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第1章
2一3
しおりを挟むフェリシアの住む世界では、遠い昔にこの世界の均等が歪むような事態が起こってしまったことがあったと言われている。
もはや滅びを待つしかないとされるようなことが起こったようだが、本当のところ何があったかがわかっていない。
そんな風に歪ませるきっかけがあったらしいが、その話を正しく語り継ぐ国は、もはや残ってはいなかったのだ。どうやら、それを正しく語り継ぐことをよく思っていない者によって、綺麗に隠蔽されてしまったようなのだ。
まぁ、そんなことをする者というのは、歪ませた張本人か。自分たちが関わっていたことを後世の人々に知られたくて、消し去ってしまえばなかったことにできると思ってやったのかも知れない。
隠蔽されたことすら知らない人たちが増えてしまえば、そんなことを深く考える者も少なくなってしまうのだろう。
今では、どこの国であろうとも正しく語り継がれていなかった。ちょっとした困ったことが起こって聖女を召喚することがあったかのようにされていて、その聖女は天涯孤独の身の上で、こちらに召喚されて世界も救い、この世界の人と相思相愛となって幸せに余生を過ごしたとされている。
それが大半の国での伝承だ。それは、まだいい方だ。もっと酷いものもあった。
聖女は世界を救ったことに天狗になってしまい、好き放題して大変なことになったと語り継がれている国もあった。
他には、結局は召喚しても大したことができなくて、自力で立て直したことになっている国もあった。
(そもそも、勝手に召喚しておいて、酷い物言いよね。自分の世界のピンチくらい、自分たちでどうにかすればよかったのに。それができないから、召喚しておいて本当は何があったかを消し去るなんて酷い話があったものだわ。……まぁ、本当に聖女なんて存在がいたらだけど。その時の聖女ほど、この世界が憎たらしいと思う者はいなかったでしょうね)
そもそも、おとぎ話のようなものと思っているフェリシアは、それらの歴史を知って、そんなことを思ってしまった。色々と思うことはあれど、最終的には聖女はいないと思いたくて仕方がなかったのかも知れない。
そこまでして存在をないものにしたくて仕方がない理由をフェリシアはわからないままだった。そのことを深く考えることもなかった。いないのにイライラするよりも、いたからこそイライラしてならないとなぜ思わなかったのかが不思議でならなかったくらいだ。
色んな国の聖女の語り継がれることを集めた時にどれもこれも、好き勝手に語り継いでいるなとなぜか、そんな風にフェリシアは思ってしまったのだ。
(聖女なんて、やっぱり、夢幻のおとぎ話にすぎなかったってことよね。この世界の住人にとって、困った時に助けてくれれば、どんな目にあったかなんて関係ないのよ。聖女が使い物になりさせすれば、用済みなんだもの)
聖女のことなど、知りたくもなかったのに。フェリシアは知りたくもなかったはずなのに。気づけば、他ではどう語られているのかと調べ尽くしてしまうほど、この世界の国々の聖女の伝承を調べてしまっていた。
何があったかをどこの国でも正しく語られなくなっているのをわかっていながら、今はどう語り継がれているかを知りたくなって調べてしまっているのだ。なぜ、そんな風に思うのかに疑問を持つことはなかった。
そして語り継がれていることを知って、正直なところホッとしていた。どこも、本当のことを何一つとして知りもしないのだと。それでもなお、聖女という存在を祀り上げるでもなく、感謝してさえいる国に言い知れぬ感情がこみ上げてもいた。
(変ね。どうして、こんな風に温かな気持ちになるのかしら? 聖女に感謝なんてするだけ、無駄なはずなのに。どうして……?)
感謝している国が存在していることを知ってフェリシアらは泣いた。どれもこれも、正しくないとフェリシアはなぜかそう思ってしまったのに。それが、嬉しかったのに。聖女に対して、感謝し続ける国の存在にフェリシアの中で、何かが喜んでいるようだった。血が躍るとでもいうのか。それにフェリシアは、戸惑ってしまった。
物凄く怒っているはずなのに同時に嬉しいことが起きているようで、その理由がフェリシアにはよくわかっていなかった。
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