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第一章 黎明を喚ぶもの
第十一話 『いい人』
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「アイテム屋? それも……もしかして、ミカンが言ってたやつか。本当にあったんだな」
「あの時は、ああするしかないと思ったが。やはり、ボーナスウェポンを失うのは……愚かだった。こんなことをほかでもない襲いかかったあんたに言っても仕方がないが、おれは兄貴として力不足の自分が不甲斐ない」
「お兄ちゃん……」
ボーナスウェポンを売って得た金など、その場しのぎだ。
まさにモンスターを倒してSPを得るための手段であるボーナスウェポンを手放してしまった以上、売って得たSPが尽きればいよいよ路頭に迷う。そうしてPKに手を染めるしかなくなった。
確かに愚策だ。ボーナスウェポンを売ってしまうことだけは、なにがなんでも避けるべきだった。
しかし同様の状況に陥った時、自分が同じ判断をしないと断言できるだろうか。アレンは自問する。
(……焦った時は、誰でも視野の狭窄に陥る。守るべき家族がそばにいるんだ、焦燥はなおさらだったろう)
手慣れていない様子から、日常的にプレイヤーキルをしているのではないと、初めからわかっていた。
「どんな事情があっても、PKなんてやめろ。……これだけあれば、当面の宿代は足りるだろ」
「これは……!?」
銃を持っていない左手で、アレンはウィンドウを操作する。マツに対するSPの譲渡だ。額は200SP。
「い、いいのか? おれたちは、あんたらのことを……」
「初めから殺そうとしてたってわけじゃないんだろ? 狙いはあくまでSP、ならまだ引き返せる。これでもう一度立て直すんだ、平野で狩りをする生活を。どこか受け入れてもらえるギルドを探してもいい」
「そんな——なんで、そんなこと。あんた一体」
「もちろんタダじゃない。お前らには俺のことを広めてもらう」
操作を終えた左手で、すっとアレンは自らの低い頭の上を指差した。
眼前の彼らには、ちょうどそこに、アレンのID表示が見えているはずである。
「俺はAren。PKを狩る、PKKだ。その名を伝えてくれれば、それでいい。俺は名を売りたいんでな」
「……何者なんだ?」
「オーバーストライク……って言っても伝わらないか。FPSゲームの元プロゲーマーだよ」
「プロゲーマー。は、はは。そうか、おれじゃ勝てないわけだ……。まったく大したやつだ、あんたは。こんなに小さいのに……」
「あ?」
「え?」
まだ子どもだと思われていた。
「そうだ。余計なアドバイスかもしれないが、ボーナスウェポンがないなら、ハーベストのを借りればいいんじゃないか? 店売りのナイフじゃモンスター狩りも流石に厳しいだろ」
「え……あ、ああ。そう思うか」
話題の転換に若干困惑しつつ、マツは悩ましいとばかりに眉根を寄せる。その反応から、アレンはマツがそうしない理由を察した。
「お前の妹は、きっとお前が思うほど弱くないよ。果敢だった」
「そう、だな。あぁ、あんたの言う通りだ。悪かったな、若葉、以前にそう提案してくれたのはお前だったのに」
「ううん、いいよ。でもやっぱり、ホーリーグラディウスはわたしもマツにいに使ってほしい。どうせユニークスキルとあんまり噛み合ってないし——」
ボーナスウェポンは生命線。だからこそ、妹の手にそれを備えさせておきたかった。
だが、もとよりあの西洋剣は小柄なハーベストが振るうには少々大きすぎる。マツの方がうまく扱えることだろう。
マツがしてきたのは、今日に至るまで非合理な選択ばかりだ。ギルドに所属しなかったことも、ボーナスウェポンを売ったことも、PKに身を落としたことも。彼の言う通り、彼の行いは結果として失敗ばかりを生んでいる。
だがそのすべては、妹を思うがゆえ。どこまでも純粋な動機によるものだ。
「——この、わたしに不釣り合いなボーナスウェポンは、お兄ちゃんに渡すためにあるんだって思うから」
涙ぐむ少女の笑みを見れば、アレンたちにもそのことは疑いようもなかった。
*
この恩は忘れない、と最後に礼を残し、西にあるという彼らの拠点の宿に帰っていくマツとハーベストを見送って、アレンたちも帰路に着こうとする。
だがその前にミカンは立ち止まって、今夜も無数の星が瞬く藍の空を見上げながら、ぽつりとつぶやくように切り出した。
「わたしが思った通り、いい人ですね。アレンさんは」
「……なに?」
「最初から見逃すつもりだったんですよね、二人のこと。銃弾も途中のはわざと当てないように撃ったんですよね? 初めは、アレンさんも外すことってあるんだな、って思ったんですけど……」
「あの兄妹が、明らかに転移者を襲い慣れているわけじゃなかったからだ。追い詰められて、そうするしかなかっただけ……だったらまだ引き返せるだろ。もしまたこれで懲りずにPKを続けようとするようなら、その時はこいつで撃ち抜く」
手に持ったままの、アレンの髪色と同じ金色を湛えたリボルバー銃、キングスレイヤーを持ち上げる。
それを見て、「あっ」と、思い出したかのようにミカンは声を漏らした。
「そ、そういえば。傷つけずに降伏させるため、っていうのはわかるんですけど、頭に銃口を突きつけて脅すのは……。怖かったです、本当に撃っちゃうんじゃないかって」
「ははっ、迫力あったか? まあ、撃とうにも撃てないんだけどな」
「え?」
アレンは照準も定まらないまま、無造作にそのトリガーを引いた。
突然の発砲にミカンはびくんと体を震わせて驚くも、弾丸は発射されず、それに伴う轟音も鳴りはしない。ただ、かちり、と発砲音に比べればはるかに小さな音でシリンダーが回転しただけだ。
「弾切れだったんだよ、もともと」
「——!?」
キングスレイヤーの装弾数は六。
マツへの牽制に一発、ハーベストの稀有なユニークスキルを妨害するために一発、壁面から引き剥がれた建材のブロックを破壊するのに三発、ハーベストを一瞬ひるませるために壁を狙う一発。
合計六発、つまりは距離を詰めたあの時点でアレンに残弾は残されていなかった。
「それ……もしあの時、二人が武器を捨てなかったら」
「やられてたかもな。ははは」
「な、なに笑ってるんですかっ。そんな危険な賭け……」
「百パーセントうまくいく作戦なんてないんだよ。俺は兄妹の関係性から、ああすれば降伏してくれると踏んだ。それにいざとなれば俺だってユニークスキルがある、大丈夫だ」
レバーを指で押しつつ、慣れた手つきで勢いよくバレルを下げる。すると銃が二つに折れ曲がるような形になり、むき出しになった弾倉から残っていた空薬莢が飛び出て、からんからんと小気味よい音を立てて地面に落ちた。中折れ式特有の排莢だ。
ホールドオープンのないリボルバー銃だからこそ、至近距離でも傍目から弾切れに気づかれずに済んだ。
再装填については、弾薬を別途用意しておく必要はない。
このキメラではただリロードを念じるだけで、手の内に弾薬が現れる。
だが、もう戦闘は終わった。アレンはウィンドウを操作し、装填していないキングスレイヤーをインベントリへしまう。インベントリを一度経由すれば、弾も自動で装填されてくれるのだ。
「ユニークスキルと言えば、さっきは助けられたな。イージスプロトコル、だったか」
「あ……だ、だけど、わたしずっと後ろにいるばっかりで。ほんとは、前に出なきゃいけないのに……また、モンスターの時と同じで足がすくんでしまって」
「感じ方はそれぞれだろうが、人が怖いのは当然だ。俺も転移者の方がモンスターよりもおっかないよ」
「アレンさんも、相手が怖いって思ったりするんですか? あんなに強くって、しかもPKKなのに?」
「俺だって怖いものは怖い。なりふり構わない人間の、捨て身の姿ほど恐怖心を呼び起こされるものはない。……キメラに来て、俺もこんなの初めて知ったよ」
追い詰められた人間は、なにをするかわからない。
そしてPKになる人間というのは、だいたいが追い詰められているか、始めから壊れた異常者だ。
あの兄妹は、アレンを襲ってきた手合いの中ではずっと真っ当だった。加害に対しての心理的な躊躇がある。
もっと冷たく恐ろしい、なんの抵抗もなく命を奪ってこようとする輩を、アレンはキメラに来てから何人も見てきた。
(……俺は? 俺は、どうなんだ?)
ふと疑問が差し込んだ。
自分はどうなのだろう。マツのことを、殺すつもりはなかったとはいえ、躊躇なく撃った自分は。PKとなにが違う。
「じゃあ、アレンさんはどうやってその恐怖を克服してるんですか? それさえわかれば、わたしも……」
「ん——」
ミカンの声に、頭の中を侵す霧のような疑問が流れていく。
その問いに関しては、なんら頭を使わずとも、反射的に回答できるものだった。
「望みがあるからだ。そのためなら、自分の中の恐怖なんてねじ伏せてやる」
「望み……?」
「名を売ることだよ。このキメラで、俺は有名になって、くだらないチートの疑惑を晴らして……そしていつの日かゲームがクリアされて現実に戻った時、俺はプロゲーマーとして復帰する」
アレンにはFPSしかない。己のすべてを賭けているのだから、恐れなど些細なことだ。
「そうだったんですね……わたしも、きっとなにか強い目的が……」
ミカンはうつむいたが、少しすると決心を思わせる声で「そうだ」、とつぶやく。
彼女がなにに対して思いを巡らせたのか、アレンにはわかっていた。
(……<アーミン>)
マツの言っていた、かつてミカンが所属していた小規模ギルド。
それがPKギルドに堕ちたというのが事実なら、彼女は——
彼女が目指そうとする彼女は、放っておけはしないだろう。
だが、彼女の克己にこれ以上付き合う義理などない。アレンにはミカンの決心を手助けする義務もなければ、理由もない。
けれど。
「先に言っておくが、ミカン」
「はい……? あ、ええと……ま、待ってください。アレンさんがなにを言いたいか、わかります。<アーミン>のことは、わたし一人で——」
「俺はプレイヤーキラーキラーだ。PKギルドを野放しにするつもりはないし、獲物を誰かに横取りされたくもない」
「——え?」
これはミカンを助けるためではなく。
ただ、己のため。今しがた述べたばかりの、プロゲーマーとして復帰するための算段として。
「どうせ日中は暇だったんだ、明日からは<アーミン>についても調べてみよう。俺としても、ちまちま個人のPKを潰すよりも名を広めるチャンスだ」
——PKKとして、PKギルドなどというものは、無視するわけにもいくまい。
ミカンは固まったように口を開け、ぱちぱちと数回瞬きをしてから、少しだけほろこんだ表情で言った。
「やっぱり、いい人です」
「あの時は、ああするしかないと思ったが。やはり、ボーナスウェポンを失うのは……愚かだった。こんなことをほかでもない襲いかかったあんたに言っても仕方がないが、おれは兄貴として力不足の自分が不甲斐ない」
「お兄ちゃん……」
ボーナスウェポンを売って得た金など、その場しのぎだ。
まさにモンスターを倒してSPを得るための手段であるボーナスウェポンを手放してしまった以上、売って得たSPが尽きればいよいよ路頭に迷う。そうしてPKに手を染めるしかなくなった。
確かに愚策だ。ボーナスウェポンを売ってしまうことだけは、なにがなんでも避けるべきだった。
しかし同様の状況に陥った時、自分が同じ判断をしないと断言できるだろうか。アレンは自問する。
(……焦った時は、誰でも視野の狭窄に陥る。守るべき家族がそばにいるんだ、焦燥はなおさらだったろう)
手慣れていない様子から、日常的にプレイヤーキルをしているのではないと、初めからわかっていた。
「どんな事情があっても、PKなんてやめろ。……これだけあれば、当面の宿代は足りるだろ」
「これは……!?」
銃を持っていない左手で、アレンはウィンドウを操作する。マツに対するSPの譲渡だ。額は200SP。
「い、いいのか? おれたちは、あんたらのことを……」
「初めから殺そうとしてたってわけじゃないんだろ? 狙いはあくまでSP、ならまだ引き返せる。これでもう一度立て直すんだ、平野で狩りをする生活を。どこか受け入れてもらえるギルドを探してもいい」
「そんな——なんで、そんなこと。あんた一体」
「もちろんタダじゃない。お前らには俺のことを広めてもらう」
操作を終えた左手で、すっとアレンは自らの低い頭の上を指差した。
眼前の彼らには、ちょうどそこに、アレンのID表示が見えているはずである。
「俺はAren。PKを狩る、PKKだ。その名を伝えてくれれば、それでいい。俺は名を売りたいんでな」
「……何者なんだ?」
「オーバーストライク……って言っても伝わらないか。FPSゲームの元プロゲーマーだよ」
「プロゲーマー。は、はは。そうか、おれじゃ勝てないわけだ……。まったく大したやつだ、あんたは。こんなに小さいのに……」
「あ?」
「え?」
まだ子どもだと思われていた。
「そうだ。余計なアドバイスかもしれないが、ボーナスウェポンがないなら、ハーベストのを借りればいいんじゃないか? 店売りのナイフじゃモンスター狩りも流石に厳しいだろ」
「え……あ、ああ。そう思うか」
話題の転換に若干困惑しつつ、マツは悩ましいとばかりに眉根を寄せる。その反応から、アレンはマツがそうしない理由を察した。
「お前の妹は、きっとお前が思うほど弱くないよ。果敢だった」
「そう、だな。あぁ、あんたの言う通りだ。悪かったな、若葉、以前にそう提案してくれたのはお前だったのに」
「ううん、いいよ。でもやっぱり、ホーリーグラディウスはわたしもマツにいに使ってほしい。どうせユニークスキルとあんまり噛み合ってないし——」
ボーナスウェポンは生命線。だからこそ、妹の手にそれを備えさせておきたかった。
だが、もとよりあの西洋剣は小柄なハーベストが振るうには少々大きすぎる。マツの方がうまく扱えることだろう。
マツがしてきたのは、今日に至るまで非合理な選択ばかりだ。ギルドに所属しなかったことも、ボーナスウェポンを売ったことも、PKに身を落としたことも。彼の言う通り、彼の行いは結果として失敗ばかりを生んでいる。
だがそのすべては、妹を思うがゆえ。どこまでも純粋な動機によるものだ。
「——この、わたしに不釣り合いなボーナスウェポンは、お兄ちゃんに渡すためにあるんだって思うから」
涙ぐむ少女の笑みを見れば、アレンたちにもそのことは疑いようもなかった。
*
この恩は忘れない、と最後に礼を残し、西にあるという彼らの拠点の宿に帰っていくマツとハーベストを見送って、アレンたちも帰路に着こうとする。
だがその前にミカンは立ち止まって、今夜も無数の星が瞬く藍の空を見上げながら、ぽつりとつぶやくように切り出した。
「わたしが思った通り、いい人ですね。アレンさんは」
「……なに?」
「最初から見逃すつもりだったんですよね、二人のこと。銃弾も途中のはわざと当てないように撃ったんですよね? 初めは、アレンさんも外すことってあるんだな、って思ったんですけど……」
「あの兄妹が、明らかに転移者を襲い慣れているわけじゃなかったからだ。追い詰められて、そうするしかなかっただけ……だったらまだ引き返せるだろ。もしまたこれで懲りずにPKを続けようとするようなら、その時はこいつで撃ち抜く」
手に持ったままの、アレンの髪色と同じ金色を湛えたリボルバー銃、キングスレイヤーを持ち上げる。
それを見て、「あっ」と、思い出したかのようにミカンは声を漏らした。
「そ、そういえば。傷つけずに降伏させるため、っていうのはわかるんですけど、頭に銃口を突きつけて脅すのは……。怖かったです、本当に撃っちゃうんじゃないかって」
「ははっ、迫力あったか? まあ、撃とうにも撃てないんだけどな」
「え?」
アレンは照準も定まらないまま、無造作にそのトリガーを引いた。
突然の発砲にミカンはびくんと体を震わせて驚くも、弾丸は発射されず、それに伴う轟音も鳴りはしない。ただ、かちり、と発砲音に比べればはるかに小さな音でシリンダーが回転しただけだ。
「弾切れだったんだよ、もともと」
「——!?」
キングスレイヤーの装弾数は六。
マツへの牽制に一発、ハーベストの稀有なユニークスキルを妨害するために一発、壁面から引き剥がれた建材のブロックを破壊するのに三発、ハーベストを一瞬ひるませるために壁を狙う一発。
合計六発、つまりは距離を詰めたあの時点でアレンに残弾は残されていなかった。
「それ……もしあの時、二人が武器を捨てなかったら」
「やられてたかもな。ははは」
「な、なに笑ってるんですかっ。そんな危険な賭け……」
「百パーセントうまくいく作戦なんてないんだよ。俺は兄妹の関係性から、ああすれば降伏してくれると踏んだ。それにいざとなれば俺だってユニークスキルがある、大丈夫だ」
レバーを指で押しつつ、慣れた手つきで勢いよくバレルを下げる。すると銃が二つに折れ曲がるような形になり、むき出しになった弾倉から残っていた空薬莢が飛び出て、からんからんと小気味よい音を立てて地面に落ちた。中折れ式特有の排莢だ。
ホールドオープンのないリボルバー銃だからこそ、至近距離でも傍目から弾切れに気づかれずに済んだ。
再装填については、弾薬を別途用意しておく必要はない。
このキメラではただリロードを念じるだけで、手の内に弾薬が現れる。
だが、もう戦闘は終わった。アレンはウィンドウを操作し、装填していないキングスレイヤーをインベントリへしまう。インベントリを一度経由すれば、弾も自動で装填されてくれるのだ。
「ユニークスキルと言えば、さっきは助けられたな。イージスプロトコル、だったか」
「あ……だ、だけど、わたしずっと後ろにいるばっかりで。ほんとは、前に出なきゃいけないのに……また、モンスターの時と同じで足がすくんでしまって」
「感じ方はそれぞれだろうが、人が怖いのは当然だ。俺も転移者の方がモンスターよりもおっかないよ」
「アレンさんも、相手が怖いって思ったりするんですか? あんなに強くって、しかもPKKなのに?」
「俺だって怖いものは怖い。なりふり構わない人間の、捨て身の姿ほど恐怖心を呼び起こされるものはない。……キメラに来て、俺もこんなの初めて知ったよ」
追い詰められた人間は、なにをするかわからない。
そしてPKになる人間というのは、だいたいが追い詰められているか、始めから壊れた異常者だ。
あの兄妹は、アレンを襲ってきた手合いの中ではずっと真っ当だった。加害に対しての心理的な躊躇がある。
もっと冷たく恐ろしい、なんの抵抗もなく命を奪ってこようとする輩を、アレンはキメラに来てから何人も見てきた。
(……俺は? 俺は、どうなんだ?)
ふと疑問が差し込んだ。
自分はどうなのだろう。マツのことを、殺すつもりはなかったとはいえ、躊躇なく撃った自分は。PKとなにが違う。
「じゃあ、アレンさんはどうやってその恐怖を克服してるんですか? それさえわかれば、わたしも……」
「ん——」
ミカンの声に、頭の中を侵す霧のような疑問が流れていく。
その問いに関しては、なんら頭を使わずとも、反射的に回答できるものだった。
「望みがあるからだ。そのためなら、自分の中の恐怖なんてねじ伏せてやる」
「望み……?」
「名を売ることだよ。このキメラで、俺は有名になって、くだらないチートの疑惑を晴らして……そしていつの日かゲームがクリアされて現実に戻った時、俺はプロゲーマーとして復帰する」
アレンにはFPSしかない。己のすべてを賭けているのだから、恐れなど些細なことだ。
「そうだったんですね……わたしも、きっとなにか強い目的が……」
ミカンはうつむいたが、少しすると決心を思わせる声で「そうだ」、とつぶやく。
彼女がなにに対して思いを巡らせたのか、アレンにはわかっていた。
(……<アーミン>)
マツの言っていた、かつてミカンが所属していた小規模ギルド。
それがPKギルドに堕ちたというのが事実なら、彼女は——
彼女が目指そうとする彼女は、放っておけはしないだろう。
だが、彼女の克己にこれ以上付き合う義理などない。アレンにはミカンの決心を手助けする義務もなければ、理由もない。
けれど。
「先に言っておくが、ミカン」
「はい……? あ、ええと……ま、待ってください。アレンさんがなにを言いたいか、わかります。<アーミン>のことは、わたし一人で——」
「俺はプレイヤーキラーキラーだ。PKギルドを野放しにするつもりはないし、獲物を誰かに横取りされたくもない」
「——え?」
これはミカンを助けるためではなく。
ただ、己のため。今しがた述べたばかりの、プロゲーマーとして復帰するための算段として。
「どうせ日中は暇だったんだ、明日からは<アーミン>についても調べてみよう。俺としても、ちまちま個人のPKを潰すよりも名を広めるチャンスだ」
——PKKとして、PKギルドなどというものは、無視するわけにもいくまい。
ミカンは固まったように口を開け、ぱちぱちと数回瞬きをしてから、少しだけほろこんだ表情で言った。
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