見るに堪えない顔の存在しない王女として、家族に疎まれ続けていたのに私の幸せを願ってくれる人のおかげで、私は安心して笑顔になれます

珠宮さくら

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アンネリースを見送った後のことだが、この後バーレントが仮面をつけた者が他にもいると気づいたかと言うとちょっとおかしなことになった。

彼の頭の中が、アンネリースが思っていたより残念だったせいだ。


「仮面の君!? どうして……」
「……」


そう、バーレントからアンネリースは名前で呼ばなかったことがなかったことと他にも仮面をつけた者がそれなりにいたことを彼は知らなかった。

体型の違いなんて、そもそも見てもいなかった。仮面を付けているだけで、その仮面の違いもわかっていなかった。

そこから、彼はおかしな方向に考えを向けた。アンネリースが留学したと見せかけてローザンネ国に残ったと思い込んでしまったのだ。

本当にとことん都合の良い思考をしていると思うが、彼はそう思ってしまったのだ。


「そうか。そこまでして、私のことを……」
「……」


盛大な勘違いから、その仮面をつけた女性を囲うことにした。仮面のみ一緒のように見えても、姿形が違うことをバーレントには理解できなかった。

彼が見ているのは、仮面だけだった。それを付けているのが、バーレントにとってはみんなアンネリースに見えていた。彼は、その人物がアンネリースだと思っていた。

その仮面をつけた女性もまた、都合の良い思考をしていた。バーレントに愛されていると思っていたこともあり、住むところを世話されて、それだけ彼に想われる大事な存在なのだと思うことになった。その誤解が中々解けることはなかった。

彼は名前ではなくて、仮面の君と呼び、仮面をつけた方は滅多に声を発しないので、気づかなかったのだ。お互いが物凄い勘違いをしていることがわからなかったのだ。

だが、アンネリースが留学先から戻ることはなかったため、そんなことになっていることを知ることはなかった。それを逐一知らせる人もいなかった。おや、知らせる術もなければ、そんなことになっていることを調べて回るなんてことを誰もしなかった。

囲われることになった仮面の君は、バーレントの寵愛を一身に受けていることにすっかり浮かれ、有頂天になっていた。真実を知らない間は、それは大事にされて、とても幸せだった。

それが、自分に向けられたものではなかったことを知るまではだったが、この世で一番幸せだと思って疑うこともしなかった。

それは、バーレントの方も同じだった。


「私ほど幸せな者はいないな」
「……」
「君も、そう思ってくれているか?」


滅多に話さないかわりに頷いた。それにバーレントはとろけるような視線を向けていた。

それをアンネリースに向けていたら、全力で逃げ出していただろうが、アンネリースと間違われている女性は逃げ出すどころか。そんなバーレントにすり寄った。

それこそ、2人を目撃する者がいたら、いい雰囲気だと思った者も多かったはずだ。

つまり、お互いが勘違いしていた時が、一番幸せだとだったのだ。勘違いに気づいた途端、幸せだと思っていたことが、全く違う感情にすり替わることになるとも知らずに。

そんなあっさりと相手が違うと思っていたことで変わるとしたら、その気持ちが本物とは違ったのだろうが、この時のバーレントたちが密会している間が至福の時だった。

そして、マルへリートも婚約者がそういう者を好むことを知ることなく、過ごしている方が幸せだった。

その頃には、仮面を付けていた人たちは山奥に引きこもって、仮面を付けていない者たちと決別していたから、生活が段々とままならなくなって行っても、この2人はお互いがいればよかった。


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