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しおりを挟むアルナ国。アガルワル伯爵家で、ため息をつきたいのを我慢している令嬢がいた。そんな我慢を週に何回してきたことか。数えたことはないが、誰もいない時は我慢せずにため息をついているが、人がいるとついつい我慢していた。そんなことが増えていく一方になっていて、ストレスとなっていた。
そんなことをしている伯爵令嬢のシュリティ・アガルワルには、姉が1人いるのだが、その姉が最近、益々面倒くさくなってしょうがなかった。いや、姉が面倒くさくなかったことはそもそもないのだが、最近は度を越していた。
何が面倒くさいかと言うと新しくできた友達とどこに出かけたかと楽しそうにシュリティに聞かせて来るのだ。その話を聞く相手をするのが面倒でならなかった。
そんなこと他の友達にでもしてくれと言いたいが、姉の友達はそんなに多くなさそうだ。多いどころか。これまでは、1人で出かけた話ばかりをされていたから、友達がそもそもいなかったのではなかろうか。それが他に行動する人が増えたのだ。姉からしたら、快挙なのは間違いない。
それが、物凄く嬉しいのはわかる。そのせいで、誰かと出かけたと聞いて、最初の時に思わず、色々聞いたのがまずかったのかも知れない。
姉の快挙をその場限りだと思ってじっくり聞いたのがまずかった気がしているが、もう戻れない。
その後、ずっとその手の話をわざわざ弟妹たちにしているのだ。やめてほしい。
そんなことをしていたから、友達がいなくなったのではないかとシュリティは思っている。でも、姉はそんなことお構いなしに弟妹たちにその話をし続けている。どうしたらやめてくれるのかがわからなくなっていた。
シュリティとて、学園に入る前までは、よく1人で色んなところに行く姉の話を面白がっていた時期もあった。弟も、そうだ。1人であっちこっちと色んなところに行く姉の話を聞いて面白がって、話をせがんだ時期もあった。
でも、シュリティと弟は学園に入ってから気づいた。姉が異常なことに。そう、学園に入ってから、そういうことを弟妹に語るしかないのは、変だと気づいてしまったのだ。あれから、数年が経つが今や友達と出かけるのを姉が語り尽くすまで解放されなくなっていた。
シュリティは、前から家族にそんな話を永遠と語ったことなどない。気づけば姉だけが、この家の中でそれをしていた。
それをおかしいともっと早く気づいていたら、ここまでにならなかったのかも知れない。おや、気づいた時にやめてくれとはっきり言っていたら、こうはなっていなかったかも知れない。
だが、学園に入るまではシュリティたちとて友達がいなかったようなもので、学園に通うようになり友達ができてからは、姉の話を家の中で聞くのが面倒でならなくなっていたのも、割とすぐのことだったが、姉を止められずにいた。
それこそ、友達を作れと言いたかったが、それが今度は友達ができても、変わらないどころか。もっと面倒くさいことになったことにシュリティは頭を抱えたくなった。
違う。語り尽くしてほしいわけではない。そこを含めて、満足そうにしているのを最初の頃は姉が喜んでいるのならばと思っていたが、もうそんな余裕はどこかに移った。
もう、付き合いきれない。姉だけでなく、最近は弟にも言ってやりたいことがシュリティには増えていた。
「僕、宿題があるので部屋に戻ります」
「……」
そう言って、弟のラケシュが部屋に引っ込むのは、いつものことだ。この弟は、いつもこうやって逃げるのだ。
学園に入ってから、ラケシュは友達もたくさんいた。シュリティも、そうだが友達に困ることはない。
姉だけが、やっと友達ができた状態だった。両親も、姉より、シュリティたちに似ている人たちで、友達ができないなんてことはないため、1人友達ができただけで、こんなことになる姉にげんなりしていた。でも、友達が1人であろうとてきたのだから、全力でそちらと仲良くしてくれればいい。
シュリティたちのことなど、そっちのけにして友達と遊んでいてほしいのだが、そうはならないのが姉だ。
それなのに弟は、シュリティに姉を丸投げするようになった。交代で姉の話を聞くならまだしも、完全にシュリティに相手をさせ続けていた。そんなラケシュの行動にイラッとしないわけがない。
何事もシュリティは、弟と分かち合って来た。なのにこの仕打ちだ。
そもそも、ラケシュはそんなこと言って部屋に言っても勉強なんてしてはいないのをシュリティは知っている。弟は勉強が嫌いなのだ。この機会に勉強を頑張っているなら、まだ許せる。そう、成績がヤバいから次はそれなりに取らなきゃならないのだ。必死になっているなら、姉として応援する。
だが、きっと次の試験の順位も大して期待はできないのではなかろうか。それこそ、いつもより下がっている気がしてシュリティはならなかった。彼が、勉強とは違うものにハマっているのを知っているからに他ならない。
姉に嘘など通用しないことをあの弟はまだ知らないようだ。
それなのに勉強すると言えばラケシュを邪魔するものはいないため、味をしめて部屋で好き勝手にしているのだ。それを告げ口すればいいように思えるが、両親はそれを信じることは中々しない人たちだったりする。
「ラケシュが、勉強すると言っているのにそんなこと言ったら可哀想じゃない」
「そうだぞ。やる気になっているのにやる気をなくさせるようなことをするな」
「……」
そう、両親のことだ。シュリティを責め立てるに違いない。
それこそ、ラケシュが本当にちゃんと勉強しているかを確認せずにシュリティを責め立てるような人だ。
しかも、成績が悪かったりすれば、それ見たことかとなる前に。こうなる。
「お前が、興を削ぐようなことを言うからだぞ」
「全く、余計なことばかりして」
「……」
そう、ラケシュが何か言う前に両親は、シュリティのせいだと決めつけて話すのが目に見えていた。
そこまでになると弟は、何とも言えない顔をするはずだ。これまでも、両親にシュリティのように一方的にあれこれ言われて来たのは、ラケシュも同じなのだ。
両親は、昔から都合のよい方で、面倒にならない方を信じる人たちだ。姉弟それぞれから、きちんと聞いて判断してくれたことは一度もない。そういう両親だ。
そのため、この姉の面倒に両親を巻き込めずにいた。どうせ、そんなこと言った方のメンタルをえぐるだけだ。
つまり、今の状況でそんなことすれば、シュリティが叱られるだけなのだ。弟がやる気になっているのを邪魔するなと。
姉にいつもシュリティは邪魔されているようなものなのに成績のよいシュリティが、弟のように庇われたことは今のところない。
もっとも、同じようになりたくても、弟と似たような成績を取る気にはならない。そんな残念な成績を残すのは、シュリティにはできなかった。
それこそ、学園の先生方は体調の心配をしてくれるだろうが、両親はそんな心配より説教してくるはずだ。
なぜできなかったのかなんて聞かずにシュリティが怠けていたからだと決めつける。そういう人たちだ。
両親は、好き勝手に遊び回っているというのに。成績だけしか取り柄がないと前に言われたことがあるが、姉はその成績すらシュリティほどではないのに。頑張っているけど、シュリティのようにはなれないと両親に毎回言って落ち込んだ姿を見せるだけで、許されている。
物凄くわかりやすい嘘のようで、それが姉の本音なのだ。その辺が演技で、両親が騙されているだけなら、チャーヤのことなどぞんざいに扱うところだが、そうではないのだ。普段を見ているからこそ、そんなことできないのがよくわかっている。だから、扱いに慎重になってしまって、こんなことになっているのだ。
そのため、両親のことなんてあてにしていられない。弟もそうだ。各々が切り抜けるしかない。
使用人たちですら、こういう時にシュリティとは、決して目を合わせてくれない。これも、いつものことだ。
姉は、この家の中で一番厄介な存在だった。
「あの子、勉強ばっかりね」
「あの、お姉様。私も……」
「それでね」
「……」
シュリティは、なぜか逃げることが許されない。友達と出かけた話なんてされても、全く楽しくないというのに。チャーヤだけが楽しそうにしていた。
それこそ、姉の行ったところへは、シュリティは実際に友達と出かけている。それは、ラケシュも一緒だろう。だからといってチャーヤのように他の姉弟に話して聞かせようなんて思わない。語る必要などないのだ。
いや、ちょっとはするが、全部を語るなんてわざわざしない。する必要もないと思っているのだが、姉はそうは思わない人なのだ。だからこそ、非常に面倒くさい。
幼い頃に聞かせてくれたのを弟と一緒に目をキラキラさせて聞いていた過去の自分に全力で言ってやりたい。
この先、永遠と聞かされることになるから、そんな目で楽しそうに語られるのを聞くな。未来では、自分1人が犠牲になるぞと。
だが、そんな風になればいいと思っても過去が変わるわけではない。
姉のチャーヤは、そこからいつものように聞いてもいないのに昔のように興味の欠片もなくなっている妹に事細かに話をした。楽しんでいるのは、姉だけだ。
シュリティが部屋に戻る頃には……。
「つ、疲れた」
姉の話から結局、逃れられなかったシュリティは、ぐったりして部屋のベッドにダイブしていた。姉に捕まるといつもこうだ。姉が語り尽くさない限り、決して終わらない。
自分が楽しかったのはわかるが、それを事細かに語られるのだ。どうだっていいと思うことまで聞くまで終わらないのだから、疲れている時には絶対に相手にはしたくない。疲れていなくとも、勘弁してほしい。
シュリティは、弟が面倒なチャーヤを押し付けて部屋に引っ込んでばかりいることに我慢の限界を迎えていた。
そのため、仕返しのつもりであることを計画していた。その準備が整ったのもあり、疲れ切っていても、シュリティは怒り心頭にはなっていなかった。
怒りよりも、疲れすぎてちょっと怪しくなっていたかもしれない。
「ふふっ、私の苦労を思い知ればいいわ」
そんなことを思っていたが、それ以上のことが起こるとは、この時のシュリティは想像もしていなかった。
弟に日頃から、シュリティのことをぞんざいに扱っているのを思い知らさせてやろうとしていたが、数倍返しなんてしようとは思ってもいなかった。
そこまでではなくて、同じ思いをしてほしかっただけなのだが、弟は日頃の行いが悪かったのかも知れない。
それこそ、姉のみならず、他でも色々やっていたのかも知れないくらい、シュリティの思っていた以上の目にあうことになった。
シュリティは、ずっと姉のチャーヤは友達と出かけているものと思っていた。名前は出て来なかったが、異性ではなくて、同性と出かけていると思っていた。
弟とて、友達だと思っていた。
2人ともら名前を聞いたら面倒がさらに増えると思っていたから聞こうとは思っていなかった。
それは、弟もそんなようなことを話していたから間違いないはずだ。出かけた相手のことを聞いたら、もっとしつこいことになりそうだと思ったのだ。
だって、姉にはそもそも婚約者がいないのだ。それなのに異性と出かけたことを弟妹に事細かに話すなんてすると誰が思うというのか。
その辺を妙な誤解をしているとは思いもしなかった。しかも、その相手が問題だったなんて、知りもしなかった。
ただ、両親に訴えても解決しない鬱憤を晴らそうとしただけで、とんでもないことになるとは思いもしなかった。
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