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しおりを挟む「ファティマ。気乗りがしないのではない?」
「王子たちとのお茶会ですよ? 気乗りしないわけがありません」
「……本当に?」
「……」
ラティーファは、ナーシャルディーンの家の御用達の商人の用意したものを見ていても、全く嬉しそうには見えないファティマにそんなことを尋ねてきた。
養母は浮かれていて、ちゃっかり自分のを新調しようとしていた。そのセンスに商人が、困った顔をしてナーシャルディーンを見ていた。
(あちらも大変そうね。今日も、養母様は絶好調のようね)
それを見ながら、ラティーファを見た。
「本当です。ただ、初めてのお茶会なので、その、張り切っているとわかるものは……、それに着慣れていないので、すぐにバレてしまうかと思うと気が重くて……」
「初めて?! それは、配慮にかけていたわ。いきなり王族とのお茶会なら、心配になるわよね。それを気乗りしないだなんて、私が悪かったわ」
「……」
ラティーファは、それに驚きながらも、ナーシャルディーンがラティーファに養母が新調しようとしているドレスのことを耳打ちして、ファティマにちょっと先に片付けてくると母親のところに行った。
「……」
「……」
残されたファティマとナーシャルディーンはしばらく無言でいた。
「着飾るのが嫌いなのか?」
「着飾っても、お腹は膨れませんので」
ナーシャルディーンは、ファティマのことを調べあげていたため、それだけで眉を顰めたく。
「……ラティーファの見立てが気に入らないのか?」
「いいえ。お義姉様が、見立ててくれたのは、どれも素敵です」
「なら、なぜ、どれにも浮かない顔をするんだ?」
それが不満でならないのだろう。
(そうよね。私が、蔑ろにしているように見えるわよね)
「ナーシャルディーン様。お義姉様が、パーティーに呼ばれて同伴できない時に着飾っていたら、どう思いますか?」
「……」
「一番見てほしい人がいないのに誰もが褒める装いをして、別の方とそこに行ったらどう思われますか?」
「腸が煮えくり返るだろうな。同伴者も、ただではおかない」
「……」
(……聞き方を間違えたかもしれない)
鬼の形相で、くびり殺すかのようにしているが、ラティーファからは決して見えないようにしていて、ファティマにしか見えていない。
「つまり、お前には見せたい者が他にいるのか?」
「……といっても、一方通行です。あちらには、いい迷惑でしょう。でも、初めて着飾るのにその方に見てももらえず、別の方のために着飾るなんて、私の心がたえられません」
「……」
「侯爵家の養子になったのです。王子たちの婚約者の候補に上がるためにここに来たのは、わかっています。わかっていますが、数ヶ月で覚悟を決めろと言われても、あると答えなければならないのはわかっています」
「……」
「それ以上にそれをあの方が知っても、何とも思わないとわかったら、それだけで私は……」
ナーシャルディーンはファティマの言葉を聞いて泣きそうになっていた。
「だから、お母様のセンスはおかしいのよ!」
「何を言うのよ!」
ラティーファたちは、ギャーギャーと騒いでいた。今までは、そこまでの言い合いをしていなかったようだが、ラティーファは母がファティマとお茶会に行くため、必死にもなっているようだ。
「私は、お義姉様とナーシャルディーン様を見ていると幸せな気分になるのです」
「……」
「私は、そうはなれません」
「なぜだ? それこそ、今の話をなぜ私にする? ラティーファにすれば……」
「できません。でも、ナーシャルディーン様ならば、私が目立ちたくない理由をわかってくださるはずです。私は、お2人のように添い遂げられない。だから、2人には私の分も幸せになってほしい。それだけなんです。それが見たいだけなのです」
「……王子たちの好みに沿わないもので、お前に似合うものを選ばせる」
「っ、ありがとう、ございます」
ナーシャルディーンにはファティマが言いたいことがわかったようだ。自分が叶わない夢を見ている。だからといって、ラティーファたちの幸せを壊す気はないが、それを叶えてもらう気もない。
片想いをしているが、その気持ちを伝える気もないが、もどかしい気持ちが常にあり、昇華しきれない思いを持っている。
だから、ファティマを妬ましく思うことはないと言ったようなものだ。そして、恋心があれど、10歳で数ヶ月の間に片想いでいくら叶わないからといって、それを諦めるまではいかずとも、他の者の婚約者になるために頑張れと言われたら……。
ナーシャルディーンは、そんな思いをラティーファがしたらと考えた。
ファティマは、ラティーファにしなかったのも、是が非でも叶えてくれようとするからだ。
それに比べてナーシャルディーンは、最低限のことしかしない。
(そんなことしなくても、目にとまるわけがないけど)
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