初恋の人への想いが断ち切れず、溺愛していた妹に無邪気な殺意を向けられ、ようやく夢見た幸せに気づきましたが、手遅れだったのでしょうか?

珠宮さくら

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第1章

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そんなことをマルグリットと話していたのが、遠い昔のように思えた。ウィスタリアでは、もう随分昔のことのように思えるが、正確に数えてみれば、まだ数年しか経っていない。

その間にウィスタリアは、人生を何周もしたような気分となっていた。

婚約するなら、逃げ出したいとまで令嬢たちに言われていたのは、あれは冗談ではなかった。本気で、そう思われているだけある子息だった。


(幼い頃の妹よりも、目が離せないなんて思わなかったわ。プリムローズは、凄く可愛いかったから楽しかったけど、ちっとも楽しくないわ)


しかも、ソレム本人が何をしているかの自覚が欠片もない。それが、一番まずい。無自覚がある意味、最強みたいになっていた。その酷さのせいで、彼と婚約してからずっとウィスタリアは婚約者に何かにつけて尽くしていた。

いや、尽くさざる終えなかった。自分のためもあったが、ソレムの実家のためが大きかった。彼の両親が、いい人すぎるのだ。


「あの、ウィスタリア様。流石にやり過ぎじゃない?」
「そう?」


ジュニパーと色々あってから仲良くなったマルグリットは、至れり尽くせりなことをしているのにやり過ぎではないかと言った。

親友という言葉が、ジュニパーのおかげですっかり嫌いになったウィスタリアは、その言葉を使うのをためらっていたが、本物の親友はマルグリットのような令嬢だと思っていた。

彼女も、同じくウィスタリアのことを無二の親友のように思っていてくれていたが、親友という言葉を使わないようにしてくれていたのは、彼女がそういうことを言葉にしなくともウィスタリアのことなら、わかってくれるところがあった。


「そうですよ」
「でも、あの方、やり過ぎなくらいじゃないとまずいのよ。なにせ、未だに自覚を持とうとしてはくれないのだもの」
「「「「……」」」」


周りがやり過ぎだと思うほど、ウィスタリアは婚約者のために尽くしに尽くしていた。

それを見咎めているつもりはないが、マルグリットや他の令嬢たちも色々言うことがあった。

ウィスタリアが、まずいというのも、そこに集まっている令嬢たちには、よくわかるところはあった。

あんなのと婚約するなら、修道院なり、勘当された方がマシだと思うような子息だ。それは、昔から今も同じように令嬢たちに思われている。そのくらいしないとウィスタリアが、恥をかきかねない。……というか。婚約しているだけで既に恥をかいているようなものだが、そこは仕方がない。

尽くしすぎていると言われていたが、ウィスタリアは油断できないと思っていた。その理由をこのあと、マルグリットですらソレムのことを甘く見ていたことを痛感することが起こったのは、こんなやり取りをした後のことだった。

ウィスタリアが花嫁修業と称して彼の家に住むようになってから、彼の家の事業をウィスタリアは手伝っていた。それはとても有意義な時間だったのだが、それをソレムは見ていて真似たくなったようだ。

いや、真似するなんて簡単なものではない。真逆なことをして、これまで築いてきた信用や信頼を一気に失うようなことをしてくれたのだ。せっかく軌道に乗って来たのにそれが台無しになるところだった。

先々代からの夢をソレムのしたことで、もう叶わなくなりそうにまでなって、ソレムの両親はもう諦めるしかないとまで落ち込みに落ち込んでいた。

夢を諦めるのと爵位の返上なら返上してでも夢を追いかけ続けるような人たちだ。それが、返上しても、夢まで諦めねばならないのなら、やりきれない。


「何をそんなに沈んだ顔をしているんですか?」
「っ、貴様のせいで」
「旦那様。この子に言うだけ無駄です。ソレム、部屋に戻りなさい。今、大事な話をしているのよ」
「なら、私も聞きます。そんな女より、私がこの家の跡を継ぐんですから」


鼻高々にそんなことを言うソレムを父親が殴ろうとしているのを彼の妻とウィスタリアは必死になって止めて、ソレムには……。


「そう言えば、授業の課題が出ていましたけど、お済みですか?」
「っ、あー、いや、まだだ」
「先生が、ソレム様のレポートを斬新だとおっしゃっていましたよ」
「そ、そうか。斬新か」


(えぇ、支離滅裂で、何を言いたいのか最後までわからなかったと言われましたとも。私に何を言いたいと思うかと読ませてくれたけど、それを要約して私の方が感心されましたとも。古代語の翻訳より、大変だったわ)


だが、そんなこと知らないソレムは、そこまで期待されているなら、今回も力作を出さねばと部屋に戻って行った。

それを残された3人は、もう部屋から出てこないでほしいと思ってしまった。

そう、心優しいウィスタリアですら、自分の婚約者には、そんなことを思うまでになっていた。

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