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しおりを挟むアデラインは、本気で修道院に行こうとしていた。恨みがましいことを手紙に書くことも考えたがしなかった。
自分が書き置き1つでいなくなれば、それだけで堪えてくれるか。あるいは、厄介払いできたと喜ぶか。何も思わないか。
醜い顔となって、婚約の話も来なくなったのだ。お荷物でしかない。
それを婚約してもいいと言い出したあの王太子に嫌だと言ったのだ。もう、その後で婚約したいと言い出す子息なんて、現れるわけがない。
だからといって、ディアドラが死ぬ気で頑張ったところで王太子妃に無事になれるとは思えない。顔さえよければ、それで許されると思っているのだ。公務なんてさせたら、喧嘩を売ったと思われて、どこかの国と戦争になることになるのは、目に見えている。
昔から喧嘩を売るのだけは上手かったが、マルティネス公爵令嬢というのもあり、アデラインがもみ消していたのもあり、大事にはならなかっただけなのだ。
万が一にもディアドラが、勉強を頑張れても、国王たちが王太子のままにしておくとは思えないが。
残念なのは、黒幕が誰なのかまではわからなかったことだ。つまりは、いなかったのかもしれない。
たまたま、誰かが話していたのを耳にして、それが使えると思って実行しただけだとしたら、思いつきすぎるが。
まぁ、何はともあれ、ディアドラにも王太子にも両親にも復讐をした。やりたいことはやった。
上手くいったのにアデラインは虚しい気分になっていた。
「……全然、喜べないわ」
むしろ、嫌な人間になった気がして、心が真っ黒になって洗っても消えない汚れを身に染み込ませたような気がして気持ち悪くなっていた。
そんなことをあれこれ思い悩んでいたら、乗せてくれていた馬車が横転した。
「っ、」
「逃げろ! 落ちるぞ!!」
そんな声が馬車の外から聞こえてきて、乗り合わせていた人たちが外に出た。
アデラインは隣りに座っていた女の子を庇うようにしたら、全身と咄嗟のことで付けていた仮面ごと顔を打ち付けてしまって、仮面が割れていた。
母親は、女の子よりも小さな息子を抱えていて、そちらを守るのに必死になっていた。
「お姉ちゃん!」
「っ、私は平気だから、すぐに外に出て」
「でも」
女の子は、母親に呼ばれて躊躇った。この子は、とても優しい子だ。仮面を付けているのにアデラインのことを怖がることをしなかった。
「人を、呼んで来てくれる?」
「っ、わかった!」
とんでもなく身体中が痛くて、動けそうもない。これは報いだと思わずにはいられなかった。
それこそ、あの時、一命を取り留めなかったら、一番よかった気がずっとしていた。
「大丈夫か!?」
「っ、」
「殿下! 危険です!」
「女性がいるんだ。もう、大丈夫だ」
アデラインは、仮面をしていないというのに嫌な顔もせずにもう心配することないと励まし続ける人物を見た。
それこそ、最後に素敵な人を見たと思った。
「殿下! 持ちそうもありません!」
「……私は、いいから、逃げて」
「何を言うんだ。絶対に助ける! 女の子と約束したんだ。諦めるな」
「っ、」
彼は、抱きかかえてアデラインを横転してもう少しで谷底に落ちそうになっていた。ぎりぎりのところで助けた時には、アデラインは気を失っていた。
「なんてことだ。すぐに戻るぞ」
顔から血を流すアデラインを殿下と呼ばれた青年は抱きかかえ続けた。
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