不死殺しのイドラ

彗星無視

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第2部1章 躍る大王たち

第89話 『科学文明に驚くばかり』

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 その後、イドラとソニアはカナヒトと再合流し、また別の棟へと案内された。

「あー、この二部屋を使ってくれ。どっちがどっち使うとかは、まあそっちでテキトーに決めてくれればいい」

 カナヒトは面倒くさそうなのを隠そうともせず、廊下の突き当たりで足を止めると、間隔を空けて並ぶ二つのドアを指差す。
 ここは、方舟に籍を置く者たちのための部屋が並ぶ宿舎棟。その一階は戦闘班用のフロアで、今はちょうど空きがあった。

「中に違いはあるのか?」
「え? さあ……どうだろな? ま、でも大体いっしょだろ」
「テキトーだなぁ」
「腹ぁ減ってんだよ。こちとら昼に出撃させられてから、米の一粒、虫の一匹食ってねえ」
「虫っ……? 食べるんですか?」
「いや、別に。食わねえけど」

 訊いたソニアが苦笑を浮かべる。本当にテキトーだな、とイドラは思った。
 おおかた、ヤナギに案内の仕事を割り振られ、渋々従っているといったところだろう。

「ああでも、灯也とうやのヤツが前言ってたな。一時期の人類は、食料不足で昆虫を育てて食ってたとか……スナックワーム? ってやつ。あいつ物知りなんだよなぁ、アーカイブばっか見てるし」
「ひえっ、そ、そうなんですか? 虫を食べるなんて……わたしも村育ちですし、触るくらいならなんとかいけますけど、食べるのは流石に……」
「ん? 僕はよく食べるぞ、虫。魔物よりはうまいし、栄養もある」
「…………そういえばイドラさんはそんな感じでした」

 森の奥深くや乾いた荒野のただなかにレストランがあるわけもない。旅人の食事はいつも、メニューに選り好みは利かないのだ。

「そんじゃ、俺はここで——っと、肝心の鍵を渡し忘れるところだったぜ。危ない危ない、ほらよ」
「鍵? これが?」

 白い色をした、小さな薄い板のようなものを二枚、イドラとソニアにそれぞれ渡すカナヒト。
 それはどう見ても鍵穴に挿すような形状のものには思えず、イドラとソニアは疑問符を頭の上に浮かべながら、矯めつ眇めつする。

「ああ、カードキーも馴染みがないか。こいつをドアんとこにかざせば、ロックが解除される仕組みだ。……なくすなよ? あと折ったりもするな」
「ふうん、かさばらなくて便利だな。仕組みはさっぱりだけど」
「これもコピーギフトだ。そういうスキルを持ってる」
「えっ? コピーギフトは同じものを複製できるのか? それに、コピーギフトなら起動コードっていうのが必要なんじゃ……」
「今のは嘘だ。板ん中にすげえちっさい機械が入ってて、それをドア側の機械で読み取ってる」

 ニヤニヤとした笑いを浮かべながら、悪びれもせず言う。

「……お前なぁ」
「ははっ、外から来たヤツはからかい甲斐があるぜ!」
「あはは……わたしたち、ここだと簡単に詐欺に遭っちゃいそうです」

 イドラもいい加減、方舟が持つ技術力の高さは何度も身に染みて理解した。
 さっきのコピーギフト第二抽出室の様子や、薄い板きれに仕込まれた機械。果ての海より現れるあの箱舟さえ除けば、地底世界のどこを探してもこんな技術はないだろう。
 転移してきたオフィス街からして、とうに荒廃こそしていたものの、建築技術自体は地底世界のものとは比べるべくもない。

「食堂は廊下を渡って右に行けばすぐだ。お前らも飯食ってないだろ? 部屋、見終えたら行けよな」

 それだけ言って、カナヒトは自身が伝えた方向へ歩き去っていく。空腹に耐えかねたようだ。
 イドラたちはともかく、二人そろって部屋を見てみることにする。
 中は少々手狭な空間にベッドやソファ、あとは壁掛けのモニターくらいの家具のみが置かれた、言ってしまえばやや殺風景な部屋だった。
 だが十分、否、十二分だ。
 雨風をしのげる場所があることの幸運さを、旅人のイドラは深く知っている。それに壁のスイッチ一つで明滅を操作できる電灯は、蝋燭やオイルランプに比べてずっと利便性が高そうだった。

「この部屋はなんでしょう……うーん、太い管みたいなのがあって……このちっさなハンドルをひねればいいんでしょうか?」
「ソニア、物を触るときはもう少し慎重に——」
「きゃああああぁぁぁぁ——っ!?」
「ソニアぁッ!?」

 シャワールームの方から悲鳴を聞き、駆けつけたイドラが目にしたのは、壁に掛けられたシャワーヘッドから出た水を頭から被ったソニアの姿だった。

「ここは……浴槽はないが、浴室か? この管から拡散する水で体を洗うんだな。平気か、ソニア?」
「は、はいっ。いきなり水が出て、びっくりしちゃって」
「ならよかった。……む、こっちをひねるとお湯になるみたいだぞ」
「わあ、湯気が! ど、どういう仕組みなんでしょうか?」
「見当もつかないな」

 壁の裏で小人が火を起こし、近くの井戸から汲んだ水を温めてくれている。そんな突拍子もない想像が頭によぎる。イドラの中の常識ではまったく測れない、そのくらい荒唐無稽な技術だった。

「……もしかしたら、これは本当にコピーギフトを使ってるんじゃないですか?」
「ありえるぞ……!」

 その後も置かれた家電やらトイレやらで些細なことにいちいち驚愕させられながらも、ざっと部屋中を見終える。隣の部屋も見てみたが、カナヒトの言った通り、特にこれといった違いはなかった。
 なにかあったときのために、より出口に近い右の部屋をソニアに譲り、イドラは左の部屋を使うことにする。
 それからイドラたちも流石に空腹を覚えたので、カナヒトが言っていた食堂の方へ向かう。時刻は既に、夜の九時を回っていた。
 食堂は幸いまだ開いていたが、もう職員のほとんどは食べ終えて部屋に戻ったらしく、広々とした部屋に人影はまばらだった。

「——ん?」

 そのうちの一つに、イドラは反応を示す。すると向こうも気が付いたようで、自然と目が合った。

「君たちは……イドラ君にソニア君。昼間ぶりだな、夕食かい?」

 人がいないため広いテーブル席を占有し、半分ほど食べ進めたカレーを前にスプーンをにぎる男性。どこかダウナーで落ち着いた雰囲気をまとう眼鏡姿は、昼間に外で遭遇したチーム『片月』の一員だ。
 名前は、確か——トウヤ。さっきもカナヒトが話題に挙げた名だ。
 イドラは脳内でその名を思い出すと、「そんなとこ」と返事をしながら近づいた。

「カナヒトはもう食べ終えたのかな。さっきまで部屋の案内してもらってたんだけど」
「でもそれだったら、わたしたちとすれ違ってもおかしくないような?」
「ああ、リーダーはさっき出ていったよ。それで、あの人はいつも食後は訓練室に籠るからね。部屋の方には戻らなかったんだろう」
「訓練室? 今からか」

 その勤勉さは、さっきまでのちゃらんぽらんな態度とはまるで裏腹に思えた。
 だが昼間、アンゴルモアを倒す手際は確かによかった。あれほどの動きは葬送協会のエクソシストたちにもそうは真似できないだろう。
 真面目なのかそうでないのか、よくわからない男だとイドラは思った。
 食堂のメニューは日替わりで、しかしこの時間はもうカレー定食しか残っていなかった。トウヤにここのセルフサービスについて教わりながら、イドラたちもカレーを頼んでテーブルへ運ぶ。

「それでトウヤの方はなにしてたんだ? こんな遅くまで」

 ソニアと並んで席に着き、とろみのある茶色い汁のかかった米を口に運ぶ前に、イドラは世間話の一環としてそう訊いてみた。
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