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しおりを挟むそんな村で他に困ることといえば、不作の年が続く時だった。そんな時は他所から嫁や婿を数多く迎え入れて来た。普通なら、そんなことをしたら食い扶持に益々困ると思うところだろうが、この村では不作が酷くなればなるほど、嫁や婿を率先して迎え入れることに力を入れていた。
村から人が出て行くことになるよりも、迎え入れることを土地神様が何より喜ぶのだ。この村が栄えることを喜んでくれると信じられていた。
その村には、他にも言い伝えがあった。村の土地神様に生贄の女の子を捧げると必ず願いが叶うというものだ。
願いは必ず叶う。それゆえに嫁と婿を不作が続くと必ず迎え入れて、土地神様を安心させるために村の繁栄を確固たるものにするのが、古くから伝わる習わしの1つだった。
必ず願いが叶うからといっても、村人は女の子を手当たり次第に選んで生贄にして願いを叶えてもらおうとすることは決してしなかった。不作の年が続いて、ぎりぎりまで頑張っても、どうにもならなかった時にのみ、その願いを叶えてもらうために泣く泣く女の子を生贄にするのだ。
だからこそ、土地神様は村人の切なる願いを叶えてくれているのだと信じられていた。それを違えようとする者は、村には住んでいなかった。
それこそ、他所から来た者たちは、まず村の習わしを厳しく教わるため、破ろうなんて邪なことを考える者はいなかった。破ったりして、土地神様に嫌われたら、祟られてしまうと思っているのだ。そんなことになれば、自分だけでなくて、自分の家族や子孫までもが酷い目にあいかねない。それを恐れて、習わしを違えようとはしなかった。
村人たちは、それをひたすらに忠実に守ってきた。そして、昨今、不作が続いていて、ぎりぎりまで村人たちは耐えに耐えていたが、今年こそは豊作になってもらわなければ、村人の大勢が餓死することになった。
「ハナ」
「わかっています。覚悟はできています」
ハナは両親と一緒に村長の家に呼ばれていた。
そこには村人の大人たちが集まっていた。村長に何か言われる前にハナはなぜ呼ばれたかをわかっていると言ったのだ。
ハナの両親が話したのだろうと村長や村人たちは思った。親が、年端もいかない我が子にそんなことを話して理解させるなど、どれほど心痛めることか。
彼女の両親、特に母親はそれを聞いて我慢ならずに泣いていた。
彼女だけではない。村の女性たちも、ハナの言葉にこらえきれずに泣いていた。特に老人はまだ年端もいかないハナが、村のために生贄になるのにいたたまれない顔をしていた。
「ハナは、敏い子だ」
「えぇ、俺らの自慢の娘ですから」
村人たちは、ハナが生贄に決まり、それを回避しようとすることもなく受け入れたことに安堵する者もいたが、極わずかだった。みんなハナが、とても良い子で、生贄になんてしたくはなかったのだ。それをわかっているかのようにハナは、何でもないように笑っていて、それがなおさらみんなの涙を誘っていた。
「おまんま、みんなが、たくさん食べれるように神様にお願いする」
そんなことを言うハナの姿に嗚咽が増えた。男性陣も泣き始めていた。
生贄になるというのに自分の心配よりも、みんなのことを思って笑うのだ。
これが、我が子だったら、孫だったら、誰も耐えられはしないだろう。親なら、代わってやれるものなら代わってやりたいと思うところだろう。
だが、生贄に適した女の子は、ハナしかいないのだ。それをわかっているからこそ、ハナは何でもないと笑っていた。
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