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第1章
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しおりを挟む何やら学校でも、先生方やクラスメイトたちに琉斗は気遣われながら、その誤解が中々解けないことにげんなりしながら、とぼとぼと帰宅していることが増えた。
(学校が、こんなに厄介なところになるとは思わなかったな)
何か言えば言うほど、溝が深まっていく感じがする。もはや何も言わない方がいいかも知れないが、琉斗は色々と疲れていた。
気遣われすぎて疲れるなんて、小学生では早々ないことだと思うが、琉斗はそれでも夏休みに入るまで耐えればなんとかなると思っていた。
「見つけた」
「?」
琉斗は、学校帰りに突然聞き覚えのない声がして、声のする方を見上げることになった。数メートル頭上に声を発した人物がいた。そう、そこに人ならざる者がいるのを見上げることになった。
(飛んでる……? いや、浮いてる?)
悪魔のような翼を持った何かが浮いているのを見た琉斗は目をパチクリさせた。何なら目をこすってすらいた。
そこにいたのは、見事な筋肉をひけらかすかのように上半身裸の美形が不敵な笑みを浮かべて琉斗を見下ろしていたのだ。
何をしてもいるように見える。変なのが。
「……明らかに疲れてるな」
琉斗は、気のせいだと思いたくて目を再びこすった。だが、やはりそこに浮いている者がいて、それを確認して深い深いため息をついた。
「帰って休もう」
「は? おい、無視すんなよ!」
だが、琉斗は聞こえてはならない声だと認識していて、振り返ることをしようとしなかった。
それこそ、目があったら負けのように回避しながら帰宅しようとしたが、しつこかった。
(しつこいな。どうして、こんなにしつこくされなきゃならないんだろ。あー、僕、疲れてるんだな。学校で気遣われすぎてて、それで疲れるって、変だけど)
「琉斗!」
「惺真さん、変なのがいるよ! 気を付けて!」
「はぁ!? 変なのって、何だよ!!」
「確かに変なのですね」
「惺真さんも、疲れてるんだね。帰って休もう」
頑なに疲れているせいだと思おうとする琉斗に浮いている何かが怒っていた。いや、ずっと怒ったままだった。
「だぁー! お前ら、何なんだよ! 話を聞けよ!!」
「名乗りもしないのに? 急に現れて、何なの? 飛べることを自慢したいの? 嫌味すぎない? 大体、羽ばたいてないのに何で浮いてられるの? どうなってるの? 僕も、できる? できないなら、やめてくれないかな。羨ましくて、ムカつくから」
琉斗は、ムスッとし始めて、一気にまくし立てていた。本音がちらほらまじっている。
「は? 何、言ってるんだ? できるだろ? お前だって半分は……」
ごほん!
そこでわざとらしく咳払いをしたのは、惺真だった。
琉斗は、じとーっと飛んでる者を見ていた。それにいたたまれなくなったのか。地面に足をおろすように着地した。
(普通にできるんじゃないか)
「こちら、あなたの従兄君のお一人、シネル・ライヒェンシュタイン様です。シネル様、ここでは目立ちますので、浮くのやめてください。地から足を浮かせ続けて、歩くふりも駄目ですから」
「従兄……?」
「は? マジで歩けと?」
「そうです」
琉斗が、パチクリとしている間に惺真は更に補足してくれた。どうやら、父の兄の息子らしい。
惺真の言葉で色々とおかしなところはあったが、それよりも従兄という言葉に琉斗はひっかかっていて、後半の方は良く聞こえなかった。
「パパって、人間じゃなかったの?」
「は? 何言ってんだよ。お前の父親も、俺の親父も、魔王の息子じゃねぇか」
「え……?」
(何、それ?! ちょっと、格好いい)
琉斗は、そこで父親が魔王の息子の一人だったことを知ることになったのだ。その衝撃は、凄まじいものがあった。凄まじすぎてて、本音も飛び出していた。疲れすぎてしまっているせいだ。
「……えっと、頭が追いつかないけど、とりあえず、家に来てくれます? なんか、変質者だと思われて通報されたのフォローするのも面倒なんで」
「は? 待て。俺のどこが、変質者なんだよ?!」
惺真に言われて飛ぶのは止めていたし、翼も収納できるようだ。だが、格好が目立ちすぎている。周りがヒソヒソと話しているのにやっと気付いたようだ。
(さっきまで、浮いてたのを見られなくてよかった。あれを見られてたら誤魔化すより、知らんぷりして帰ってたところだよ)
誤魔化すのが面倒くさくなってしまっている琉斗は、それほどまでに余裕がなくなっているようだ。
「は? え? 俺、そんなまずい格好してんのか?」
「肉体美を自慢したいのはわからなくもないけど、ちょっとね」
「べ、別に自慢したいわけでは……」
「違うの? それ維持するのも大変なんじゃないの?」
「ま、まぁな。魔王の孫が、だらしない体型をしてるわけにはいかないからな。示しがつかないだろ?」
「そうだよね。僕はまだ子供で全部が全部わかってないけど、そんな僕でもわかるよ。凄いって。凄い頑張ってるんだね。尊敬するよ」
「っ、」
シネルは、琉斗の言葉に嬉しそうにしていたが、そのことに琉斗は気づいていなかった。
それを見て、惺真が驚いていることにも、2人は気づいていなかった。
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