僕は出来損ないで半端者のはずなのに無意識のうちに鍛えられていたようです。別に最強は目指してません

第１章

３０

琉斗の母の家系は、もう母のお兄さん以外、親族はいないと思っていた。母に似ているかと言われると雰囲気が似ているが、容姿は似てはいない。

まぁ、使い魔だったのだから容姿が似てるわけがなかったのだが、雰囲気が似ているのは使い魔をしていたせいなのか。元からなのかはわからない。

惺真は、琉斗の父にも似ているところがあった。琉斗よりも長く両親といたせいで、似てきたのかも知れない。

父の方は、兄弟やらが色々いるようだ。シネルの話からすると母親違いの兄弟がいるようだが、シネルの父親にも最初に魔界に来た時に会ったきりで、挨拶もそこそこに部屋をあてがわれただけで終わって、ゆっくり話せてはいなかった。

反対され続け、許可されることなく、強引に駆け落ちしてまで結婚したことで、孫の琉斗が生まれたからと挨拶に行って和解できるほど、簡単なものではなかったようだ。


（それなら、僕を何で呼んだりしたんだろ？）


琉斗は、そこが疑問だった。シネルにあっさり見つけられると思っていなかったのかも知れない。

そもそも、あっさりと見つかる方がおかしいのだが、探していたのがシネルだったからだとは気づいていなかった。

あれは、まだ琉斗の両親が生きていた時のことだ。

琉斗は両親に祖父母がいる友達が羨ましいと思って聞いたことがあった。父の祖父ならいるとわかって、目を輝かせた。

それまで、親族がいるとはっきりと答えてもらえたことがなかったのだが、この時は答えてもらえたのだ。なぜ、すんなり答えてもらえたのかはわからないが。


「おじいちゃん、どんなひと？」
「おじいちゃん」
「？」


父は、しばらく“おじいちゃん”という単語を口にしながら、何とも言えない顔をしていた。こらはしてはならない質問をしたのだろうかと琉斗は思い始めていた。


「あー、物凄く怖い人だよ」
「え？　こわいの？」
「物凄くね」
「……」


怖いと聞いて琉斗は眉を顰めずにはいられなかった。怖いにも程度がある。どのくらいなのだろうかと聞いてみることにした。ある意味、琉斗も怖い物知らずだった。


「あなた。琉斗が怖がるわ」
「それって、ママより？」
「は？」
「っ、」
「こらこら、琉斗が怖がってるよ」
「だって、琉斗が比べるようなこと言うから」


地を這うような母の声に琉斗は、身をすくめた。あれは、中々に怖かった。失言とは、あぁ言うことを言うのだろう。


「でも、おじいちゃんか。そうよね。琉斗からしたら、おじいちゃんだものね」
「？」


両親は、“おじいちゃん”と言う単語が面白くて仕方がなかったのか。笑っていたが、琉斗はなぜ両親が笑っているのかがさっぱりわからなかった。


「あー、琉斗。もし、おじいちゃんに会ったら、そう呼んでいいかを聞いてからにした方がいいよ」
「？？」
「駄目だって言われたら、どう呼んだらいいかを聞いてあげてくれるかな？　呼ばれたい名前があると思うから」
「わかった。きいてからにする」


父の言葉に琉斗は、そう言ったのを覚えていた。


（呼ばれたい名前って、何だろ？　僕的には、奇抜なのは勘弁してほしいとこだけど）


そのことを思い出すたび、琉斗は祖父という人物に期待してならなかった。

シネルに抱きかかえられて、気持ち悪くなりすぎて、意識が遠のき始めた時にそんなことを思い出していた。


（こんな時に思い出すかな。ううっ、気持ち悪い。もう、何で、魔界になんて来たんだろ）


琉斗は、綺麗なお花畑を見ることはなかったが、両親とのそんなやり取りを思い出していた。

祖父にこれから会うからにしては、思い出すタイミングが最悪すぎて、琉斗にとって大事な部分だけが残ることになった。

が、色々いっぱいいっぱいとなっていた琉斗は大事な部分に気を取られてしまい、魔族たちを絶句させる効力を発揮する爆弾を投下したことに全く気づくことはなかった。

そう、シネルが教えてくれた挨拶の仕方でインパクトが大事だと言っていたのは、あれは冗談ではなくて本当だったのだ。

インパクトだけは、琉斗は満点を余裕で取れることを本人だけはしたと思ってはいなかった。それに気づくことも、一生なかった。