初恋の人への想いが断ち切れず、溺愛していた妹に無邪気な殺意を向けられ、ようやく夢見た幸せに気づきましたが、手遅れだったのでしょうか?

珠宮さくら

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第1章

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そんな未来が訪れるとも知らず、王太子の婚約者が決まって、国中がお祝いムードとなった。

誰もがウィスタリアが選ばれると思っていたせいで、ジュニパーがどんな令嬢なのかがさっぱりわからなかったが。


「そういや、王太子って、どんな人なんだ?」
「え? どんなって……、あれ?」


ジュニパーのことはともかく、そういえば王太子も、急に第2王子が王太子になったせいで、どんな人かを知らない者が多かった。

第1王子は聡明で、文武両道。何をさせても大人顔負けなことばかりをしていたと言われていた。

でも、第2王子の話題はなかったことを今更、思い至って首を傾げる者ばかりだったのは、第1王子が王太子となるものとみんなが思っていたのも大きかった。


「あー、だが、ウィスタリア嬢より、ジュニパー嬢だったかを選ぶなら、そんな感じの方なんだろうな」
「そうだな。そんな感じなんだろ」


街の人たちは、よくわからない令嬢を祝うのに自棄を起こしている者もいた。


「かぁー、やってらんねぇぜ!」
「あんたら飲み過ぎだよ」
「飲まずにやだてられっかよ。ウィスタリア様が選ばれると思ってたんだよ」
「そうだぜ。あんな、いい方、他じゃいねぇよ」
「ちょっと、そんなこと、もう言うんじゃないよ」
「だがよぉ」
「ウィスタリア様が、困るぞ」
「そうよ。困らせることをしては駄目よ」
「何より、選ばれなかったんだ。悲しまれているはずだよ」
「っ、」
「……そうだな」


街の人たちは、自棄を起こして暴れたりしている者も、ウィスタリアの迷惑になると言われてからは、大人しくなった。

侯爵家に生まれながら、別け隔てのない気さくなウィスタリアを街の人たちは誰もが好いていた。

そして、貴族も、ジュニパーの家に媚を売るのに忙しい貴族は僅かだった。


「王太子は、変わっているわね」
「マルグリット。他所ではするな」
「わかっています。ですが、案外、お似合いなのかも」
「おい」
「マルグリット。ここでもやめなさい」
「わかりました」


父と母に言われて、マルグリットと呼ばれた娘は、つまらなそうにした。そんな風に娘を諌めているが、マルグリット以上にボロクソに両親が言っているのを知っていたからだ。

婚約者に選ばれた令嬢とは違い、婚約者がいるのに候補に上がってしまったマルグリットは、それを辞退することにしたが、それをするまでが大変だった。婚約しているのに辞退をさせまいとした親族がいたせいだ。

両親も、あわよくばと思っているところがあり、手続きがどうのと言って辞退をしないことにマルグリットは、そうなると見越していたこともあり、婚約者に連絡をした。

そんなことをしなければ、辞退すると言わない両親だ。すっかり失望していた。それこそ、もう、失望することはないところまでいっていたと思っていたが、どうやら底はまだあったようだ。

だが、沈みすぎた失望が回復することは、今後ないだろうと思っていた。それも、嫁ぐまでの我慢だ。

たった数年のことだが、マルグリットは王太子が何を考えているのかが、さっぱりわからずにいながら、お似合いだと誰よりも早く言葉にしていた。

ジュニパーが変わる前と後で会っていたからかも知れない。全くの別人が、そこにいたが、マルグリットは後者が彼女の本性だと思って見ていた。だからこそ、ジュニパーとお似合いだと思っていた。

変わる前まで、婚約者候補に残っていた2人が親友と言っていたのも聞いていたため、マルグリットはウィスタリアを心配していた。

ウィスタリアが、王太子の婚約者になることに必死になっているのが気がかりだった。まるで初恋の人のようにしているのだが、王太子に恋心を抱く令嬢には見えなかったのだ。

会ったことがないせいで夢を見ているのかと思ったが、どうやら違うように見えた。それが、第1王子のことをさしているように思えてならなかったが、マルグリットはそれを深く考えないようにした。

ウィスタリアが、未だに第1王子の死を受け入れられずにそう思い込んでいるのなら、そのままでもいいと思ってのことだ。選ばれたのならば、顔をあわせることで、記憶がおかしいことにすぐにでも気づくことになるだろうが、選ばれなかったのだ。

それならば、マルグリットも気づかなかったことにして、忘れることにした。


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