歴史から消された皇女〜2人の皇女の願いが叶うまで終われない〜

珠宮さくら

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『隠された皇女』

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皇太子の後ろから、街の娘の格好をしてはいるが美しい娘が部屋に入って来た。

普段は真逆におさえた化粧をしているが、走って汗をかいてしまって、ここに入る前に拭き取ってしまったから綺麗さっぱりと落ちてしまっていた。

その空気は、澄み切っていた。まるで、語り継がれる皇女が現れたかのような雰囲気を纏う娘が誰なのかに気づいたのは、ハオランだけだった。


「っ!?」


ハオランは、彼女だけではない。入って来た3人を知っていた。街で働く娘とどこぞの世間知らずのボンボンだと思っていたのが、皇太子だったのだ。その後ろにお付きの青年もいた。

これまた街で見かけた時と同じような格好をしていて、こいつらリーシーのところから来たんだなとしか、ハオランは思わなかった。

ついでに、彼はリーシーのいつもと違う美しさに見惚れていた。化粧を落とした姿だ。本来は、誰にも見せないようにしている。ここから、本気で化粧をした姿は、誰もが見惚れるものになるはずだ。

ディェリンの時では、そんなことはなかった。彼女を見てゾクリとしたが、リーシーを見て己の主君を見つけた気がハオランはしていた。

そんな中で、護衛長が凄い顔をしていた。皇太子の付き人を睨んでいた。顔立ちが似ているから親子のようだ。もう1人、途方に暮れている子息がいるが、似ているから親子なのではなかろうか。

護衛長の息子たちが、皇子と皇女の護衛がやれるなんて凄いとは思ったが、似ている子息はあちらが年上だから兄なのだろうが、凄いニヤニヤして見ていた。

兄がやらかして怒られると思って嬉しそうにしていた。凄く嫌な奴にしか見えなかった。

その部屋にいた者たちは、それにギョッとしたのは皇太子が、女官でもない者をここに連れて来たからなのと女官の誰よりも、いや、皇女にも負けず劣らず、いや勝るような美しさをもっていたからだ。


「陛下。彼女は、リーシーです。この者なら、皇女様を……」


皇太子が話すのに割って入った。本来なら、してはならないことだ。


「陛下。時間がありません。皇女様にお声をかけてあげてください」


リーシーは、深々と頭を下げて、そう言った。侍医が、お手上げ状態だと言っている時に何を言い出すんだと思う者が多かった。


「……どういうことだ?」
「皇女様、居場所を求めておられます」
「っ、」
「ここにいて良いのだと陛下が、おっしゃってあげてください。そうでなければ、約束が反故になってしまうことに皇女様は、己を罰し続けてしまう。誓いを守ってよいのだとおっしゃってあげてください」


リーシーの言葉にズーウェイが死んだ時のことを皇帝は思い出した。

そこまでなら、それで死なないならばやるだけやってみるかと思っていたが、リーシーは更に続けた。


「そうでなければ、天変地異の被害が拡大していくことになり、この国は昔のような小国に戻ることになります」
「っ、!?」


だが、天変地異の被害が拡大して、小国に戻るという言葉に眉を顰めずにはいられなかった。


「お前は、皇女が天変地異を起こしていると言いたいのか!?」
「ここで幸せになることを約束したから、居場所がなくなってしまうことにその余裕がなくなっただけ。そのせいで、守りが薄まってしまったから、壊れて見えるだけのこと。壊そうとしているのではない。本気で壊す時は、そんな猶予などない。息をするように簡単に消せる。守ることをやめればいいだけのこと。それができないから、彼女は己を閉じ込めた。そうまでして、守ろうとしているのにお前たちは滅ぼそうとしたと言ったのを忘れているだけのこと」
「っ!?」
「彼女は、同じことはしない。そんなことをするくらいなら、自分を閉じ込める。お前たちが滅ぼした者と言って傷つくからではない。多くの民が苦しむからできない。彼女は、そういう皇女よ」


リーシーは、よく知っているかのように語った。それに皇帝が何か言う前に更に続けた。


「あなたは、よく知っているはず。皇女のことをあなたは、彼女の母である側妃を重ねて見てばかりいて、彼女自身を見てはいなかった。彼女の努力を褒めもせず、皇女なのだからと当たり前のようにさせ続けた。あなたは、残された歴史を知っているのに都合のよいことだけを信じて、皇女に当てはめた」
「黙れ!!」
「でも、残念ね。その残された歴史も、本当にあったことと違うわ」
「なんだと?」
「皇女は、双子のようにそっくりだけど、双子ではなかった。片方が滅ぼしたのをもう一方が救ったのではない。どちらも、この国を救おうとして、どちらも犠牲になった。なのにお前たちは、都合の良いようにねじ曲げた。私たちは、この国を救おうとしたのではない。ただ、幸せになってほしかっただけ。そう約束しあったから、お互いが幸せになるために生まれ変わり続けた。なのに」  


リーシーは、ディェリンが何を思って、自分を閉じ込めたかがわかった。だから、こんな国どうなっても構わないなんて思うわけにはいかなかった。

ハオランや皇太子やジュンユーは、それを黙って見ていた。言いたい放題をしすぎていて、皇帝に不敬すぎて、いつ殺せと命じられるかと気が気ではなかった。

もう1人の皇女がそこにいた。ディェリンと似た雰囲気を持ちながら、全く異なるものを内に秘めた者が、怒り狂うのを抑えるのに必死になっていた。

彼女は、皇帝のみならず、この場に居る者たちをを責めていた。そして、問うていた。

父として、この国の王として、あなたは、何を選ぶのかと。他の者も、何を選ぶかと。

その答えによってはリーシーは、この国の守りを放棄して、自分もディェリンと同じく閉じこもろうとしているように見えた。

今も天変地異が各地を襲っているのに皇帝は、皇女の父として、地位が脅かされることをそんな中で恐れているようにしか見えなかった。


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