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そして、はるかは秒で考えた。
九尾の狐って、あれよね?わりと悪役が多いわよね?美男美女に化けて傾国させる、みたいな。確かに、けしからん程に可愛い顔をしているが。いや、でも妖怪とかって……。
と、そこでようやく連れてきた子犬を思い出し、はるかはリビングを覗く。なんせ狭い都会の1LDK、ちょっと視線をずらせばすぐ見える。
「……いない」
クッションに寝かせていたはずの子犬がいない。
「いない?当たり前だろう、俺はここにいるからな!」
はるかの後ろから一緒に覗き込むように、少年が当然のように言う。
いや、まったくもって当たり前じゃないけどね!と、全力で突っ込みたい、が、はるかは何とか我慢した。
この子が本当に九尾の狐だとしたら、怒らせたりしない方がいいだろう。
「あの、坊やは」
「坊やじゃないわ!もう50年生きておる!お前より年上だぞ!」
「言い方が既に年上な感じじゃないけどね……」
「何だ?!」
「いえ。自己紹介するわね。私は、はるか、よ。貴方は?」
どこかの本で読んだように、念のためフルネームは避けて伝える。
「シン!まだ、ただのシンだ」
「まだ、って……後で変わるの?」
「そりゃ、しっぽが増えれば……って、これは秘密だ!騙されんぞ!」
って、君が言い出したんでしょーが。まあ、可愛いから許す。女の子だって、現金です!
「じゃあ、シンくん。まずはご飯にしない?あ、あと腰巻きだけじゃ、さすがにまだ寒くないかしら?今、着られそうな服も持ってくるわね。そうだ、そもそも妖怪さんはご飯は食べるの?」
「食べなくても平気だ!でも、俺は食うぞ!人間の飯は好きだからな!それと、むず痒いからシンでよい」
「そう、分かったわ。じゃあ準備するわね。あともう少し待っていて」
はるかはタンスからTシャツを取り出し、シンに着せた。そして無意識にシンの頭をよしよしと撫でてから、またキッチンに戻る。シンはあれよあれよと抵抗しなかった自分に、少し驚く。
(なんだ、あいつ……。動きが想定外すぎて、調子が狂っちまう。あのババアの気配を持つのも気になるし、それに不思議な匂いも混じってる。……なんだ?)
シンはじっとはるかを見つめて考えたが、答えは分からない。
(そもそも、何であれだけの怪我が治ってるんだ?あのババア、しばらく痛みが分かるようにとかって、結構えげつなくやられたが……。やはりこいつか?はるかが何かしたのか?分からんな……チッ、仕方ない。少し様子を見るしかないか)
人間の飯も久しぶりだしな。なんて、ちょっと楽しみなシンなのであった。
はるかはメニューに迷ったが、野菜のスープもある事だしと、大人も子どもも大好きなハンバーグを作った。
二人掛けのダイニングテーブルに、二人分の食事が並ぶ。しばらくはないことだろうと思っていたのに、不思議だ。
シンは目をキラキラさせている。可愛さ五割増しだ。
「はるか、これは何だ?」
「ハンバーグよ。食べたことは?」
「ない!」
そう言って、シンはさっさと箸を掴み、食べようとする。はるかは咄嗟にその手を叩く。
「シン、いただきますをしてから!!」
「な、うるさい、俺は九……」
「妖怪だろうと何だろうと、ダメなものはダメです!シンの分も、私が食べていいかしら?」
「……くっ、い、いただき、ます……」
「よろしい。はい、私もいただきます!」
九尾の狐なら慎重に、なんて考えていたはるかだが、子どもにしか見えない目の前の少年を、普通に小さい甥っ子と同じ様に扱ってしまうのであった。
「なんだこれ、うめー!!」
「良かった。多めに焼いたから、たくさん食べてね。ご飯もあるわ」
口いっぱいに頬張りながら喜んでくれる美少年。耳と尻尾も揺れている。尊い。
なんてはるかがニヤニヤしていると、シンが話し出してきた。
「はるかは貴族なのか?」
「貴族?」
「こんなに旨いものが食えて。ん?でも他に人はおらぬよな?家も狭いし」
「……貴族ではないわ」
「でも、家の中も珍しいものばかりだ。平民ではあり得ぬと思うのだが……それに、服も変だな」
「……え、なぜに今更、そんなこと言う……?」
はるかの頭の中は、大混乱だ。
(キゾクって、あの貴族?いつまであったっけ?貴族。しかも、服が変とは?まさか、時代が違うとか……。確かに、言葉使いがちょいちょい……いやもう、シンの存在だけでお腹いっぱいですけれど!)
やけにリアルな夢を見ているのかと思い、はるかは頬をつねる。痛い。普通に痛い。ご飯の温かさも感じるし、そりゃあ現実だわな。これはもう、腹を括ろう。
「食べながらでいいから、私も聞いてもいい?」
シンはもぐもぐしながら頷く。リスかよ。可愛いな。
「シンは、何時代から来たの?」
「時代?」
「あ、ナントカ時代は後付けだよね。ええと……偉い人?は、誰?とか?」
「偉い?ああ、人間で、か?」
「そうね、そうなるわね」
はるかは歴史は得意ではない。が、名前を聞ければ推測くらいはできるだろう、と考えた。……あんまりマイナーだと自信ないけれど……。
「今は藤原なんとかが威張ってるだろ」
だいぶ有名人だった。
平安時代とか、その辺かあ、なるほどねぇ。
「……って、どういうことやねん!!」
はるかは全く関西人ではない。が、一人ノリツッコミの時ってこうなるよね。腹を括り切れてなかったらしい。混乱中なので許してやってください。
「うるさいぞ。はるか。何を騒ぐ」
「その澄ました美少年顔に、初めてイラっとしたわ」
はるかのそんな言葉は気にもせず、シンはご機嫌に食事を続ける。よほど気に入ったと見える。
(……でもまあ、驚かされてばかりだし、まだまだ怪しさは半端ないけれど、焦った所でどうにもならないかあ)
はるかは再度、腹を括る。うん、今度こそ。
「話の続きは、食事後にしますか」
はるかの言葉に、シンは箸を休めずに頷いた。
九尾の狐って、あれよね?わりと悪役が多いわよね?美男美女に化けて傾国させる、みたいな。確かに、けしからん程に可愛い顔をしているが。いや、でも妖怪とかって……。
と、そこでようやく連れてきた子犬を思い出し、はるかはリビングを覗く。なんせ狭い都会の1LDK、ちょっと視線をずらせばすぐ見える。
「……いない」
クッションに寝かせていたはずの子犬がいない。
「いない?当たり前だろう、俺はここにいるからな!」
はるかの後ろから一緒に覗き込むように、少年が当然のように言う。
いや、まったくもって当たり前じゃないけどね!と、全力で突っ込みたい、が、はるかは何とか我慢した。
この子が本当に九尾の狐だとしたら、怒らせたりしない方がいいだろう。
「あの、坊やは」
「坊やじゃないわ!もう50年生きておる!お前より年上だぞ!」
「言い方が既に年上な感じじゃないけどね……」
「何だ?!」
「いえ。自己紹介するわね。私は、はるか、よ。貴方は?」
どこかの本で読んだように、念のためフルネームは避けて伝える。
「シン!まだ、ただのシンだ」
「まだ、って……後で変わるの?」
「そりゃ、しっぽが増えれば……って、これは秘密だ!騙されんぞ!」
って、君が言い出したんでしょーが。まあ、可愛いから許す。女の子だって、現金です!
「じゃあ、シンくん。まずはご飯にしない?あ、あと腰巻きだけじゃ、さすがにまだ寒くないかしら?今、着られそうな服も持ってくるわね。そうだ、そもそも妖怪さんはご飯は食べるの?」
「食べなくても平気だ!でも、俺は食うぞ!人間の飯は好きだからな!それと、むず痒いからシンでよい」
「そう、分かったわ。じゃあ準備するわね。あともう少し待っていて」
はるかはタンスからTシャツを取り出し、シンに着せた。そして無意識にシンの頭をよしよしと撫でてから、またキッチンに戻る。シンはあれよあれよと抵抗しなかった自分に、少し驚く。
(なんだ、あいつ……。動きが想定外すぎて、調子が狂っちまう。あのババアの気配を持つのも気になるし、それに不思議な匂いも混じってる。……なんだ?)
シンはじっとはるかを見つめて考えたが、答えは分からない。
(そもそも、何であれだけの怪我が治ってるんだ?あのババア、しばらく痛みが分かるようにとかって、結構えげつなくやられたが……。やはりこいつか?はるかが何かしたのか?分からんな……チッ、仕方ない。少し様子を見るしかないか)
人間の飯も久しぶりだしな。なんて、ちょっと楽しみなシンなのであった。
はるかはメニューに迷ったが、野菜のスープもある事だしと、大人も子どもも大好きなハンバーグを作った。
二人掛けのダイニングテーブルに、二人分の食事が並ぶ。しばらくはないことだろうと思っていたのに、不思議だ。
シンは目をキラキラさせている。可愛さ五割増しだ。
「はるか、これは何だ?」
「ハンバーグよ。食べたことは?」
「ない!」
そう言って、シンはさっさと箸を掴み、食べようとする。はるかは咄嗟にその手を叩く。
「シン、いただきますをしてから!!」
「な、うるさい、俺は九……」
「妖怪だろうと何だろうと、ダメなものはダメです!シンの分も、私が食べていいかしら?」
「……くっ、い、いただき、ます……」
「よろしい。はい、私もいただきます!」
九尾の狐なら慎重に、なんて考えていたはるかだが、子どもにしか見えない目の前の少年を、普通に小さい甥っ子と同じ様に扱ってしまうのであった。
「なんだこれ、うめー!!」
「良かった。多めに焼いたから、たくさん食べてね。ご飯もあるわ」
口いっぱいに頬張りながら喜んでくれる美少年。耳と尻尾も揺れている。尊い。
なんてはるかがニヤニヤしていると、シンが話し出してきた。
「はるかは貴族なのか?」
「貴族?」
「こんなに旨いものが食えて。ん?でも他に人はおらぬよな?家も狭いし」
「……貴族ではないわ」
「でも、家の中も珍しいものばかりだ。平民ではあり得ぬと思うのだが……それに、服も変だな」
「……え、なぜに今更、そんなこと言う……?」
はるかの頭の中は、大混乱だ。
(キゾクって、あの貴族?いつまであったっけ?貴族。しかも、服が変とは?まさか、時代が違うとか……。確かに、言葉使いがちょいちょい……いやもう、シンの存在だけでお腹いっぱいですけれど!)
やけにリアルな夢を見ているのかと思い、はるかは頬をつねる。痛い。普通に痛い。ご飯の温かさも感じるし、そりゃあ現実だわな。これはもう、腹を括ろう。
「食べながらでいいから、私も聞いてもいい?」
シンはもぐもぐしながら頷く。リスかよ。可愛いな。
「シンは、何時代から来たの?」
「時代?」
「あ、ナントカ時代は後付けだよね。ええと……偉い人?は、誰?とか?」
「偉い?ああ、人間で、か?」
「そうね、そうなるわね」
はるかは歴史は得意ではない。が、名前を聞ければ推測くらいはできるだろう、と考えた。……あんまりマイナーだと自信ないけれど……。
「今は藤原なんとかが威張ってるだろ」
だいぶ有名人だった。
平安時代とか、その辺かあ、なるほどねぇ。
「……って、どういうことやねん!!」
はるかは全く関西人ではない。が、一人ノリツッコミの時ってこうなるよね。腹を括り切れてなかったらしい。混乱中なので許してやってください。
「うるさいぞ。はるか。何を騒ぐ」
「その澄ました美少年顔に、初めてイラっとしたわ」
はるかのそんな言葉は気にもせず、シンはご機嫌に食事を続ける。よほど気に入ったと見える。
(……でもまあ、驚かされてばかりだし、まだまだ怪しさは半端ないけれど、焦った所でどうにもならないかあ)
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はるかの言葉に、シンは箸を休めずに頷いた。
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