姉が年々面倒になっていくのを弟と押し付けあっていたのですが、手に負えない厄介者は他にいたようです

珠宮さくら

文字の大きさ
2 / 12

しおりを挟む

シュリティは、それから次の週には留学先にいた。

姉の友達の話を聞かされることから解放されただけでも、全然違っていた。やはり最大のストレスは、あれだったようだ。

留学先では寮生活なため、部屋はあまり広くないがそんなこと苦にならなかった。あの姉と両親がいないというだけで、気が楽だった。

更には、ここにあっさりと見捨てる弟もいない。今までシュリティをあっさり見捨てていたのだから、その分、姉に捕まって付き合えば、シュリティの苦労もわかるはずだ。一対一の苦労を思い知ればいい。

もっとも、そうなれば、そのせいで成績が落ち込んだと言い訳できるはずだ。だから、弟はそんなにまずいことにはならないとシュリティは思っていた。

あの両親でも勉強の邪魔をしたとなれば、流石に姉を怒るのではないかとシュリティは思っていた。

それでも、姉の白々しい演技に見える本音が勝るのか。その辺が気になるところではあったが、どうしても結果を知りたいわけではない。

むしろ、弟の方は言い訳できるチャンスもちゃんとあるから大丈夫だろうと思っていたのだが、留学してから1ヶ月も経たないくらいで、シュリティは友達からの手紙で、あなたのお姉さんヤバすぎると手紙をもらったのだ。

それをシュリティは手にするなり読んで首を傾げずにはいられなかった。


「あの人、ついに弟だけでなくて、私の友達まで捕まえて語り出したの……?」


何がどうヤバイのかは手紙にはなかった。

ただ、面倒に巻き込まれるから、絶対に戻って来るなとあった。それと知らぬ存ぜぬを貫けみたいにあった。

そんな書き方されたら気になると思うが、詳細を書く時間も惜しかったような、伝える気がないような感じだった。友達の手紙は珍しく殴り書きされていた。

姉の語る相手に弟では役不足だったのだとシュリティは思っていたが、そうではなかったようだ。

よくはわからないが、シュリティは留学の目的を果たすことにした。一番厄介な姉から離れ、姉を押し付けて来る弟から離れ、好き勝手なことしていて理不尽なことを押し付けて来る両親から離れているのだ。そんな家族がいないところで、伸び伸びと勉強三昧しつつ、友達を増やし、優良物件な子息がいないものかと目を光らせ、耳を澄ましに来たのだ。

流石に婚約者を探しに来たとバレバレなことはできない。恥ずかしくて、シュリティはそんなことを前面に出すことはできなかった。

留学中は、あの家から離れていられるが、その先だ。両親が、あの調子なのだ。姉も、あんな感情だ。自分で何とかしないととんでもないのと婚約させられそうだと思っていたことも大きかった。

弟も、どうにもならなくなれば手紙を寄越すだろうと思っていたが、友達からの手紙以外で届くことはなかったため、シュリティは実家のことを気にすることをやめた。

シュリティは、目的があったのに勉強が楽しくなりすぎてしまったのは、すぐだった。この国の図書館の蔵書が良すぎたのがいけない。

家族から解放されたことで、やりたいことをやりつくそうとした結果なだけでもあるが、どうやら偏りすぎてしまったようだ。


「あら、もう、読み終えたの?」
「はい」


図書館の司書とは、顔なじみになった。他の人には笑顔なんて見せる人ではないようだが、シュリティは本の話をしたりするせいか。楽しそうにして、終始和やかなムードのままだ。

これが、本に関することや図書館で非常識なことをするやからには鬼の形相になるのだから、驚きだ。

シュリティは和やかなムードの司書しか知らなかったから、鬼の形相の時は自分が怒られたわけでもないのに謝りたくなってしまった。それこそ、忘れられないほど怖かった。


「あなた、選択授業を全部受けているのによく本を読む時間があるわね」
「本を読むのは速い方なので……。あれ? 私が、全部受けているの言いましたっけ?」


本の話しかしたことないはずだ。それに図書館で、本以外の話をされるのも初めてでシュリティの方が驚いてしまった。


「噂になっているのよ。留学生が、目立ちたいのか。無謀なことしてるって」
「目立ちたい……?」


シュリティにはさっぱりわからない言葉だったため、首を傾げずにはいられなかった。

目立ちたいのも、わからなかったが、無謀というのにもシュリティは引っかかりを覚えた。


「最初の頃の噂よ。今は、無謀だと馬鹿にしていた面々の方が、馬鹿にされているわ」
「……」


そんなことになっていることをシュリティは全く知らなかった。どうやら、目立ちたいから、無謀なことをしている留学生がいると思われていたようだ。

そういえば、シュリティが選択授業に行くたび、ひそひそと話すグループがいた。それは、毎回、違うグループで似たりよったりな人たちばかりだった気がする。あれは、シュリティのことを馬鹿にしていたに違いない。

でも、今はそんなことをしているグループを見かけていない。いつの間にかやらなくなっていた。おとなしくなって、教室の隅を陣取るようになっていたが、馬鹿にしていたのが特大ブーメランで彼女たちに戻って来たのだろう。

それを言われるまでシュリティは、自分のことではないと思っていたようだ。まぁ、直接あれこれ言われていたら、言い返すくらいしたが、そうではないのに一々目くじら立てていられない。

それに散々、悪く言っていたのが、彼女たちに突き刺さっているなら、追い打ちをかけるまでもないだろう。……向こうが構って来なければ、シュリティが何かをわざわざする気はない。

図書館の司書の方が情報通のようになっている。それも、どうなのかと思ってしまった。いや、そういうのに疎いと勝手に思っていたが、違ったようだ。

シュリティは、きょとんとしていると司書は……。


「この間の試験の結果で、凄いことになっているのに気づいていないのね」
「結果……? あ、そうだ。順位見に行くの忘れてた」


シュリティは、選択授業全部を取ったこともあり、試験前は流石に大変だったが、思っていたよりいい成績だったため、順位を見るのをすっかり忘れていた。

それに司書が、呆れた顔をしていたが……。


「1位だ」
「え?」
「全教科、君が一番だ」


そう言って突然声をかけてくれたのは、見かけたことがある人だった。そう、シュリティはその人物を見かけたことはあるが、誰だったろうか?と首を傾げてしまった。


「シュリティさん、王太子殿下よ」
「っ、!?」


司書に小さな声で言われて、シュリティは慌ててカーテシーをした。物凄く不様だったことだろう。

だが、王太子はそれに気分を害することなく、笑うこともなかった。

これが、弟だったら凄い顔をされていたことだろう。隣で白けた目を向けられ、しばらく一緒にいないでくれと蔑んだ声音をお見舞いされていたことだろう。

何気にそれが一番シュリティは傷ついていたはずだ。


「そんな畏まらなくていい。それと、急に声をかけたのは、君の読み終わった本を借りてもいいかと聞きたかったんだ」
「あ、なら、殿下の読み終えられたの借りても?」
「……これか?」
「新刊ですよね? あ、借り手がいますか?」


横にいる司書に尋ねたすると苦笑いされた。


「いいえ。専門書だから、いないわ」
「……」
「あの?」
「時間があるようなら、別のところで話さないか?」
「え?」
「ふふっ、その専門書を読めるほどですから、王太子殿下の話にも難なくついていけますよ」


なぜか、自信満々に司書のハードルを上げるようなことを言い、シュリティはぎょっとした。


「それは、いいことを聞いた」


そんなこんなで、王太子とシュリティは話すようになった。

驚いたことにシュリティと同じく選択授業を全部取っていたのは、王太子だった。同じ授業を取っているというのに見かけたことがある程度の認識しかシュリティにはなかったのだ。


「やぁ、シュリティ嬢」
「……殿下?」


何食わぬ顔で、選択授業のたびに王太子から声をかけられるようになり、全部が一緒だとわかった時に王太子は、シュリティの反応を楽しそうに見ていた。

司書も、知っていたことらしく、後日、王太子が話したらしく微笑ましそうにされて、シュリティは縮こまってしまった。

その辺、シュリティは穴があったら入って、何なら埋めてほしいと思ってしまったが王太子は、そんなところも気に入ったようだ。

そう、段々と授業のことや本の話をして、意気投合していって、授業の度にシュリティの横に座るのが当たり前となっていった。

そうなっていくと周りも、何も言って来なくなっていた。最初の頃は、根掘り葉掘り聞かれたりしたが、王太子は楽しげに話す令嬢として有名になっていたようだ。

しかも、話す内容がちゃんとわかっているのは、シュリティと一部の者だけだった。そこに先生たちもまじってしまえば、難しい話ばかりだったため、令嬢たちもお手上げとなったようだ。

シュリティは、それに平然とついていき何食わぬ顔で会話し続けることになり、王太子を狙っていた令嬢たちから遠巻きに見られるようになったのも、割とすぐのことだった。

留学を終える頃にはシュリティが、王太子の婚約者になっていて、それ以外にありえないとまで思われていたようだが、シュリティはそんなことを思われていることすら知らなかった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

悪役令嬢発溺愛幼女着

みおな
ファンタジー
「違います!わたくしは、フローラさんをいじめてなどいません!」  わたくしの声がホールに響いたけれど、誰もわたくしに手を差し伸べて下さることはなかった。  響いたのは、婚約者である王太子殿下の冷たい声。  わたくしに差し伸べられたのは、騎士団長のご子息がわたくしを強く床に押し付ける腕。  冷ややかな周囲のご令嬢ご令息の冷笑。  どうして。  誰もわたくしを信じてくれないまま、わたくしは冷たい牢の中で命を落とした。

ヒロイン不在だから悪役令嬢からお飾りの王妃になるのを決めたのに、誓いの場で登場とか聞いてないのですが!?

あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
ヒロインがいない。 もう一度言おう。ヒロインがいない!! 乙女ゲーム《夢見と夜明け前の乙女》のヒロインのキャロル・ガードナーがいないのだ。その結果、王太子ブルーノ・フロレンス・フォード・ゴルウィンとの婚約は継続され、今日私は彼の婚約者から妻になるはずが……。まさかの式の最中に突撃。 ※ざまぁ展開あり

実家に帰ったら平民の子供に家を乗っ取られていた!両親も言いなりで欲しい物を何でも買い与える。

佐藤 美奈
恋愛
リディア・ウィナードは上品で気高い公爵令嬢。現在16歳で学園で寮生活している。 そんな中、学園が夏休みに入り、久しぶりに生まれ育った故郷に帰ることに。リディアは尊敬する大好きな両親に会うのを楽しみにしていた。 しかし実家に帰ると家の様子がおかしい……?いつものように使用人達の出迎えがない。家に入ると正面に飾ってあったはずの大切な家族の肖像画がなくなっている。 不安な顔でリビングに入って行くと、知らない少女が高級なお菓子を行儀悪くガツガツ食べていた。 「私が好んで食べているスイーツをあんなに下品に……」 リディアの大好物でよく召し上がっているケーキにシュークリームにチョコレート。 幼く見えるので、おそらく年齢はリディアよりも少し年下だろう。驚いて思わず目を丸くしているとメイドに名前を呼ばれる。 平民に好き放題に家を引っかき回されて、遂にはリディアが変わり果てた姿で花と散る。

妹に「あの男は危険」と注意するが、彼を溺愛する妹は結婚する「助けて!」嫁いだ妹から緊急の手紙が届いた。

佐藤 美奈
恋愛
クレア公爵令嬢にはローサという妹がいて婚約した。相手はリチャードという伯爵家の嫡男。 ローサから交際している彼だと初めて紹介された時に、この男はおかしい? とクレアは印象を抱いてローサに苦言を呈した。 リチャードは粗野な言葉遣いや無礼な態度で、始めから終わりまでクレアは行儀の悪い男だと呆れていたのです。 一見すると外見も整っていて格好良い感じですが、不意に下品な顔つきをする性格に問題ありそうな男だった。こんなのと結婚したらローサは苦労するだろうとクレアは心配していた。 「あんな男と結婚するの?」クレアが尋ねるとローサは「彼は勘違いされやすいけど本当は良い人だよ」と言う。 恋は盲目なんて申しますが、まさしくその通りだとクレアはしみじみ思う。度重なる説得に聞く耳を持たないローサはリチャードと結婚する。 妹が相手の家に嫁入りして五ヶ月後、便りがないのは元気な証拠だなぁと思っていたある日、助けてほしい! 命に関わる問題! と緊急を要する手紙が届いた。

母が病気で亡くなり父と継母と義姉に虐げられる。幼馴染の王子に溺愛され結婚相手に選ばれたら家族の態度が変わった。

佐藤 美奈
恋愛
最愛の母モニカかが病気で生涯を終える。娘の公爵令嬢アイシャは母との約束を守り、あたたかい思いやりの心を持つ子に育った。 そんな中、父ジェラールが再婚する。継母のバーバラは美しい顔をしていますが性格は悪く、娘のルージュも見た目は可愛いですが性格はひどいものでした。 バーバラと義姉は意地のわるそうな薄笑いを浮かべて、アイシャを虐げるようになる。肉親の父も助けてくれなくて実子のアイシャに冷たい視線を向け始める。 逆に継母の連れ子には甘い顔を見せて溺愛ぶりは常軌を逸していた。

追放された悪役令嬢、なぜか地の果ての寒村でVIP待遇です

波依 沙枝
恋愛
「聖女の力を奪った悪女」として、ヴァレリア・ルピウスは追放された。 地の果ての寒村で凍え死ぬ――そう覚悟したのに、用意されていた小屋はなぜか“公爵令嬢の部屋みたい”に快適で、焼きたてのパンと温かいスープまで並んでいる。 さらに翌日、ボロボロの聖女ルチアが「私だけがあなたの味方でした!」と泣きながら追いかけてきて――。 追放生活のはずが、なぜか手厚すぎる“謎の寒村”で始まる、勘違いと溺愛(予定)とざまぁ(予定)の逆転ストーリー。 二十二話で完結。(執筆終了済)

悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき
恋愛
 スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。  それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。  挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。  そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……! 第二章以降は、11時と23時に更新予定です。 他サイトにも掲載しています。 よろしくお願いします。 25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!

処理中です...