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第287話 幽閉

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翌日、善は急げとばかりにレレーナを俺の領地に連れていく事にした。どうやらレレーナは妊娠してから以前から続けていた教会の手伝いを休んでいるらしく、突然休みを取って居なくなると言う不自然な状況がバレにくくなっていた。偶然とは言え運が良かったな。

取りあえずいつまでかかるか解らないので、着替えや日用品は持てるだけ持っていく事にして、俺達一行は転移で領地まで移動する。見送るため一緒に転移して来たアミルと着替えをいくつか持ったレレーナは、突然目の前に現れたこの世界では見慣れぬ異形の城に唖然としていた。

「これが…エストの城なのか?」
「なんか…異様な形ね。城壁も変わった形をしているし、これ普通の砦や城より防御力が高いんじゃない?」
「魔法で建ててみた、ちょっとした自信作だよ。まあ後でゆっくり見てくれていいから、さっさと中に入ろうぜ」
「レレーナさん、それは私達が持ちますね」

クレア達は率先してレレーナの荷物を手に持ち彼女を気遣う。降ろされたままの跳ね橋を渡り城内に入ると、ちょうど巡回に出るところだったリアンの小隊と出くわした。城内もあらかた片付いたので、いよいよ彼女達治安維持部隊も本格的に活動し始めたのだ。

「領主様、お帰り。そっちの人達は?」
「昔パーティーを組んでた俺の友達夫婦だよ。アミルとレレーナだ。レレーナだけ今日からしばらく住む事になるから、仲良くしてやってくれ」
「あいよ。よろしくね、お二人さん」

真新しい装備に身を包んだ彼女達は、意気揚々と城を出て行く。それを見送るアミル達は去りゆく彼女達と俺を交互に見ると、感慨深そうにつぶやいた。

「お前本当に貴族になったんだな…」
「まだ他にも人を雇っているんでしょう?凄いわね」
「今は奴隷だけどな。そのうち解放するつもりだよ」

城内は建てたばかりの頃と比べて、手入れが行き届き清潔になっている。通路に溢れていた荷物が無くなったのでメイド達が掃除しやすくなったのだろう。殺風景だった廊下も花が飾られ、少し華やかさが増している。雰囲気の変わったそんな廊下をそのまま進み、いくつかある空き室の一つに二人を案内すると、クレア達は持って来た荷物を下ろした。

「思ったよりいい部屋だな」
「王都で借りてる部屋より広いかも…」

部屋の数は一つだが、確かに広さで言えばアミル達の借りてる家より広いだろう。俺はこの城に住む人達に出来る限り快適に過ごして欲しいと思っているから、部屋はの大きさはこの世界の平均より若干大きく造ってある。日々の暮らしが快適でないと、人間気が滅入ってくるからだ。

「ひとまずレレーナはこれで安心だな。後の事はクレア達に任せるとして、俺とアミルは王都に逆戻りだ。行こうかアミル。あ、それとドランも一緒に行こう」
「グワッ!」
「アミル、気を付けてね!」
「大丈夫だレレーナ!」

手を振るアミルの肩を掴み俺達はガルシア王都に戻った。その日の夜から俺はガルシア王城に潜入を試みる事にした。いつもの装備を脱ぎ捨てて、アサシンそのものと言った全身黒ずくめの格好に量産品の短剣を持ち、腰にディアベルから借りたケルケイオンを差している。肩には隠密スキルで姿を隠蔽したドランを乗せ、いざと言う時のフォロー役も万全だ。転移が使えないと困るのでドラプニルの腕輪だけは黒い布を巻いて目立たなくしているが。

夜の帳が下り辺りが暗くなった頃、俺は行動を開始した。転移を発動し謁見時に案内してもらった通路の陰をイメージすると、次の瞬間俺の姿はガルシア王城の中にあった。瞬時に周囲の気配を確認してマップスキルを展開するが、今のところ人の気配は無い。どうやら巡回の兵は通り過ぎたかまだ来ていないようだ。

ドラン程ではないが、俺も隠密スキル持ちだから特に意識しなくても足音や気配を消す事は出来るので、気づかれずに城内を探索する事ぐらいさほど難しい事でも無い。とは言っても一切事前情報など無いので、実際に城を歩いてみない事には王がどこに寝泊まりしているのか判断が付かない。大体の目星をつけて広大な城の中を歩き回るしかないのだった。

「偉い人は上の階に居るって相場が決まってるよな」
「グワッ」

こうなったら上から順に探して行こうと決めて、とにかく上階に繋がる階段を探す。時折窓から身を乗り出して現在地を確認するが、思ったより進んでいないようだった。いくつか階段を上がったり下がったりと迷いながら進んでいると、窓の外に一つの塔がある事に気がついた。明かりが漏れているので誰かが住んでいるのかも知れないと思い、自然とそちらへ足が向く。すると塔と城の境目と思しき場所に、頑丈な鉄格子が設置されていたのだ。

「牢屋…?なら普通は地下だよな。わざわざ塔の最上階に造るとも思えないし」

この先に王の寝所があるとは思えない。思えないが…俺の勘が告げていた。この先には何かがあると。転移を使って鉄格子の向こう側に移動した俺は、抜き足差し足慎重に螺旋階段を昇って行った。かなり上まで登って来た時、マップスキルに人の反応が現れた。

数は全部で六。一つぽつんと離れている反応と、五人が一塊になっている反応がある。恐らく部屋の中と外に別れているのだろう。見つからないよう今まで以上に慎重に進み、そっと覗き込んだ廊下の先には見張りと思われる兵士が五人、退屈そうに座りながら談笑していた。

俺は腰に差したケルケイオンを抜き取り、最大威力で兵士達全員に光を浴びせた。

「うっ!」
「な、なんだ…!力が…」
「力が抜ける…」

体内の魔力循環が狂わされた兵士達は、全身から力が抜けて次々床に崩れ落ちる。これで次にケルケイオンが使えるのは一日後になった。俺は素早く崩れ落ちた兵士達に近寄ると全員に対して軽めの電撃魔法をお見舞いし、素早く意識を刈り取っていく。そして壁に掛けられた鍵を使い、固く閉ざされた扉の鍵を開けたのだ。

「さて…何が出るやら…」

ギギッと鈍い音を立てながら、扉は内側にゆっくりと開いていった。静かに中に踏み入ると、部屋の中には毛布が無造作に山積みにされた一つのベッドとみすぼらしい机、そしていくつかの書物のみがあるだけだった。ハズレかと思ったその時、ドランが鋭く鳴き俺の注意を引き付ける。すると無人だとばかり思っていたベッドの中から、一人の老人が毛布をかき分けながら姿を現したのだ。

「…客とは珍しいの。その姿…いよいよあやつはワシを殺す気になったか…」

疲れ切ってはいるものの、どこか覚悟の決まった声色で老人はつぶやく。一体何者だ?

「失礼。お名前をうかがってもよろしいですか?」
「なんじゃお主、ワシが誰かも知らんでこんな所まで忍び込んで来たのか?ワシはアルフォンソ・ガルシア。この国の国王じゃ」

老人が告げたその名前に、俺は絶句した。
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