生意気天使に出会いました

渡 幸美

文字の大きさ
14 / 18

14.東の花壇にて

しおりを挟む
ひまりに言われてたどり着いた、東の花壇。

紫陽花が咲き誇るそこに、その人はいた。

そして、その足下にあるのは……とても凝った装飾の、美しい墓石だ。

美緒さんというのが、きっとひまりのママだ。
その、隣には。

「ひまり……本当にそう、だったのか」

自分にも言い聞かせるように呟いた。

それから俺たちは、目の前にひまりパパがいるのも忘れ、その墓石をしばらくの間見つめてしまっていた。

どのくらい、そうしていたのだろう。

「君たちは、どなたかな?娘を……ひまりを知っているようだが」

低い威厳のある声に、ハッと我に返る。

「すみません、突然お邪魔して。あの、俺たちはひまりちゃんに頼まれて」
「ひまりに、頼まれて……?」

しまった、いろいろ動揺して、話す段取りを間違えた気がする。いや、この親父さんの迫力のある顔から察するに、盛大に間違えた。

「に、兄ちゃん、それじゃ伝わらないよっ」
「そ、そうだけど、他に何て言えば?」
「た、確かに、ひまりが……とか、考えてもいなかったしな」

兄弟でオロオロしながら話していると、明らかに冷たさを増したひまりパパが心の底から吐いたため息が聞こえて来た。

三人でビクッとしながら振り返ると、ひまりパパは呆れた顔を隠さずにいた。

「どうせ、新手の詐欺か何かだろう?今日はもう帰れ、見逃してやる。まだ君たちは未成年じゃないか?これに懲りたら、慣れないことをやるんじゃない。向いていないと思うぞ」

表情は厳つい。けれど、言葉の端々に優しさを感じる。こんな、得体の知らない俺たちに。ひまり、本当だ。パパは優しいな。

「それにしても、関さんはどうしたんだ?珍しいな、こんなこと……」
「あ、あの!本当に、頼まれたんです。ひまりちゃんに」

このまま簡単に引き下がるのはダメだ。俺は更に言葉を重ねる。

(きっと、これはひまりの最後の願い。なんとか叶えてやりたい!親父さんだって、優しい人じゃないか)

「まだ言うのか。あんまりしつこいと警察を……」
「よ、呼んでもいいです!」
「今日、お父さんお誕生日なんですよね?ひまりとプレゼントを作ったんです!」

優真翔真も、必死にいい募る。

「お前ら、本当にいい加減に……!」
「本当かもしれませんよ?旦那様」

第三者の声に、全員で振り返る。そこには、ひまりパパと同い年くらいの男性が立っていた。ひまりが言っていた、秘書さんかな。

「……頼。何を、言って」
「さっき、関さんから内線もらって。お嬢様が帰っていらしたって言うんだよね」
「あっ、じゃあ関じいさんにもひまりちゃんが見えたんだね?良かった!」
「こら、また優真!」
「……関じい?」
「あっ、すみません、ひまりちゃんがそう言ってたから、つい!」

ひまりパパの鋭い眼光にも怯まず、優真はあっけらかんと答える。たぶん、俺らの中で一番順応性が早い。

「ひまり、が……まさか……」

親父さんは頭を押さえながら首を振る。なかなか信じられないみたいだ。それはそうだよなあ。

「ちなみに、ひまりちゃんはプレゼントは何を?」

秘書さんらしき人が、俺たちに向かって訊ねる。

「パパと約束したから、お守りを、と。あと、あ!手紙!手紙もあります。それと、俺ら兄弟と相談して、枯れないように折り紙の花束を……」
「ひまりちゃん、一生懸命作ってました!」
「うん、薔薇の花がキレイに折れないってムクれててかわいかったな。あっ、すみません」

ひまりパパの傷ついたような顔を見て、翔真が慌てて謝る。何も関係のない俺たちが、この数日ひまりといられたのは、この人にとっては辛いはずだ。
秘書さんが、ひまりパパの肩を支える。

「お守り……あの日、確かに言ってましたね。ひまりちゃん」
「…………ああ……」

二人にも、覚えがあるものらしい。

「信じてください。俺たち、本当に頼まれたんです。パパと仲直りしたいから、協力して欲しいって」
「仲、直り……」
「プレゼントです。受け取って下さい」

ひまりパパは、泣くのを堪えるような、悲しさと少しの嬉しさをないまぜにしたような顔をして、震える手で、ようやくプレゼント入りの紙袋を受け取った。

「……ひまり」

ひまりパパがそう呟いて、顔の前で紙袋の取っ手をぎゅっと握った、その時。

『ーーーパパ!良かった!やっと会えた!!』

光の道を笑顔で走ってくる、ひまりがそこにいた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

Emerald

藍沢咲良
恋愛
教師という仕事に嫌気が差した結城美咲(ゆうき みさき)は、叔母の住む自然豊かな郊外で時々アルバイトをして生活していた。 叔母の勧めで再び教員業に戻ってみようと人材バンクに登録すると、すぐに話が来る。 自分にとっては完全に新しい場所。 しかし仕事は一度投げ出した教員業。嫌だと言っても他に出来る仕事は無い。 仕方無しに仕事復帰をする美咲。仕事帰りにカフェに寄るとそこには…。 〜main cast〜 結城美咲(Yuki Misaki) 黒瀬 悠(Kurose Haruka) ※作中の地名、団体名は架空のものです。 ※この作品はエブリスタ、小説家になろうでも連載されています。 ※素敵な表紙をポリン先生に描いて頂きました。 ポリン先生の作品はこちら↓ https://manga.line.me/indies/product/detail?id=8911 https://www.comico.jp/challenge/comic/33031

橘若頭と怖がり姫

真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。 その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。 高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。

神様がくれた時間―余命半年のボクと記憶喪失のキミの話―

コハラ
ライト文芸
余命半年の夫と記憶喪失の妻のラブストーリー! 愛妻の推しと同じ病にかかった夫は余命半年を告げられる。妻を悲しませたくなく病気を打ち明けられなかったが、病気のことが妻にバレ、妻は家を飛び出す。そして妻は駅の階段から転落し、病院で目覚めると、夫のことを全て忘れていた。妻に悲しい思いをさせたくない夫は妻との離婚を決意し、妻が入院している間に、自分の痕跡を消し出て行くのだった。一ヶ月後、千葉県の海辺の町で生活を始めた夫は妻と遭遇する。なぜか妻はカフェ店員になっていた。はたして二人の運命は? ―――――――― ※第8回ほっこりじんわり大賞奨励賞ありがとうございました!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす

小木楓
恋愛
完結しました✨ タグ&あらすじ変更しました。 略奪された皇后を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。 「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」 「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」 大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。 しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。 強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。 夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。 恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……? 「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」 逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。 それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。 「一生、私の腕の中で溺れていろ」 守るために壊し、愛するために縛る。 冷酷な仮面の下に隠された、 一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。 ★最後は極上のハッピーエンドです。 ※AI画像を使用しています。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

溶ける背徳、秘め事の灯

春夏冬
恋愛
生徒の保護者として現れたのは、かつて家庭教師だった男。 かつて交わした、ひとつのキス。 許されないと知りながら、それでも灯ってしまった、秘密の火。 教師として、女として、踏み越えてはいけない一線。それなのに──もう、戻れない。 誰にも知られてはいけない、秘め事。 ひとつの背徳の記録。

君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】 ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る―― ※他サイトでも投稿中

処理中です...