから、1人寂しく食事することになったかと言うとメイドが一緒にいてくれたから、そうはならなかった。

成長してからアンネリースの側にいたのは、乳母でなくなって、しばらく経っていた。

彼女もまた、母親と同じく仮面をつけていないが、普通の顔をしていた。アンネリースが唯一、心許せる人でアンネリースの乳母をしていた人の娘なこともあり、姉のような存在だった。

乳母は、仮面を即刻つけなければならないほどの器量で生まれたアンネリースを誰も世話をしないことに心を痛めてくれた唯一の人だ。

乳母は、娘が普通な顔をしていたこととアンネリースの世話をしていることで、色々言われて離婚までする羽目になったのだが、それでもアンネリースの世話をやいてくれた。


「大丈夫ですよ。私が、おります」


アンネリースの世話をしていなければ、再婚もできるはずだが、彼女は頑なにアンネリースの世話を辞めることはなかった。


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