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~にがっき!~赤色の新星
53話目:異物混入
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「え~……つまり、ヒビキさんはアカネさんを密告しようと後をつけてたら、いつの間にかダンジョンに入っていて、途中でアカネさんを見失って逃げて、ここに隠れていたと?」
「違う! 後をつけてたんじゃなくて、見守っていたんだ! やましい気持ちはこれっぽっちしかなかったんだ、信じてくれ!」
「自白しましたわね……」
一般人であれば<忌み枝>のダンジョンに入れば<ダンジョン耐性>がない為、その場に倒れるだろう。
<探索者>であれば入れるが、その異常な雰囲気を察知するだろう。
しかし、ヒビキは英雄エトルリアの本気の殺気にすら気付かないほど鈍感だった。
しかもアカネの母校がダンジョンになっていることも知らない。
結果、ドンドン奥へと入っていき、こんな場所へと迷い込んだわけである。
そしてクラスメイト一同、困ったように頭を抱える。
頭どころか、お荷物になりそうな男をパーティーに抱えてしまったせいだ。
「というか、一人で鍵盤楽器を弾いていた理由は何ですの?」
「誰か気付いてくれるかなって。あと暇つぶし。おかげでここの校歌弾けるようになったゾ」
実際にはこの場において逆転の布石となる曲がないかを調べていたのだが、役立つものはなかったので徒労でしかなかった。
ちなみに手持無沙汰な男は、今度は木琴を鳴らして遊んでいる。
「さぁ今すぐ俺をここから連れ出してくれ! 囚われの姫のように! 丁重に、安全に、美味しく!」
「アナタは姫ではありませんし、食べてもお腹を壊してしまいそうですが……」
このノリについていけるのは、本校の中でも一部の男子生徒くらいであろう。
マジメな生徒で固まっている分校で、これを制御できる者は恐らくいない。
「というか、アナタも<探索者>の端くれならばご自分で脱出しては?」
「ばっきゃろぅ! 自慢じゃねぇが俺ぁ学園最弱を自負してんだ! 一人で戦えるわけないだろ!」
「<色術>の一つくらい扱えないのですか?」
「残念だったなァ! 才能なくて先生も全員、サジ投げちまった! デュハハハハ!」
「胸を張って威張るようなものではありませんわ……」
≪ドルイド≫のテクマが大きなため息をつく。
なお、彼女達は目の前の男が<混沌の墜とし児>ということには気づいていない。
なにせ膨れに膨れた有名無実な与太話のせいで、アカネを超えるほどの強者であるというイメージが染みついているからだ。
「っていうか、あんたらは俺を助けに来たんじゃないの? なんで武器とか持ってないの!?」
「……やむを得ぬ事情があるのです」
「あぁ、エッチな感じのやつ? 分かるよ」
「情事ではありませんっ!」
打てば響くその反応は余計に男を調子づかせるだけなのだが、彼女達はそれを知らない。
最適解は黙って殴って気絶させて外に放り出すくらいだろうか。
流石に≪ドルイド≫のテクマにも疲労が見えた為、今度は≪レギオズ≫のエヴェドが話しかける。
「僕らはアカネさんを助ける為に来たんだ。だから残念だけど、まだ帰れないんだよ」
「なによ! アタイよりもあの女の方が大切だって言うの!?」
「………うん。僕らにとって、何よりも大事な人なんだ。だから僕らは命をかけてここに来てるんだよ」
「あーあー! 仲良し青春ごっこしてるようで羨ましいこってー! 俺もそういう青春したかったなー!」
ちなみに、この地面で駄々をこねるヒビキが窮地に陥ったならば、本校のクラスメイト達もきっと助けに来るであろう。
ただし、半数は余計な被害が出ないようにする為であり、もう半数は助けに行かなければヒビキが厄介化するからである。
ある意味、こいつなら死ぬことはないだろうという信頼があった。
そんな騒ぎを聞きつけたせいか、兎耳のハヴラが壁からの異音に気付いた。
「あ、敵であります! 壁の向こうから……ドンドン増えてまする!」
「ハヴラさんの耳があっても、こんなに近づかれるまで気付けなかったとは」
「あ、それについては……その……」
兎耳のハヴラが指をさした先には、あの男……ヒビキと木琴があった。
「……え? 俺のせい?」
「あぁもう! とにかく今は迎撃しますわよ!」
壁の向こうからはこちらに入ろうと爪で引っ掻くような音がする。
そして一匹のソレは、壁の上部にある換気窓から音楽室へと侵入してきた。
「ッ!」
<色術>で先制攻撃すべき場面において、生徒達はその動きを止めてしまった。
侵入してきた敵……モノは、生々しい誰かの腕だったのだから。
その中で唯一動けた≪キメラ≫のアタレフは、≪ドルイド≫のテクマへと襲い掛かる腕を払い落としてそのまま叩き潰した。
「しっかりしろ! これくらい、覚悟してたんだろうが!」
「と、当然ですわ! 皆さん、先ずは目の前の脅威を排除いたします!」
震える身体を奮い立たせ、戦えないヒビキを背にして異世界組が身構える。
「まぁ時間浪費させてたから俺のせいっちゃ俺のせいか」
だというのに、その男は自身の守る壁を掻き分けて前に出た。
「ちょっと、危ないですわよ! こちらに戻りなさい!」
しかし男は気にせず、まるで散歩するかのように口笛を吹きながら壁へと歩みを進める。
そしてズボンに隠し持っていた銃を構え、壁越しに群がっていた敵へと発砲した。
闇雲に撃つのではなく、そこにいることを確信しての数発の発砲。
異音は止み、全ての敵は破壊された。
だというのに、異世界組の顔色は悪いままであった。
「……何なんですか、あれ」
「これはな、銃という武器でな」
「いえ、それは知ってます。僕らの世界にもありますので。そうではなく……なんで壁の向こう側にいた敵の位置が分かってたんですか……」
彼は<色術>も<鉱術>も、信仰に依る奇跡も使えない。
ただし、異世界においても誰も見向きもしなかった音の力……<奏術>を扱うことに関してだけは、抜きんでた実力を持っていた。
かつて助けようとした女子先輩の部屋で見つけたその<奏術>は物体の透過を可能にし、壁越しの攻撃を可能としたのだ。
「普通に曲のおかげじゃよ。こういう時くらいにしか役に立たないけどね!」
壁の向こう側から敵が襲ってくるというシチュエーション自体、通常のダンジョンでは起こり得ないからであろう。
無論、これを悪用する方法も考えてはいるが、それについては割愛する。
それよりも大事なことを≪ドルイド≫のテクマが叫んだ。
「アナタ! 武器を持ってたなら言いなさいよ! というかそれで外に出ればよかったじゃない!」
「弾切れとか怖くて……リロード中も怖いし、トラップも怖い。一人で外に出るのがもう怖い」
引きこもりのような言い方であるが、たった一つのミス……いや、ミスがなくとも死ぬ場所においては、責められるような理由ではなかった。
さて……ここで≪レギオズ≫のエヴェドが自分の問題について気付いた。
≪ライカンズ≫や≪ホーンズ≫、≪キメラ≫ですら己の肉体を武器にできる。
他の種族であれば術などで援護ができる。
しかし彼は簡単な<鉱術>が扱えるが今まで投槍に特化していたせいで、あまり戦力にならないのだ。
もちろん、彼自身は己の身を犠牲にして盾になる覚悟だってある。
逆に言えば、その程度でしか貢献できないということ。
現地で引きこもっていたヒビキよりも無力なのではないかと痛感したのであった。
「おい、どうした?」
「あ……いや、何でもない。うん、大丈夫だよ」
≪キメラ≫のアタレフが問いかけるも、≪レギオズ≫のエヴェドは心配させないように振舞う。
しかしその態度は何もないわけがないだろうと思うものであった。
大きなため息をついた≪キメラ≫のアタレフは、隣の技術室へと移動するよう提案した。
「こんなところで何をするつもりですの?」
「……まぁ、見てりゃ分かる」
そう言って彼はヒビキから借りた銃を自分の頭に向ける。
「え……なにを―――――」
一発の銃声。
その弾丸は、彼の頭――――その角に小さな穴を開けていた。
「グッ……グウウゥ!」
二発、三発、四発……小さな穴はやがて大きくなり、そのまま自身の角を折ってしまった。
「ちょっと! いきなりどうしたんですの!? いきなり自分の角を折ってしまうだなんて!!」
≪ドルイド≫のテクマと別のクラスメイトが手当てすべく、すぐさま駆け寄る。
それを意に介さず、≪キメラ≫のアタレフは≪レギオズ≫のエヴェドへと折れた角を投げ渡した。
「オラッ……これで槍でもなんでも作ればいいだろ……」
「そんな……だからといって、キミの大切な角を―――――」
「大切なんかじゃねぇよ。オレは≪キメラ≫だ、角なんて小さいもんにこだわる≪ホーンズ≫じゃねえ」
そんなことはない。
角も、爪も、牙も、彼にとっては強さの象徴である。
例え≪ライカンズ≫や≪ホーンズ≫に認められずとも、自身の強さを証明するものであった。
そんな彼が、なぜ自分の角を折ったのか?
分校のクラスメイト達はバラバラの種族の集まりだというのに、異世界人である≪ヘイズ≫のアカネのもと、全員が平等に一致団結を成し遂げた。
では他の者達はどうか?
≪ホーンズ≫であれば己を誇りに、≪ライカンズ≫は己の爪と牙を誇りとしている。
その己が拠り所にしている誇りと自負こそが、己自身を縛る鎖となっていた。
あまりにも不自由な姿だと思っていたが、自分自身も≪キメラ≫であるという理由から、迫害という不自由を受け入れてしまっていたと気付いてしまった。
これからは違う。
≪キメラ≫という種族に囚われず、自由に生きてみせる。
だから、この角折りは彼にとって決意の表れ。
クラスメイト達のように、種族に囚われず自由になってみせると。
一歩、彼らへと歩み寄る為の大事な儀式だったのだ。
「ハァ……戦ってみせろよ、最後の最後までよ」
「アタレフくん……」
こうして技術室にあった素材を合わせた急ごしらえの物でありながらも、世界に一本しかない至高の槍が完成した。
これを見て自分達も角を折るべきか考える≪ホーンズ≫もいたが、≪ドルイド≫のテクマの説得と、これ以上あっても仕方がないと≪レギオズ≫のエヴェドが止めたことで思いとどまった。
「さて、エヴェドさんの武器も出来ましたし行きますわよ」
「ああ! さっさとこんなところから出ようぜ!」
≪ドルイド≫のテクマは気付いた。
ヒビキは嫌だ嫌だと言っても、一人では危険だということを理解している。
ならば、このまま彼を連れ歩けばいいと。
無関係な人を巻き込むことに良心がズキリと痛んだが、これまでの彼の行いと態度が麻酔となり、すぐに痛みはなくなった。
「ヒビキさん、ここから脱出する為にもアカネさん捜索に力をお貸しくださいね」
「やだ!!」
「じゃあここで一緒に死ぬしかありませんわね」
「それもやだぁ!!!!」
ヒビキは既に命綱が握られており、逃げられないことを悟っている。
それでも彼はみっともなく足掻いていた。
それとは別に≪キメラ≫のアタレフが、≪レギオズ≫のエヴェドの肩を借りて歩く。
そこまで消耗はしていないのだが、どうしても内密にする話があったからだ。
「エヴェド……アイツから絶対に目を離すな」
「ヒビキくんのこと? 確かに目を離せないくらい危なっかしいけど……」
「……なぁ、お前は自分と同じ種族の奴が肉片になってまで襲ってきたら怖いか?」
「……当たり前ですよ。アタレフくんは怖くないんですか」
「少しは面食らうだろうが、怖くはない」
不安そうな顔をするエヴェドに、アタレフが念押しする。
「けどな、アイツには一切動揺がなかった。まるで人と話しているのように、メシを食うのと同じように撃ち殺していた」
「えっと、つまり……?」
「そんな奴がマトモだと思うか? 奴がその気になれば、オレたちが気付く前に全員を背中から撃ち殺せる」
その言葉に思わずエヴェドが息をのむ。
「でも、そんなことする理由が―――――」
「しない理由もない」
そう……エヴェド達は同じ世界の住人であり、仲間であるアカネを助ける為に一致団結している。
だが、ヒビキにはそういった理由が一切ない。
いわばパーティーに紛れ込んだ唯一の異物。
だというのに、誰も彼のことを気にしてない。
何故なら弱いから。
自分たちの脅威にならないと頭と心が判断してしまっている。
つい先ほど、その弱い彼が一方的に同族の遺体を破壊したばかりだというのに。
それがアタレフの警戒心を最大まで強める原因だった。
「アレはオレ達の中で一番弱い。だがオレ達全員を殺せる力を持ってる。気をつけろ」
≪キメラ≫のアタレフが初めて人に頼る記念すべき日だというのに、それはあまりにも物騒な状況であった。
「違う! 後をつけてたんじゃなくて、見守っていたんだ! やましい気持ちはこれっぽっちしかなかったんだ、信じてくれ!」
「自白しましたわね……」
一般人であれば<忌み枝>のダンジョンに入れば<ダンジョン耐性>がない為、その場に倒れるだろう。
<探索者>であれば入れるが、その異常な雰囲気を察知するだろう。
しかし、ヒビキは英雄エトルリアの本気の殺気にすら気付かないほど鈍感だった。
しかもアカネの母校がダンジョンになっていることも知らない。
結果、ドンドン奥へと入っていき、こんな場所へと迷い込んだわけである。
そしてクラスメイト一同、困ったように頭を抱える。
頭どころか、お荷物になりそうな男をパーティーに抱えてしまったせいだ。
「というか、一人で鍵盤楽器を弾いていた理由は何ですの?」
「誰か気付いてくれるかなって。あと暇つぶし。おかげでここの校歌弾けるようになったゾ」
実際にはこの場において逆転の布石となる曲がないかを調べていたのだが、役立つものはなかったので徒労でしかなかった。
ちなみに手持無沙汰な男は、今度は木琴を鳴らして遊んでいる。
「さぁ今すぐ俺をここから連れ出してくれ! 囚われの姫のように! 丁重に、安全に、美味しく!」
「アナタは姫ではありませんし、食べてもお腹を壊してしまいそうですが……」
このノリについていけるのは、本校の中でも一部の男子生徒くらいであろう。
マジメな生徒で固まっている分校で、これを制御できる者は恐らくいない。
「というか、アナタも<探索者>の端くれならばご自分で脱出しては?」
「ばっきゃろぅ! 自慢じゃねぇが俺ぁ学園最弱を自負してんだ! 一人で戦えるわけないだろ!」
「<色術>の一つくらい扱えないのですか?」
「残念だったなァ! 才能なくて先生も全員、サジ投げちまった! デュハハハハ!」
「胸を張って威張るようなものではありませんわ……」
≪ドルイド≫のテクマが大きなため息をつく。
なお、彼女達は目の前の男が<混沌の墜とし児>ということには気づいていない。
なにせ膨れに膨れた有名無実な与太話のせいで、アカネを超えるほどの強者であるというイメージが染みついているからだ。
「っていうか、あんたらは俺を助けに来たんじゃないの? なんで武器とか持ってないの!?」
「……やむを得ぬ事情があるのです」
「あぁ、エッチな感じのやつ? 分かるよ」
「情事ではありませんっ!」
打てば響くその反応は余計に男を調子づかせるだけなのだが、彼女達はそれを知らない。
最適解は黙って殴って気絶させて外に放り出すくらいだろうか。
流石に≪ドルイド≫のテクマにも疲労が見えた為、今度は≪レギオズ≫のエヴェドが話しかける。
「僕らはアカネさんを助ける為に来たんだ。だから残念だけど、まだ帰れないんだよ」
「なによ! アタイよりもあの女の方が大切だって言うの!?」
「………うん。僕らにとって、何よりも大事な人なんだ。だから僕らは命をかけてここに来てるんだよ」
「あーあー! 仲良し青春ごっこしてるようで羨ましいこってー! 俺もそういう青春したかったなー!」
ちなみに、この地面で駄々をこねるヒビキが窮地に陥ったならば、本校のクラスメイト達もきっと助けに来るであろう。
ただし、半数は余計な被害が出ないようにする為であり、もう半数は助けに行かなければヒビキが厄介化するからである。
ある意味、こいつなら死ぬことはないだろうという信頼があった。
そんな騒ぎを聞きつけたせいか、兎耳のハヴラが壁からの異音に気付いた。
「あ、敵であります! 壁の向こうから……ドンドン増えてまする!」
「ハヴラさんの耳があっても、こんなに近づかれるまで気付けなかったとは」
「あ、それについては……その……」
兎耳のハヴラが指をさした先には、あの男……ヒビキと木琴があった。
「……え? 俺のせい?」
「あぁもう! とにかく今は迎撃しますわよ!」
壁の向こうからはこちらに入ろうと爪で引っ掻くような音がする。
そして一匹のソレは、壁の上部にある換気窓から音楽室へと侵入してきた。
「ッ!」
<色術>で先制攻撃すべき場面において、生徒達はその動きを止めてしまった。
侵入してきた敵……モノは、生々しい誰かの腕だったのだから。
その中で唯一動けた≪キメラ≫のアタレフは、≪ドルイド≫のテクマへと襲い掛かる腕を払い落としてそのまま叩き潰した。
「しっかりしろ! これくらい、覚悟してたんだろうが!」
「と、当然ですわ! 皆さん、先ずは目の前の脅威を排除いたします!」
震える身体を奮い立たせ、戦えないヒビキを背にして異世界組が身構える。
「まぁ時間浪費させてたから俺のせいっちゃ俺のせいか」
だというのに、その男は自身の守る壁を掻き分けて前に出た。
「ちょっと、危ないですわよ! こちらに戻りなさい!」
しかし男は気にせず、まるで散歩するかのように口笛を吹きながら壁へと歩みを進める。
そしてズボンに隠し持っていた銃を構え、壁越しに群がっていた敵へと発砲した。
闇雲に撃つのではなく、そこにいることを確信しての数発の発砲。
異音は止み、全ての敵は破壊された。
だというのに、異世界組の顔色は悪いままであった。
「……何なんですか、あれ」
「これはな、銃という武器でな」
「いえ、それは知ってます。僕らの世界にもありますので。そうではなく……なんで壁の向こう側にいた敵の位置が分かってたんですか……」
彼は<色術>も<鉱術>も、信仰に依る奇跡も使えない。
ただし、異世界においても誰も見向きもしなかった音の力……<奏術>を扱うことに関してだけは、抜きんでた実力を持っていた。
かつて助けようとした女子先輩の部屋で見つけたその<奏術>は物体の透過を可能にし、壁越しの攻撃を可能としたのだ。
「普通に曲のおかげじゃよ。こういう時くらいにしか役に立たないけどね!」
壁の向こう側から敵が襲ってくるというシチュエーション自体、通常のダンジョンでは起こり得ないからであろう。
無論、これを悪用する方法も考えてはいるが、それについては割愛する。
それよりも大事なことを≪ドルイド≫のテクマが叫んだ。
「アナタ! 武器を持ってたなら言いなさいよ! というかそれで外に出ればよかったじゃない!」
「弾切れとか怖くて……リロード中も怖いし、トラップも怖い。一人で外に出るのがもう怖い」
引きこもりのような言い方であるが、たった一つのミス……いや、ミスがなくとも死ぬ場所においては、責められるような理由ではなかった。
さて……ここで≪レギオズ≫のエヴェドが自分の問題について気付いた。
≪ライカンズ≫や≪ホーンズ≫、≪キメラ≫ですら己の肉体を武器にできる。
他の種族であれば術などで援護ができる。
しかし彼は簡単な<鉱術>が扱えるが今まで投槍に特化していたせいで、あまり戦力にならないのだ。
もちろん、彼自身は己の身を犠牲にして盾になる覚悟だってある。
逆に言えば、その程度でしか貢献できないということ。
現地で引きこもっていたヒビキよりも無力なのではないかと痛感したのであった。
「おい、どうした?」
「あ……いや、何でもない。うん、大丈夫だよ」
≪キメラ≫のアタレフが問いかけるも、≪レギオズ≫のエヴェドは心配させないように振舞う。
しかしその態度は何もないわけがないだろうと思うものであった。
大きなため息をついた≪キメラ≫のアタレフは、隣の技術室へと移動するよう提案した。
「こんなところで何をするつもりですの?」
「……まぁ、見てりゃ分かる」
そう言って彼はヒビキから借りた銃を自分の頭に向ける。
「え……なにを―――――」
一発の銃声。
その弾丸は、彼の頭――――その角に小さな穴を開けていた。
「グッ……グウウゥ!」
二発、三発、四発……小さな穴はやがて大きくなり、そのまま自身の角を折ってしまった。
「ちょっと! いきなりどうしたんですの!? いきなり自分の角を折ってしまうだなんて!!」
≪ドルイド≫のテクマと別のクラスメイトが手当てすべく、すぐさま駆け寄る。
それを意に介さず、≪キメラ≫のアタレフは≪レギオズ≫のエヴェドへと折れた角を投げ渡した。
「オラッ……これで槍でもなんでも作ればいいだろ……」
「そんな……だからといって、キミの大切な角を―――――」
「大切なんかじゃねぇよ。オレは≪キメラ≫だ、角なんて小さいもんにこだわる≪ホーンズ≫じゃねえ」
そんなことはない。
角も、爪も、牙も、彼にとっては強さの象徴である。
例え≪ライカンズ≫や≪ホーンズ≫に認められずとも、自身の強さを証明するものであった。
そんな彼が、なぜ自分の角を折ったのか?
分校のクラスメイト達はバラバラの種族の集まりだというのに、異世界人である≪ヘイズ≫のアカネのもと、全員が平等に一致団結を成し遂げた。
では他の者達はどうか?
≪ホーンズ≫であれば己を誇りに、≪ライカンズ≫は己の爪と牙を誇りとしている。
その己が拠り所にしている誇りと自負こそが、己自身を縛る鎖となっていた。
あまりにも不自由な姿だと思っていたが、自分自身も≪キメラ≫であるという理由から、迫害という不自由を受け入れてしまっていたと気付いてしまった。
これからは違う。
≪キメラ≫という種族に囚われず、自由に生きてみせる。
だから、この角折りは彼にとって決意の表れ。
クラスメイト達のように、種族に囚われず自由になってみせると。
一歩、彼らへと歩み寄る為の大事な儀式だったのだ。
「ハァ……戦ってみせろよ、最後の最後までよ」
「アタレフくん……」
こうして技術室にあった素材を合わせた急ごしらえの物でありながらも、世界に一本しかない至高の槍が完成した。
これを見て自分達も角を折るべきか考える≪ホーンズ≫もいたが、≪ドルイド≫のテクマの説得と、これ以上あっても仕方がないと≪レギオズ≫のエヴェドが止めたことで思いとどまった。
「さて、エヴェドさんの武器も出来ましたし行きますわよ」
「ああ! さっさとこんなところから出ようぜ!」
≪ドルイド≫のテクマは気付いた。
ヒビキは嫌だ嫌だと言っても、一人では危険だということを理解している。
ならば、このまま彼を連れ歩けばいいと。
無関係な人を巻き込むことに良心がズキリと痛んだが、これまでの彼の行いと態度が麻酔となり、すぐに痛みはなくなった。
「ヒビキさん、ここから脱出する為にもアカネさん捜索に力をお貸しくださいね」
「やだ!!」
「じゃあここで一緒に死ぬしかありませんわね」
「それもやだぁ!!!!」
ヒビキは既に命綱が握られており、逃げられないことを悟っている。
それでも彼はみっともなく足掻いていた。
それとは別に≪キメラ≫のアタレフが、≪レギオズ≫のエヴェドの肩を借りて歩く。
そこまで消耗はしていないのだが、どうしても内密にする話があったからだ。
「エヴェド……アイツから絶対に目を離すな」
「ヒビキくんのこと? 確かに目を離せないくらい危なっかしいけど……」
「……なぁ、お前は自分と同じ種族の奴が肉片になってまで襲ってきたら怖いか?」
「……当たり前ですよ。アタレフくんは怖くないんですか」
「少しは面食らうだろうが、怖くはない」
不安そうな顔をするエヴェドに、アタレフが念押しする。
「けどな、アイツには一切動揺がなかった。まるで人と話しているのように、メシを食うのと同じように撃ち殺していた」
「えっと、つまり……?」
「そんな奴がマトモだと思うか? 奴がその気になれば、オレたちが気付く前に全員を背中から撃ち殺せる」
その言葉に思わずエヴェドが息をのむ。
「でも、そんなことする理由が―――――」
「しない理由もない」
そう……エヴェド達は同じ世界の住人であり、仲間であるアカネを助ける為に一致団結している。
だが、ヒビキにはそういった理由が一切ない。
いわばパーティーに紛れ込んだ唯一の異物。
だというのに、誰も彼のことを気にしてない。
何故なら弱いから。
自分たちの脅威にならないと頭と心が判断してしまっている。
つい先ほど、その弱い彼が一方的に同族の遺体を破壊したばかりだというのに。
それがアタレフの警戒心を最大まで強める原因だった。
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