前世のことも好きな人を想うことも諦めて、母を恋しがる王女の世話係となって、彼女を救いたかっただけなのに運命は皮肉ですね

珠宮さくら

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「ファティマ!! せっかくのドレスが、汚れるじゃない! そんな汚らしい娘、今すぐ離しなさい!」
「……」


養母が怒鳴り散らすのを聞き流して、ファティマは気にせずに幼子に話しかけた。


(ナーシャルディーン様にこのドレスになるように骨を折ってもらったけれど、あとでいくらでも謝るわ。……もう、手助けしてくれないかもしれないけど、ほっけない)


「もう、大丈夫よ。怖いことなんか何もないわ。私は、一緒にいる。大丈夫」


全身全霊で幼子が、母を求めているのだ。


(この子が、大丈夫だと思えるようにしてあげなくては、そうでなければ壊れてしまう)


ファティマには、よくわかった。ファティマとして生まれ変わってから、時折、叫びたくなることがあった。前世のことと今のこと。前世だけだっはずが、今は泣き叫んだところで、どうにもならない想いに気づいてしまい、ファティマは幼子の気持ちが痛いほどわかってしまった。

よしよしと背中を擦りながら、泣き続ける幼女を落とさないようにして立ち上がった。その軽さに眉を顰めたくなった。


「こっちに来ないで。私まで汚れるわ」
「……」


養母は、もう怒鳴り散らすのをやめて自分が汚れるのが嫌だと言っていた。

他の人たちも、同じようにヒソヒソと色々と言って距離を取った。


(幼い子供が泣いているのに。自分のドレスの方が大事なのね。なんて、人たちかしら)


ファティマは、冷めた表情でそんな人たちを見た。

これが、王子の婚約者としてお茶会に選ばれた者たちかと。この人たちが、この国の新しい世を築いていくのかと思うと先ほどまで、養母が着ているものだけで一喜一憂していた自分が馬鹿馬鹿しく思えた。


(私も、着ているものしか見ていなかった。……この人たちのこと言えないところもあったのよね。でも、ここまでにはなりたくない)


「信じられないわ。あなた、気は確かなの? これから、王子たちとお茶会をするというなのに」
「……」
「あなたのような子だとわかっていたら、養子になんてしていなかったわ」
「……なら、修道院でも、勘当でも何でもしてください」


ファティマは、頭にきてそんなことを言っていた。


「どうかしているのは、皆さんの方です。こんな幼子が泣いて困っているのにご自分たちのドレスの心配をするなんて、私には理解できません」


ファティマは、そんなことを言っていた。養母は、無礼なことを言うなと扇子で、ファティマの頬を叩いていた。


「っ!?」


ファティマは、張り倒されたことで、抱っこしている幼女を落としそうになるのを落とすまいとして尻もちをついていた。


「うわぁ~!!」


それが怖かったのか驚いたのか。幼女が泣き叫ぶことになり、その声で駆け寄って来たのは……。


「アイシャ!?」
「どうした?!」


そこにその子の兄たちである王子たちが慌てて駆け寄って来たのだ。


「嘘。王子たちだわ」
「え? じゃあ、あの子、もしかして、噂の王女?!」


令嬢たちや母親たちは、王女だとわかるや否や先程までの態度を誤魔化すように心配したふりをし始めた。

そこにファティマの養母もいた。なんと、滑稽なのだろうか。


「代わる」
「やぁ~!」
「アイシャ」
「いっしょ!」


兄たちが抱っこするのを代わろうとするも、引っ付いて離れなかった。


(凄い力だわ)


「君、そのほっぺた。どうしたんだ?」
「あー、色々ありまして」


チラッと見ると王子も、そちらを見た。

養母が青ざめた顔をしていた。その手には扇子が握られていた。


「誰だ?」
「私の養母です」
「通りで似てないわけだ。妹が迷惑かけたみたいで済まない」
「いえ、それより、王女様をお風呂にいれて、着替えさせないと。かなり泥だらけですし、怪我しているかも知れません」


そう言いながら、ファティマは弟妹たちにしたようにあやして抱っこしたまま、立ち上がろうとした。


「っ、」
「大丈夫か?」


倒れた時に変な手のつき方をしたようだ。これでは、片手で王女を抱っこしていて、落とすかもしれない。


(離してなるものか)


ファティマは、すぐさま辺りを見渡した。離れたくないとしがみつく王女に離れろなんて言えなかったし、言いたくなかったのだ。


「……すみません。あの、テーブルクロスを1枚、いただけませんか?」
「え? あ、あぁ」

何をするのか、わからない王子が、メイドたちが丁寧に上の物をどかすのに苛ついて、引っこ抜いて来た。

ガシャン!と派手な音がして悲鳴が響いた。あれだけでも、かなりの代物なのだろう。


「これでいいか?」
「ありがとうございます。王女様、ちょっと失礼しますね」
「?」
「抱っこしたまま、移動するので、待っててください」
「ん」


そう言うと簡易の抱っこ紐を作ろうとした。でも、上手く結べなかった。


「っ、」
「結べばいいのか?」
「はい」
「貸せ」
「もう一度、同じように結んでください」
「わかった」


それを斜めがけにして、王女の身体をその包の中に包むようにした。

そして、立ち上がる手を使わずとも落とすことはなかった。


「凄いな」
「お待たせしました。どこにも行けば?」


王子たちは、目を見開いて驚き、顔を見合わせていた。


「こっちだ」


(あれ? この2人、誰かに似ている気がする。……誰だっけ?)


ファティマは、前世の息子とそっくりなことに気づいていなかった。


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