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第1章
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しおりを挟むそんなことがあってから、数日経っていた。
「この度は、申し訳ありませんでした」
「……」
「ほら、お前も謝りなさい。何してるの! 早くしなさい!」
「やだ」
「はぁ!?」
彼は、母親に謝れと言われても頑なに謝りたくないと言い続けて、親子喧嘩が始まっていた。
先生方は、それを見て宥めようとしていたが、既に疲れた顔をしていた。どうやら、この親子のやり取りは、恒例となっていたようだ。
これまで、女子のキーホルダーを壊しまくったことで相手に謝罪をする時も、おお揉めしていたように見える。
もはや何を言ってもお手上げ状態の先生方と親子喧嘩をしているのを見て、琉斗はため息をつきたくなったが、とりあえず尋ねることにした。
「どうして、謝りたくないの?」
「お前なんて、嫌いだ。嫌いな奴に頭下げるのも、謝るのも嫌だ」
「……それ、謝罪に関係ないよね? 椅子なんて投げて怪我させる気はなかったってこと? それとも、嫌いだから怪我させたっていいって言いたいの? それが理由で謝らないつもり?」
彼は、琉斗の言葉にわなわなと震えだした。琉斗は、それを冷めた目で見ていた。
「お前が、変なこと言うからじゃないか!」
「変なこと……? 何、言ってるの? 話したことなんて、そもそもないよね?」
「っ、」
琉斗は、何を言いたいのかわからず首を傾げた。
彼の方も、琉斗の言葉を話した覚えがそもそもなかったらしく、自分が言ったことにわけがわからない顔をしていた。
(この子、大丈夫かな?)
そんな風に思ってしまうのは、無理はないと思う。周りの大人も、怪訝な顔をしていた。特に彼の隣にいる母親は、鬼のような形相をしている。
「お前、気持ち悪いんだよ!」
「……いや、それ、こっちの台詞だと思うよ? 話をした記憶ないでしょ? 僕にもないよ。誰かと間違えてない?」
「っ、」
母親は、それを聞いて息子を怒鳴りつけることを再開してしまった。
「いい加減にしなさい! あんたのせいで、どれだけ私が頭下げてると思ってるのよ!! どうしてさっさと謝らないのよ! また、呼び出されて謝るのは面倒なのよ。さっさと謝って、許してもらえば済むのに。どうして、それがわからないのよ!」
謝れば終わるみたいに母親は怒鳴っていて、それを聞いていた先生方も惺真も、琉斗でさえも、何とも言えない顔をしていた。
この母親も、自分が何を言っているかに気づいていないようだ。
「謝ったら、許してもらえるって、そもそもおかしいですよね?」
「え?」
「それって、謝られた側が考えることであって、謝る側が決めるものじゃないですよね? 謝って解決するって、自己完結しないでくれませんか?」
惺真は、謝られて許すかを決めるのは、怪我した本人とその家族が決めることではないかと言ったのだ。怪我でなくとも、物を壊された子供たちも、そうだ。だが、彼の母親は……。
「え? でも、子供のしたことですから。琉斗くんだって、謝ったら許してくれるでしょ? 女の子たちは弁償することで、解決したし。怪我の治療費は、きちんと払うわ。神経も、傷ついていなくて、ちょっと切ったところが悪くて血がたくさん出ただけなんでしょ? 跡が残っても、男の子なんだから、そのくらい気にしないわよね?」
母親に話をふられて琉斗は、きょとんとした。そんなことを言われるとは思わなかったのだ。
開き直りすぎた物言いに謝る気があるようには到底思えるわけがない。
この親にして、この子ありとは、この目の前にいる親子にぴったりな言葉に思えてならない。
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