13 / 61
12
しおりを挟む「うっぷ」
「ちょっと、フェリーネ、大丈夫?」
「……駄目かもしれません」
(珍しい。こんな弱音を言うのを初めて聞いた)
アンネリースの侍女をしているフェリーネ・アッセルは、船に乗った途端、船酔いになって苦しんでいた。あの国にいる時は、あまり名前を呼ばないようにしていたが、出たから問題はない。
フェリーネのそんな弱った姿をアンネリースは初めて見た。
「酔い止めは?」
「飲みました」
「なら、横になっているといいわ」
「でも、アンネリース様」
「私は、この通り元気よ。だから、心配しなくていいわ。ゆっくり休みなさい」
「申し訳、ありません」
アンネリースは見ていられず、フェリーネを休ませた。そんなことを王宮ではしたことはなかった。フェリーネは、熱があろうと咳をしていようとも、アンネリースの世話をしてくれていた。それは乳母である彼女の母親も、そうだった。
病気以外で、苦しむこともあった。毒で苦しんだ時より、堪えているように見える。船酔いとはなんと恐ろしいものなのか。
王宮にいる時ならしないことをした。
アンネリースは、気晴らしに甲板に出ることにしたのだ。それこそ、船になんてもう乗ることはないはずだ。楽しまなくては損とばかりに船の中をうきうきと移動していた。
ここに仮面をつけたアンネリースを疎む者はいないはずだ。それでも、こそこそする癖は抜けなかった。
仮面を付けていても、誤解しているなら、そんなに問題にはならないはずだ。仮面を取らなければいいだけだ。
だが、人の気配がすると隠れてしまう。そんな行動が染み付いているのに慣れるのも大変そうだと思って苦笑しながら、甲板に出た。
(これが潮風というものなのね。やっぱり、本で読むより、実際は違うわ。仮面を外したら、もっとよく見えるのだろうけど)
そんなことを思っていると声をかけられた。ローザンネ国では、仮面をつけているとよほどのことがないと仮面を付けていない者に話しかけられたりしない。そもそも、そういう者に罵倒されないのは初めてだった。
フェリーネや仮面を付けている者にしかまともに話しかけられたことはない。例外は、バーレントだが、あれは盛大な独り言のはずだから、例外中の例外だ。
アンネリースは初めてのことに驚いてしまった。逃げようとしたこを思いとどまり、更には驚いたように見えないようにしたが、仮面の下は顔色があまり良くはなかったはずだ。
「あの人は、大丈夫そうかい?」
「……あまり、大丈夫じゃないかもしれません。あの、いつ頃着きますか?」
「だいぶ、かかるよ。俺らでも、滅多なことじゃ、往復しないとこだから」
「……」
(そう言えば、他所からの船は滅多に来たことがなかったっけ。そういう時の荷下ろしに仮面をつけた者にやらせていたのよね)
アンネリースは、どのくらいかかるかも知らずに船に乗っていた。海を渡ることになるなんて夢のまた夢だと思っていたから、とても不思議な気分だった。
それに仮面をつけているのに見下したところがないところも、珍しいことだった。やはり、勘違いしているのかもしれない。
「この辺の海流は、ベテランの船乗りにも厄介なんだ。だが、王命で留学生のお姫様を迎えに行くのは名誉なことだ。安心してくれていい」
「え?」
(王命で来ているの?!)
何だか、とんでもないことになっている気がしてアンネリースは、そこに驚いてしまった。いや、国王が打診して来たのだから、当たり前なのか。
(あの人みたいなのを国王の見本にしちゃ駄目ってことね)
アンネリースは、そんなことを考えてしまっていた。
「さぁ、中に。これから、更に荒れるから、部屋で休んでいてください」
「……」
部屋に戻るように言われて、アンネリースは色々と聞きそびれてしまった。
部屋に戻ると侍女は眠っていて、アンネリースが戻っても目を覚ますことはなかった。
アンネリースは荒れると聞いて自分も船酔いになるかと思ったが、そうはならなかった。
それなりのものを毎日持って来てくれて、それは王宮で食べるよりも豪華だった。
(凄い! 船の上で、こんなに彩りの良い物が食べられるなんて、しかも果物まである!)
アンネリースは物凄く感激していた。
なのに……。
「こんなもんしかなくて、すんません」
「え?」
「こら、お姫様に気安く話しかけんな」
「す、すんません」
慌てていなくなる船員にアンネリースは……。
(やっぱり、なんか、誤解されている気がする。……十分豪華なのに。贅沢してると思われたのかな?)
アンネリースは、言いしれぬ不安を抱いていたが、それをフェリーネに話せずにいた。侍女の船酔いがよくならなかったのだ。
なのにアンネリースだけが、ぴんぴんしていた。その間も、色々あったが、それでも着いてしまえば、ゆっくりできると思っていた。フェリーネが元気になってくれれば、問題は何もなくなる。そのはずだった。
でも、ゆっくりなんてできなかった。
62
あなたにおすすめの小説
わたしを嫌う妹の企みで追放されそうになりました。だけど、保護してくれた公爵様から溺愛されて、すごく幸せです。
バナナマヨネーズ
恋愛
山田華火は、妹と共に異世界に召喚されたが、妹の浅はかな企みの所為で追放されそうになる。
そんな華火を救ったのは、若くしてシグルド公爵となったウェインだった。
ウェインに保護された華火だったが、この世界の言葉を一切理解できないでいた。
言葉が分からない華火と、華火に一目で心を奪われたウェインのじりじりするほどゆっくりと進む関係性に、二人の周囲の人間はやきもきするばかり。
この物語は、理不尽に異世界に召喚された少女とその少女を保護した青年の呆れるくらいゆっくりと進む恋の物語である。
3/4 タイトルを変更しました。
旧タイトル「どうして異世界に召喚されたのかがわかりません。だけど、わたしを保護してくれたイケメンが超過保護っぽいことはわかります。」
3/10 翻訳版を公開しました。本編では異世界語で進んでいた会話を日本語表記にしています。なお、翻訳箇所がない話数には、タイトルに 〃 をつけてますので、本編既読の場合は飛ばしてもらって大丈夫です
※小説家になろう様にも掲載しています。
治療係ですが、公爵令息様がものすごく懐いて困る~私、男装しているだけで、女性です!~
百門一新
恋愛
男装姿で旅をしていたエリザは、長期滞在してしまった異国の王都で【赤い魔法使い(男)】と呼ばれることに。職業は完全に誤解なのだが、そのせいで女性恐怖症の公爵令息の治療係に……!?「待って。私、女なんですけども」しかも公爵令息の騎士様、なぜかものすごい懐いてきて…!?
男装の魔法使い(職業誤解)×女性が大の苦手のはずなのに、ロックオンして攻めに転じたらぐいぐいいく騎士様!?
※小説家になろう様、ベリーズカフェ様、カクヨム様にも掲載しています。
今世は『私の理想』の容姿らしいけど‥到底認められないんです!
文月
恋愛
私の理想の容姿は「人形の様な整った顔」。
クールビューティーっていうの? 華やかで目を引くタイプじゃなくて、ちょっと近寄りがたい感じの正統派美人。
皆の人気者でいつも人に囲まれて‥ってのじゃなくて、「高嶺の花だ‥」って遠巻きに憧れられる‥そういうのに憧れる。
そりゃね、モテたいって願望はあるよ? 自分の(密かな)願望にまで嘘は言いません。だけど、チヤホヤ持ち上げられて「あの子、天狗になってない? 」とか陰口叩かれるのはヤなんだよ。「そんなんやっかみだろ」っていやあ、それまでだよ? 自分がホントに天狗になってないんなら。‥そういうことじゃなくて、どうせなら「お高く留まってるのよね」「綺麗な人は一般人とは違う‥って思ってんじゃない? 」って風に‥やっかまれたい。
‥とこれは、密かな願望。
生まれ変わる度に自分の容姿に落胆していた『死んで、生まれ変わって‥前世の記憶が残る特殊なタイプの魂(限定10)』のハヅキは、次第に「ままならない転生」に見切りをつけて、「現実的に」「少しでも幸せになれる生き方を送る」に目標をシフトチェンジして頑張ってきた。本当の「密かな願望」に蓋をして‥。
そして、ラスト10回目。最後の転生。
生まれ落ちるハヅキの魂に神様は「今世は貴女の理想を叶えて上げる」と言った。歓喜して神様に祈りをささげたところで暗転。生まれ変わったハヅキは「前世の記憶が思い出される」3歳の誕生日に期待と祈りを込めて鏡を覗き込む。そこに映っていたのは‥
今まで散々見て来た、地味顔の自分だった。
は? 神様‥あんだけ期待させといて‥これはないんじゃない?!
落胆するハヅキは知らない。
この世界は、今までの世界と美醜の感覚が全然違う世界だということに‥
この世界で、ハヅキは「(この世界的に)理想的で、人形のように美しい」「絶世の美女」で「恐れ多くて容易に近づけない高嶺の花」の存在だということに‥。
神様が叶えたのは「ハヅキの理想の容姿」ではなく、「高嶺の花的存在になりたい」という願望だったのだ!
この話は、無自覚(この世界的に)美人・ハヅキが「最後の人生だし! 」ってぶっちゃけて(ハヅキ的に)理想の男性にアプローチしていくお話しです。
婚活をがんばる枯葉令嬢は薔薇狼の執着にきづかない~なんで溺愛されてるの!?~
白井
恋愛
「我が伯爵家に貴様は相応しくない! 婚約は解消させてもらう」
枯葉のような地味な容姿が原因で家族から疎まれ、婚約者を姉に奪われたステラ。
土下座を強要され自分が悪いと納得しようとしたその時、謎の美形が跪いて手に口づけをする。
「美しき我が光……。やっと、お会いできましたね」
あなた誰!?
やたら綺麗な怪しい男から逃げようとするが、彼の執着は枯葉令嬢ステラの想像以上だった!
虐げられていた令嬢が男の正体を知り、幸せになる話。
【完結】妹に存在を奪われた令嬢は知らない 〜彼女が刺繍に託した「たすけて」に、彼が気付いてくれていたことを〜
桜野なつみ
恋愛
存在を消された伯爵家の長女・ビオラ。声を失った彼女が、唯一想いを託せたのは針と糸だった。
白いビオラの刺繍に縫い込まれた「たすけて」の影文字。
それを見つけたのは、彼女の母の刺繍に人生を変えられた青年だった──。
言葉を失った少女と、針の声を聴く男が紡ぐ、静かな愛の物語。
ボロボロになるまで働いたのに見た目が不快だと追放された聖女は隣国の皇子に溺愛される。……ちょっと待って、皇子が三つ子だなんて聞いてません!
沙寺絃
恋愛
ルイン王国の神殿で働く聖女アリーシャは、早朝から深夜まで一人で激務をこなしていた。
それなのに聖女の力を理解しない王太子コリンから理不尽に追放を言い渡されてしまう。
失意のアリーシャを迎えに来たのは、隣国アストラ帝国からの使者だった。
アリーシャはポーション作りの才能を買われ、アストラ帝国に招かれて病に臥せった皇帝を助ける。
帝国の皇子は感謝して、アリーシャに深い愛情と敬意を示すようになる。
そして帝国の皇子は十年前にアリーシャと出会った事のある初恋の男の子だった。
再会に胸を弾ませるアリーシャ。しかし、衝撃の事実が発覚する。
なんと、皇子は三つ子だった!
アリーシャの幼馴染の男の子も、三人の皇子が入れ替わって接していたと判明。
しかも病から復活した皇帝は、アリーシャを皇子の妃に迎えると言い出す。アリーシャと結婚した皇子に、次の皇帝の座を譲ると宣言した。
アリーシャは個性的な三つ子の皇子に愛されながら、誰と結婚するか決める事になってしまう。
一方、アリーシャを追放したルイン王国では暗雲が立ち込め始めていた……。
ヒロインに躱されて落ちていく途中で悪役令嬢に転生したのを思い出しました。時遅く断罪・追放されて、冒険者になろうとしたら護衛騎士に馬鹿にされ
古里@3巻電子書籍化『王子に婚約破棄され
恋愛
第二回ドリコムメディア大賞一次選考通過作品。
ドジな公爵令嬢キャサリンは憎き聖女を王宮の大階段から突き落とそうとして、躱されて、死のダイブをしてしまった。そして、その瞬間、前世の記憶を取り戻したのだ。
そして、黒服の神様にこの異世界小説の世界の中に悪役令嬢として転移させられたことを思い出したのだ。でも、こんな時に思いしてもどうするのよ! しかし、キャサリンは何とか、チートスキルを見つけ出して命だけはなんとか助かるのだ。しかし、それから断罪が始まってはかない抵抗をするも隣国に追放させられてしまう。
「でも、良いわ。私はこのチートスキルで隣国で冒険者として生きて行くのよ」そのキャサリンを白い目で見る護衛騎士との冒険者生活が今始まる。
冒険者がどんなものか全く知らない公爵令嬢とそれに仕方なしに付き合わされる最強騎士の恋愛物語になるはずです。でも、その騎士も訳アリで…。ハッピーエンドはお約束。毎日更新目指して頑張ります。
皆様のお陰でHOTランキング第4位になりました。有難うございます。
小説家になろう、カクヨムでも連載中です。
【完結】私、四女なんですけど…?〜四女ってもう少しお気楽だと思ったのに〜
まりぃべる
恋愛
ルジェナ=カフリークは、上に三人の姉と、弟がいる十六歳の女の子。
ルジェナが小さな頃は、三人の姉に囲まれて好きな事を好きな時に好きなだけ学んでいた。
父ヘルベルト伯爵も母アレンカ伯爵夫人も、そんな好奇心旺盛なルジェナに甘く好きな事を好きなようにさせ、良く言えば自主性を尊重させていた。
それが、成長し、上の姉達が思わぬ結婚などで家から出て行くと、ルジェナはだんだんとこの家の行く末が心配となってくる。
両親は、貴族ではあるが貴族らしくなく領地で育てているブドウの事しか考えていないように見える為、ルジェナはこのカフリーク家の未来をどうにかしなければ、と思い立ち年頃の男女の交流会に出席する事を決める。
そして、そこで皆のルジェナを想う気持ちも相まって、無事に幸せを見つける。
そんなお話。
☆まりぃべるの世界観です。現実とは似ていても違う世界です。
☆現実世界と似たような名前、土地などありますが現実世界とは関係ありません。
☆現実世界でも使うような単語や言葉を使っていますが、現実世界とは違う場合もあります。
楽しんでいただけると幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる