26 / 63
25
しおりを挟む「ファティマ!! せっかくのドレスが、汚れるじゃない! そんな汚らしい娘、今すぐ離しなさい!」
「……」
養母が怒鳴り散らすのを聞き流して、ファティマは気にせずに幼子に話しかけた。
(ナーシャルディーン様にこのドレスになるように骨を折ってもらったけれど、あとでいくらでも謝るわ。……もう、手助けしてくれないかもしれないけど、ほっけない)
「もう、大丈夫よ。怖いことなんか何もないわ。私は、一緒にいる。大丈夫」
全身全霊で幼子が、母を求めているのだ。
(この子が、大丈夫だと思えるようにしてあげなくては、そうでなければ壊れてしまう)
ファティマには、よくわかった。ファティマとして生まれ変わってから、時折、叫びたくなることがあった。前世のことと今のこと。前世だけだっはずが、今は泣き叫んだところで、どうにもならない想いに気づいてしまい、ファティマは幼子の気持ちが痛いほどわかってしまった。
よしよしと背中を擦りながら、泣き続ける幼女を落とさないようにして立ち上がった。その軽さに眉を顰めたくなった。
「こっちに来ないで。私まで汚れるわ」
「……」
養母は、もう怒鳴り散らすのをやめて自分が汚れるのが嫌だと言っていた。
他の人たちも、同じようにヒソヒソと色々と言って距離を取った。
(幼い子供が泣いているのに。自分のドレスの方が大事なのね。なんて、人たちかしら)
ファティマは、冷めた表情でそんな人たちを見た。
これが、王子の婚約者としてお茶会に選ばれた者たちかと。この人たちが、この国の新しい世を築いていくのかと思うと先ほどまで、養母が着ているものだけで一喜一憂していた自分が馬鹿馬鹿しく思えた。
(私も、着ているものしか見ていなかった。……この人たちのこと言えないところもあったのよね。でも、ここまでにはなりたくない)
「信じられないわ。あなた、気は確かなの? これから、王子たちとお茶会をするというなのに」
「……」
「あなたのような子だとわかっていたら、養子になんてしていなかったわ」
「……なら、修道院でも、勘当でも何でもしてください」
ファティマは、頭にきてそんなことを言っていた。
「どうかしているのは、皆さんの方です。こんな幼子が泣いて困っているのにご自分たちのドレスの心配をするなんて、私には理解できません」
ファティマは、そんなことを言っていた。養母は、無礼なことを言うなと扇子で、ファティマの頬を叩いていた。
「っ!?」
ファティマは、張り倒されたことで、抱っこしている幼女を落としそうになるのを落とすまいとして尻もちをついていた。
「うわぁ~!!」
それが怖かったのか驚いたのか。幼女が泣き叫ぶことになり、その声で駆け寄って来たのは……。
「アイシャ!?」
「どうした?!」
そこにその子の兄たちである王子たちが慌てて駆け寄って来たのだ。
「嘘。王子たちだわ」
「え? じゃあ、あの子、もしかして、噂の王女?!」
令嬢たちや母親たちは、王女だとわかるや否や先程までの態度を誤魔化すように心配したふりをし始めた。
そこにファティマの養母もいた。なんと、滑稽なのだろうか。
「代わる」
「やぁ~!」
「アイシャ」
「いっしょ!」
兄たちが抱っこするのを代わろうとするも、引っ付いて離れなかった。
(凄い力だわ)
「君、そのほっぺた。どうしたんだ?」
「あー、色々ありまして」
チラッと見ると王子も、そちらを見た。
養母が青ざめた顔をしていた。その手には扇子が握られていた。
「誰だ?」
「私の養母です」
「通りで似てないわけだ。妹が迷惑かけたみたいで済まない」
「いえ、それより、王女様をお風呂にいれて、着替えさせないと。かなり泥だらけですし、怪我しているかも知れません」
そう言いながら、ファティマは弟妹たちにしたようにあやして抱っこしたまま、立ち上がろうとした。
「っ、」
「大丈夫か?」
倒れた時に変な手のつき方をしたようだ。これでは、片手で王女を抱っこしていて、落とすかもしれない。
(離してなるものか)
ファティマは、すぐさま辺りを見渡した。離れたくないとしがみつく王女に離れろなんて言えなかったし、言いたくなかったのだ。
「……すみません。あの、テーブルクロスを1枚、いただけませんか?」
「え? あ、あぁ」
何をするのか、わからない王子が、メイドたちが丁寧に上の物をどかすのに苛ついて、引っこ抜いて来た。
ガシャン!と派手な音がして悲鳴が響いた。あれだけでも、かなりの代物なのだろう。
「これでいいか?」
「ありがとうございます。王女様、ちょっと失礼しますね」
「?」
「抱っこしたまま、移動するので、待っててください」
「ん」
そう言うと簡易の抱っこ紐を作ろうとした。でも、上手く結べなかった。
「っ、」
「結べばいいのか?」
「はい」
「貸せ」
「もう一度、同じように結んでください」
「わかった」
それを斜めがけにして、王女の身体をその包の中に包むようにした。
そして、立ち上がる手を使わずとも落とすことはなかった。
「凄いな」
「お待たせしました。どこにも行けば?」
王子たちは、目を見開いて驚き、顔を見合わせていた。
「こっちだ」
(あれ? この2人、誰かに似ている気がする。……誰だっけ?)
ファティマは、前世の息子とそっくりなことに気づいていなかった。
109
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢の妹を助けたい、ただそれだけなんだ。
克全
恋愛
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月10日「カクヨム」恋愛日間ランキング21位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング33位
婚約破棄おめでとう
ナナカ
恋愛
「どうか、俺との婚約は破棄してほしい!」
公爵令嬢フィオナは、頭を下げる婚約者を見ながらため息をついた。婚約が破談になるのは通算7回目。嬉しくとも何ともないが、どうやらフィオナと婚約した男は真実の愛に出会ってしまう運命らしい。
もう完全に結婚運から見放されたと諦めかけたフィオナに声をかけてきたローグラン侯爵は、過去にフィオナの婚約を壊した過去がある男。あの男にだけは言われたくない!と奮起したフィオナは、投げやりになった父公爵の許可を得て、今度こそ結婚を目指すことにした。
頭脳明晰な美女なのに微妙にポンコツな令嬢が、謎めいた男に邪魔されながら結婚へ向かう話。(全56話)
※過去編は読み飛ばしてもほぼ問題はありません。
死に戻ったら、私だけ幼児化していた件について
えくれあ
恋愛
セラフィーナは6歳の時に王太子となるアルバートとの婚約が決まって以降、ずっと王家のために身を粉にして努力を続けてきたつもりだった。
しかしながら、いつしか悪女と呼ばれるようになり、18歳の時にアルバートから婚約解消を告げられてしまう。
その後、死を迎えたはずのセラフィーナは、目を覚ますと2年前に戻っていた。だが、周囲の人間はセラフィーナが死ぬ2年前の姿と相違ないのに、セラフィーナだけは同じ年齢だったはずのアルバートより10歳も幼い6歳の姿だった。
死を迎える前と同じこともあれば、年齢が異なるが故に違うこともある。
戸惑いを覚えながらも、死んでしまったためにできなかったことを今度こそ、とセラフィーナは心に誓うのだった。
悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!
たぬきち25番
恋愛
気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡
※マルチエンディングです!!
コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m
2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。
楽しんで頂けると幸いです。
※他サイト様にも掲載中です
死亡予定の脇役令嬢に転生したら、断罪前に裏ルートで皇帝陛下に溺愛されました!?
六角
恋愛
「え、私が…断罪?処刑?――冗談じゃないわよっ!」
前世の記憶が蘇った瞬間、私、公爵令嬢スカーレットは理解した。
ここが乙女ゲームの世界で、自分がヒロインをいじめる典型的な悪役令嬢であり、婚約者のアルフォンス王太子に断罪される未来しかないことを!
その元凶であるアルフォンス王太子と聖女セレスティアは、今日も今日とて私の目の前で愛の劇場を繰り広げている。
「まあアルフォンス様! スカーレット様も本当は心優しい方のはずですわ。わたくしたちの真実の愛の力で彼女を正しい道に導いて差し上げましょう…!」
「ああセレスティア!君はなんて清らかなんだ!よし、我々の愛でスカーレットを更生させよう!」
(…………はぁ。茶番は他所でやってくれる?)
自分たちの恋路に酔いしれ、私を「救済すべき悪」と見なすめでたい頭の二人組。
あなたたちの自己満足のために私の首が飛んでたまるものですか!
絶望の淵でゲームの知識を総動員して見つけ出した唯一の活路。
それは血も涙もない「漆黒の皇帝」と万人に恐れられる若き皇帝ゼノン陛下に接触するという、あまりに危険な【裏ルート】だった。
「命惜しさにこの私に魂でも売りに来たか。愚かで滑稽で…そして実に唆る女だ、スカーレット」
氷の視線に射抜かれ覚悟を決めたその時。
冷酷非情なはずの皇帝陛下はなぜか私の悪あがきを心底面白そうに眺め、その美しい唇を歪めた。
「良いだろう。お前を私の『籠の中の真紅の鳥』として、この手ずから愛でてやろう」
その日から私の運命は激変!
「他の男にその瞳を向けるな。お前のすべては私のものだ」
皇帝陛下からの凄まじい独占欲と息もできないほどの甘い溺愛に、スカーレットの心臓は鳴りっぱなし!?
その頃、王宮では――。
「今頃スカーレットも一人寂しく己の罪を反省しているだろう」
「ええアルフォンス様。わたくしたちが彼女を温かく迎え入れてあげましょうね」
などと最高にズレた会話が繰り広げられていることを、彼らはまだ知らない。
悪役(笑)たちが壮大な勘違いをしている間に、最強の庇護者(皇帝陛下)からの溺愛ルート、確定です!
『悪役令嬢は、二度目の人生で無言を貫く。~処刑回避のために黙っていただけなのに、なぜか冷徹宰相様から「君こそ運命の人だ」と溺愛さています~』
放浪人
恋愛
「もう、余計なことは喋りません(処刑されたくないので!)」
王太子の婚約者エリスは、無実の罪を着せられた際、必死に弁解しようと叫び散らした結果「見苦しい」と断罪され、処刑されてしまった。 死に戻った彼女は悟る。「口は災いの元。二度目の人生は、何があっても口を閉ざして生き延びよう」と。
しかし、断罪の場で恐怖のあまり沈黙を貫いた結果、その姿は「弁解せず耐え忍ぶ高潔な令嬢」として称賛されてしまう。 さらに、人間嫌いの冷徹宰相クラウスに「私の静寂を理解する唯一の女性」と盛大な勘違いをされ、求婚されてしまい……!?
「君の沈黙は、愛の肯定だね?」(違います、怖くて固まっているだけです!) 「この国の危機を、一目で見抜くとは」(ただ臭かったから鼻を押さえただけです!)
怯えて黙っているだけの元悪役令嬢と、彼女の沈黙を「深遠な知性」と解釈して溺愛する最強宰相。 転生ヒロインの妨害も、隣国の陰謀も、全て「無言」で解決(?)していく、すれ違いロマンティック・コメディ! 最後はちゃんと言葉で愛を伝えて、最高のハッピーエンドを迎えます。
【完結】赤い薔薇なんて、いらない。
花草青依
恋愛
婚約者であるニコラスに婚約の解消を促されたレイチェル。彼女はニコラスを愛しているがゆえに、それを拒否した。自己嫌悪に苛まれながらもレイチェルは、彼に想いを伝えようとするが・・・・・・。 ■《夢見る乙女のメモリアルシリーズ》1作目の外伝 ■拙作『捨てられた悪役令嬢は大公殿下との新たな恋に夢を見る』のスピンオフ作品。続編ではありません。
■「第18回恋愛小説大賞」の参加作品です ■画像は生成AI(ChatGPT)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる