僕は出来損ないで半端者のはずなのに無意識のうちに鍛えられていたようです。別に最強は目指してません

珠宮さくら

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第1章

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(追放処分って、何があったんだ?)


色々と聞きたいところがあったが、何から聞いたらいいのかもわからなくなるほど衝撃的だった。


「ここのように人間だけや魔族だけというようにばらばらに住んでる世界は、あいつ曰く珍しいらしい。あいつは、魔を封じるために生まれた聖女だったらしいが、偽物と扱われた挙げ句、世界を追放されて、この人間界に来たんだ」
「魔を封じるって、おばあちゃんの世界にも居たってこと?」
「あぁ、他の種族も、この世界の国々に分かれて住んでいて、魔を封じるために生まれたはずなのに偽物と扱われても、元の世界に怒りも悲しみも持ってはいなかった。ただ、本物だと思っている方だけでは、魔をどうこうできないだろうから、元いた世界の最後は近いだろうとは言っていたし、ざまぁみろとも言っていた」


(……その最後の言葉は聞かなかったことにしておこう)


祖母のことを聞きながら、琉斗は遠い目をしてしまっていた。先ほどの女性が、祖母ならイメージを壊したくなかったのだ。


(それで、どうしておじいちゃんと結婚したんだ?)


聞きたいような、聞きたくないような。琉斗は、何とも言えない顔をしていた。


「俺は、魔王となっていて妻も子供もいたが、お前の祖母が、俺の初恋だった」
「……」
「元聖女に魔王の俺は、一目惚れしたんだ。この世界に来て途方に暮れているのを見て、丁度いいと城に連れ帰った」


(なんか、色々と突っ込みどころ満載だな。しかも、それまで奥さんが何人もいたはずなのに初恋って……。あんまり聞きたくなかったかも)


琉斗は、思わず先ほどスケッチした絵を見つめてしまった。まぁ、先ほど見えたが清楚で美人だったから、魔族の女性にはないタイプだったとしても、奥さんを何人も娶って子供もいたのだ。魔王だからと許されることだとしても、琉斗として人間界での暮らしが長いため、何とも言えない微妙なものがあった。

行くところがない祖母は、魔王の城でエデュアルドの求愛を一心に受けて、妻になることを受け入れるまで、それでも数年かかったようだ。


(その間も、その後も、魔族だって思われ続けてることにびっくりだな。おばあちゃんは、どう見ても魔族には見えなかったし。……いや、ざまぁみろと言う人なら、あの見た目で腹黒だったのかも)


このままだと思い出話をされ続けて、琉斗として知らなくても問題なかったことまで聞くことになりそうだと思って、一番聞きたいところだけを聞いてみることにした。

祖父には悪いが、琉斗の覚悟が足りないようだ。サラッと流しておくには聞き捨てならない言葉がそこかしこに有りすぎる。

それこそ、いつもの祖父ならこんな話をそもそもしていなかったはずだが、お菓子を作ったことでテンションが上がってしまっていたのかも知れない。


「おばあちゃんは、あのお菓子をおじいちゃんたちに食べさせて、何がしたかったの?」


本当は、殺したいほど憎んでいたなんてことはないはずだ。それならば、さっきあんな風には現れていないはずだ。


(何で、さっさと消えちゃったのかな。今、リアクションあると便利なんだけど)


琉斗はチラチラとスケッチした絵を見ていたが、現れそうにはなかった。お菓子が完成したことに満足してしまったようだ。


「俺というか。朔斗でもなくて、お前のためにしてたんだと思うぞ」
「僕のため?」
「お前は、どうやら俺より魔族の血が濃いようだ」
「……は?」
「そして、母親の方の魔女の血も濃い。さらに聖女だった祖母の血も濃いようだ」
「全部濃いっておかしいでしょ」
「そうだ。あり得ないはずだが、お前はそれでもこうして生きてられる。器自体も規格外ってことだ。あの瞳の色も、芒星と魔法陣も抑え込んだのは、さっきの菓子だ。魔封じなんて名前で呼んでたが、こうなる未来をあいつは見ていた気がする。追放処分になることも、いずれなると覚悟していたらしいからな」
「それって、先読みができたってこと?」
「多分な」


祖父の言葉に琉斗は目をパチクリさせた。


「……えっと、つまり?」
「菓子の効力がある限り、ここで暮らしてても問題はないってことだ」
「……そっか。そういうことになるのか」


(それって、高校生を続けられるってこと?)


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