最愛の亡き母に父そっくりな子息と婚約させられ、実は嫌われていたのかも知れないと思うだけで気が変になりそうです

珠宮さくら

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その女性を見た御者が、何やら騒いでいた。


「どうした?」
「い、いえ、あの、それが……」
「?」


珍しく言い淀む御者に王太子は眉を顰めた。すると護衛を兼ねた影が間に入った。それは、珍しいことだった。影は大概、王太子が話しかけないと言葉を発したりしない。


「殿下。出たと言いたいのです」
「出た?」
「噂の幽霊かと」
「は? 本当か?!」


王太子は、幽霊というものに会ってみたいと常々思っていた。どうやら、影はそれを知っていたからこそ、言葉にしたようだ。

今回も、あわよくば会えないかと用事のついでに寄り道していた。


「……あれが、幽霊なのか? なんというか。疲れているだけの令嬢ではないか?」


彼は見たままを率直に言ったつもりだが、御者には怪しさ満点に見えて、立派な幽霊に見えるようだ。


「殿下。ここを1人で歩いているのですよ。こんなとこ、普通の令嬢が歩いているわけがないではありませんか」


そう、色々と出ると言われているスポットではある。そこを歩き回っているかのような格好をしていれば、そう思うのも無理ないかもしれない。


「まぁ、確かに怪しいか。本物かもしれないな」
「ほ、本物!? やっぱり! すぐ、帰りましょう!」
「待て待て。止めろ。話しかける」
「っ!?」


御者は、それに反対したかったが馬車を止めた。

怖いが、王太子が心配なのだ。王太子の後ろで本物だったら、どうする気なのだとハラハラしながらも、近づきたくないのがよくわかる距離感でうろうろしていた。

何気に傍目から見るとそちらの方が、怪しく見えたが、御者はそれどころではなかった。

そんな中で影たちは、王太子の物好きに慣れっこだった。彼が王太子となってから側にいるのだ。とんでもない趣味があろうとも、王太子を守り、王太子のために動くのが務めだ。そう、ずっと王太子というものを守ってきていた。いつから。そうしているかは覚えていないが。

馬車に乗る時に王太子は、影に命じた。


「彼女について調べろ」
「御意」


くたびれている女性は、眠たそうにしていたため、休ませようとしていたが、王太子がこの辺に幽霊が出ると噂になっていると言う話をすると彼女は馬車の中から外を見た。


「あぁ、事故ですね」
「ん? 君も知っているのか? この辺で、よく事故があるのを」
「あるのでしょうね」


そんな話をしたのだが、した本人は全く覚えていなかった。

この時の彼女には、疲れ切っていて境が見えていた。普段からよく見えているわけではないが、疲れ切っているとそう言うのが見えてはいるが、残念というか。疲れ切っているが故に覚えていないことがほとんどだったため、見えている自覚も彼女には全くなかったのだが、王太子はそれに気づいていなかった。


「フェルギエール侯爵家まで、送るぞ」
「いえ、歩きます。ありがとうございました」
「そうか」


ふと彼女は、こう言った。


「真っすぐ帰ってくださいね」
「ん?」
「寄り道は、考えずに帰ってください」
「何かあるのか?」


だが、それに答えはしなかった。


「あなたは、ただ運が良かっただけです。もう、見たがりをやめた方がいい」
「……」


そんな忠告をした。これも、彼女は無意識でしていて、欠片も覚えていない。

そんなことを念押しされたのに彼は、気になってしまい、フェルギエール侯爵家に立ち寄った。そう、良かれと思ってのことで、その程度のことは寄り道ではないと思っていた。

いつもついでのように寄り道している彼にとって大した事ではなかったのも大きかった。そのついでに幽霊が出没しているところをわざわざ通っては、幽霊を見ようとしていた。

ついでのように彼女のことをフェルギエール侯爵に伝えて帰ったのだが、いい事をしたと思っていた。確かに良いことをしたが、その前にしていたことはあまりよろしくなかったのだが、その自覚がなかった。

疲れ切っている姿形など気にもせず、隣国から才女が学園に来るのが楽しみでならなかった。

でも、その日から、王太子の周りでは奇妙なことが起こり始めるとは、思いもしなかった。


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