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第一章 黎明を喚ぶもの
第二十七話 『チェーンソーに愛を込めて』
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どうせまた、陰でチーターだの、怪しいロリだの好き放題言われているんだろう——
そう思ったものの、それにしては周囲の転移者は妙に遠巻きからささやきあうだけで、その表情にも嘲笑や愚弄するような色はまったくない。
「……どういうことだ?」
「ふふ。アレンさん、やっぱり有名になってるみたいですね」
「え?」
よくよく耳を澄ませてみると、遮るもののない夜風が、畏怖の声を乗せて届けてきてくれる。
——あれがプレイヤーキラーキラーのアレンか。
——PK狩りなんて普通じゃないぞ。本当なのか?
——元はFPSのプロゲーマーだったそうだ。
——ランキングの上位千人にも入ってるらしいぞ。
「チーターなんて言ってる人、いないですよ。少なくともここには」
「みたい……だな。チーター疑惑を払拭できたってよりは、PKKで上書きしたって感じがするが……」
それでも、悪い気はしなかった。
ごく限定的な範囲とはいえ、チーター呼ばわりされる状況を覆すことができたのだ。
複雑な感情を紐解くより先に、夜闇の彼方から、ぼうと異形の集団がそのシルエットを現す。
「来たぞーっ! モンスターどもだ!」
「迎え撃つぞ! 討ち漏らしは後方の連中が仕留めるはずだ、拘泥するなよ!」
「まるで百鬼夜行だな……!」
太い角の生えた狼や真っ白い体毛をした肥満体のオーク、犬や猫よりも巨大で毒液を常に牙から滴らせる蛇、そして虹色に発光するもちもちしたスライムなど、モンスターたちが餌に飛び付くかのごとく一心不乱に町へと向かってくる。
対する転移者たちは、前線を支える者と、それを後方からサポートしつつ前線から抜けてきたモンスターを仕留める者とにパーティ単位で分かれていた。
前者は剣や槍のような近距離に適したボーナスウェポン、後者は弓と、数は少ないが銃のような遠距離に適したボーナスウェポンを持つ転移者が担当する。中にはボーナスウェポンではなくユニークスキルを主体として戦う転移者もいたが、SPを消費してしまうためごく稀だ。
「アレンさん、そっちいきました!」
「ああ、任せろ!」
アレンたちも、ミカンが盾で敵を抑え、その間にアレンが銃で仕留めるスタイルを取ろうとする。だがたった二人、それも前衛が一人だけでは押し寄せるモンスターをすべて抑えることなどできようもない。
盾を構えるミカンの横をすり抜け、角の生えた狼のモンスターがアレンへ飛びかかる。ミカンの素早い報告に加え、『鷹の目』による盤面把握があるアレンがそれをやすやすと受けるはずもなく、キングスレイヤーの銃口から弾丸が叩き込まれ、モンスターは倒される——かに思えた。
「なっ……頭当ててんのに、これだからPvEは!」
「アレンさんっ!? 危ない……!」
モンスターはヘッドショット一発では倒れず、わずかにひるみながらもアレンへ向かうのをやめようとしない。
仕方なく、アレンがユニークスキルを使おうとした刹那。
「——よお、魔物狩りは得意じゃないみてえだな、プレイヤーキラーキラー!」
「うわ!?」
ブオオオオオオオォォォォォォォォ————!!
夜の天を衝くようなその音を、アレンは一瞬、魔物のいななきではないかと勘違いした。
「こいつらホーンウルフの弱点は頭じゃあなくツノだ。覚えとくこった!」
狼を斬り飛ばし、光の粒子へと変える銀色の刃。
それは駆動音を立てながら、荒々しく回転する鎖鋸だった。
「チェーンソー……!?」
「『マスターキー』だ。イカしてるだろ?」
アレンを助けたチェーンソーの使い手は、呆気に取られるアレンに白い歯を見せて笑った。
女だ。口調こそその獲物と同様に粗野だが、体つきも声も女性のそれ。
丈の短い衣服から露出する肌は白く、ピンク色の髪は少しくせ毛のロングで、整った顔立ちはどこか気品を感じさせる。
しかし全体として受ける印象が粗暴なのは、やはり低く唸る銀のチェーンソーと、その音をなにより好ましいと言わんばかりに歯を見せる野性的な笑みのせいだろう。
彼女の頭上に目を向けたアレンは、そこに浮かぶ『coral』の白文字を見た。
「コー……ラル?」
「コラルだよ。ワタシはコラル。伸ばさないのがポイントだから、そこんとこヨロシクな」
「あぁ、そう……俺は——」
「アレン、だろ? マツたちから聞いてるぜ」
向かってくるモンスターをまた一匹、銀の唸りで撃破しながら、コラルはこともなげに言った。
「マツ? その物騒極まりないチェーンソー……まさか、あんたが」
「へえ、察しがいいじゃんか。そう、<切断同盟>のギルドマスター、コラルとはワタシのこと。話に聞いてたプレイヤーキラーキラーらしき後ろ姿が見えたもんだから、抜け出てきちまったよ」
「抜け出てきた……って大丈夫なのかよっ。ギルドメンバーの仲間を置いてきたのか?」
「アイツらはワタシがいないくらいでおっちぬほどヤワじゃねーよ。それよりプレイヤーキラーキラー、大物が来たぞ」
マツとハーベストが語っていた、<切断同盟>なるギルドのギルドマスター。そういえばさっき、カズラが来ていると話していたな、と今さらのようにアレンは思い出した。
しかし戦場に落ち着いて長話をする余裕などあるはずもない。会話を切り上げるコラルの視線を追うと、前で敵を抑えるミカンが、新手に苦戦を強いられていた。
ミカンよりはるかに大きい体をした、棍棒を手にしたオークのモンスター。白熊じみた真っ白い体毛に身を包み、みっともなく垂れたふくよかな下っ腹を揺らしながら振るわれる巨木を切り出したような棍棒を、ミカンはその銀盾のボーナスウェポン——『ナイツオナー』でなんとか防ぐ。
「……! デカい、中型モンスターってやつか」
「オマエの仲間、ヤバいんじゃねーのか? 助けなくていいのか?」
「言われるまでもない! 『炸赤火球』!」
猛攻を賢明に防ぐミカンだが、反撃の手段がない以上、いずれ均衡を崩される。
その前にアレンは、割高なユニークスキルの名を唇から紡いだ。視界の端のSPから300ポイントが引かれ、銃を持つのと逆の手に炎の球が生成される。
それを、今まさに棍棒を振り下ろそうとするオークの足元へ投げつけた。
「少し下がれミカン、体勢を立て直すぞ!」
「わ、ありがとうございますっ!」
圧縮されていた炎が解き放たれ、派手な爆発が熱風をアレンたちにまで届かせる。
とはいえこのユニークスキルはこけおどしで、実際のところダメージには対して期待のできない性能だとアレンは知っている。あくまでオークの攻撃を中断させるのが目的だ。
「へえ。爆発……グレネードか。単純ながら使いやすそうなユニークスキルだな。ワタシに簡単に見せてもよかったのか?」
「いいさ、別に隠すもんでもない」
——この使い方はな。
オークがひるんだ隙に、アレンは銃を構え、射撃によってミカンが下がる時間を作ろうとする。
(いや——倒す!)
リアサイト越しに、アレンの碧眼がオークの豚鼻をした顔面を射抜く。
銃弾とは殺意を持って放つものだ。時間稼ぎ、などと消極的な動機で撃ってばかりでは倒せるものも倒せない。
引き金を絞ると、弾丸はアレンが想定したのと寸分違わぬ軌道でオークの眉間に着弾した。
「ひゅぅ、やるじゃねーのプレイヤーキラーキラー! 噂通り大した腕前だなぁ——だけど」
今日のエイムは冴えている。
感覚から確信する。人間である以上誰しも、エイムの質は日によって若干のブレがある。調子の悪い日はだいたい回線のせいにするのがFPSプレイヤーの常だったが、幸い今日のアレンは絶好調だった。
「————ォォォオオオオ!」
「あれ!?」
エイムはよかったが、オークは倒れなかった。
手痛い攻撃に激怒し、アレンへ標的を変更。大股でのっしのっしとアレンへ近づき、棍棒を振り上げる。
「そいつの弱点は頭じゃねーんだよ。いくぜ、手本を見せてやる——耳鳴りの時間だ! 『ファイアチャージ』ッ!」
ブウウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥ————!!
オークの雄叫びさえ掻き消す叫び。コラルのチェーンソー——『マスターキー』の火を吹くようなエンジンの音。
否。火を吹くような、ではない。その血に飢えた銀の鎖鋸は、実際に炎をその連続する刃から吹き出していた。
「きゃっ……な、なんですかアレ!? 燃えてる……チェーンソーっ?」
「キ——ヒャァーハハハハハハハハハハァッ!」
煌々と周囲を照らす、炎上するチェーンソー。喜々としてそれを振りかぶると、コラルはオークの懐へ潜り込み、大きな下腹を斬り上げる。するとうなる炎は周囲に飛び散り、オークの体表をめらめらと焼く。
「ゥ、ォォ——ッ」
苦しげなうめき声を漏らし、オークは膝から崩れ落ちた。コラルの一撃でHPがゼロになったらしく、そのまま光の粒になって消えていく。
FPSプレイヤーであるアレンには到底できない、対モンスターの動き。それを見せられて目を丸くするアレンに、コラルはチェーンソーにまとわせた炎を消しながら爽やかに笑いかけた。
「いいか、モンスターどもの弱点は、人間と違って頭とは限らねえ。まずは敵を観察するこったな」
「観察……。なるほど、その通りだな。俺はどうも、ヘッドショットが癖になってるみたいだ。忠告痛み入る」
「ははっ、癖で頭を撃つってのも普通じゃねーな。ま、勉強代は今の中型モンスターのSPと経験値で勘弁しといてやるよ。じゃ、せいぜい気張りなよ」
「行くのか?」
「あんまりアイツらを待たせても悪いだろ?」
今のが最後の一匹だったらしく、モンスターたちの攻勢が止む。だがレーヴンの演説では、また間を置いてモンスターの波がやってくるはずだった。
コラルは手をひらひらと振りながら、遠くに見える一団の方へと歩き去っていく。その一団の中に、見覚えのある兄妹がいることにアレンは気が付き、元気そうな姿を見て思わず頬がほころんだ。
「アレンさん、今の人って……」
「<切断同盟>のギルドマスター、コラルだそうだ」
「あっ。マツさんとハーベストさんのギルドの……。なんだかすごい人でしたね」
「嵐みたいな女だったな。……けど、ためになる教えを授かった。さ、今のうちにポーションでHPを回復しておこう。また次の波が来るはずだ」
「はいっ」
そう思ったものの、それにしては周囲の転移者は妙に遠巻きからささやきあうだけで、その表情にも嘲笑や愚弄するような色はまったくない。
「……どういうことだ?」
「ふふ。アレンさん、やっぱり有名になってるみたいですね」
「え?」
よくよく耳を澄ませてみると、遮るもののない夜風が、畏怖の声を乗せて届けてきてくれる。
——あれがプレイヤーキラーキラーのアレンか。
——PK狩りなんて普通じゃないぞ。本当なのか?
——元はFPSのプロゲーマーだったそうだ。
——ランキングの上位千人にも入ってるらしいぞ。
「チーターなんて言ってる人、いないですよ。少なくともここには」
「みたい……だな。チーター疑惑を払拭できたってよりは、PKKで上書きしたって感じがするが……」
それでも、悪い気はしなかった。
ごく限定的な範囲とはいえ、チーター呼ばわりされる状況を覆すことができたのだ。
複雑な感情を紐解くより先に、夜闇の彼方から、ぼうと異形の集団がそのシルエットを現す。
「来たぞーっ! モンスターどもだ!」
「迎え撃つぞ! 討ち漏らしは後方の連中が仕留めるはずだ、拘泥するなよ!」
「まるで百鬼夜行だな……!」
太い角の生えた狼や真っ白い体毛をした肥満体のオーク、犬や猫よりも巨大で毒液を常に牙から滴らせる蛇、そして虹色に発光するもちもちしたスライムなど、モンスターたちが餌に飛び付くかのごとく一心不乱に町へと向かってくる。
対する転移者たちは、前線を支える者と、それを後方からサポートしつつ前線から抜けてきたモンスターを仕留める者とにパーティ単位で分かれていた。
前者は剣や槍のような近距離に適したボーナスウェポン、後者は弓と、数は少ないが銃のような遠距離に適したボーナスウェポンを持つ転移者が担当する。中にはボーナスウェポンではなくユニークスキルを主体として戦う転移者もいたが、SPを消費してしまうためごく稀だ。
「アレンさん、そっちいきました!」
「ああ、任せろ!」
アレンたちも、ミカンが盾で敵を抑え、その間にアレンが銃で仕留めるスタイルを取ろうとする。だがたった二人、それも前衛が一人だけでは押し寄せるモンスターをすべて抑えることなどできようもない。
盾を構えるミカンの横をすり抜け、角の生えた狼のモンスターがアレンへ飛びかかる。ミカンの素早い報告に加え、『鷹の目』による盤面把握があるアレンがそれをやすやすと受けるはずもなく、キングスレイヤーの銃口から弾丸が叩き込まれ、モンスターは倒される——かに思えた。
「なっ……頭当ててんのに、これだからPvEは!」
「アレンさんっ!? 危ない……!」
モンスターはヘッドショット一発では倒れず、わずかにひるみながらもアレンへ向かうのをやめようとしない。
仕方なく、アレンがユニークスキルを使おうとした刹那。
「——よお、魔物狩りは得意じゃないみてえだな、プレイヤーキラーキラー!」
「うわ!?」
ブオオオオオオオォォォォォォォォ————!!
夜の天を衝くようなその音を、アレンは一瞬、魔物のいななきではないかと勘違いした。
「こいつらホーンウルフの弱点は頭じゃあなくツノだ。覚えとくこった!」
狼を斬り飛ばし、光の粒子へと変える銀色の刃。
それは駆動音を立てながら、荒々しく回転する鎖鋸だった。
「チェーンソー……!?」
「『マスターキー』だ。イカしてるだろ?」
アレンを助けたチェーンソーの使い手は、呆気に取られるアレンに白い歯を見せて笑った。
女だ。口調こそその獲物と同様に粗野だが、体つきも声も女性のそれ。
丈の短い衣服から露出する肌は白く、ピンク色の髪は少しくせ毛のロングで、整った顔立ちはどこか気品を感じさせる。
しかし全体として受ける印象が粗暴なのは、やはり低く唸る銀のチェーンソーと、その音をなにより好ましいと言わんばかりに歯を見せる野性的な笑みのせいだろう。
彼女の頭上に目を向けたアレンは、そこに浮かぶ『coral』の白文字を見た。
「コー……ラル?」
「コラルだよ。ワタシはコラル。伸ばさないのがポイントだから、そこんとこヨロシクな」
「あぁ、そう……俺は——」
「アレン、だろ? マツたちから聞いてるぜ」
向かってくるモンスターをまた一匹、銀の唸りで撃破しながら、コラルはこともなげに言った。
「マツ? その物騒極まりないチェーンソー……まさか、あんたが」
「へえ、察しがいいじゃんか。そう、<切断同盟>のギルドマスター、コラルとはワタシのこと。話に聞いてたプレイヤーキラーキラーらしき後ろ姿が見えたもんだから、抜け出てきちまったよ」
「抜け出てきた……って大丈夫なのかよっ。ギルドメンバーの仲間を置いてきたのか?」
「アイツらはワタシがいないくらいでおっちぬほどヤワじゃねーよ。それよりプレイヤーキラーキラー、大物が来たぞ」
マツとハーベストが語っていた、<切断同盟>なるギルドのギルドマスター。そういえばさっき、カズラが来ていると話していたな、と今さらのようにアレンは思い出した。
しかし戦場に落ち着いて長話をする余裕などあるはずもない。会話を切り上げるコラルの視線を追うと、前で敵を抑えるミカンが、新手に苦戦を強いられていた。
ミカンよりはるかに大きい体をした、棍棒を手にしたオークのモンスター。白熊じみた真っ白い体毛に身を包み、みっともなく垂れたふくよかな下っ腹を揺らしながら振るわれる巨木を切り出したような棍棒を、ミカンはその銀盾のボーナスウェポン——『ナイツオナー』でなんとか防ぐ。
「……! デカい、中型モンスターってやつか」
「オマエの仲間、ヤバいんじゃねーのか? 助けなくていいのか?」
「言われるまでもない! 『炸赤火球』!」
猛攻を賢明に防ぐミカンだが、反撃の手段がない以上、いずれ均衡を崩される。
その前にアレンは、割高なユニークスキルの名を唇から紡いだ。視界の端のSPから300ポイントが引かれ、銃を持つのと逆の手に炎の球が生成される。
それを、今まさに棍棒を振り下ろそうとするオークの足元へ投げつけた。
「少し下がれミカン、体勢を立て直すぞ!」
「わ、ありがとうございますっ!」
圧縮されていた炎が解き放たれ、派手な爆発が熱風をアレンたちにまで届かせる。
とはいえこのユニークスキルはこけおどしで、実際のところダメージには対して期待のできない性能だとアレンは知っている。あくまでオークの攻撃を中断させるのが目的だ。
「へえ。爆発……グレネードか。単純ながら使いやすそうなユニークスキルだな。ワタシに簡単に見せてもよかったのか?」
「いいさ、別に隠すもんでもない」
——この使い方はな。
オークがひるんだ隙に、アレンは銃を構え、射撃によってミカンが下がる時間を作ろうとする。
(いや——倒す!)
リアサイト越しに、アレンの碧眼がオークの豚鼻をした顔面を射抜く。
銃弾とは殺意を持って放つものだ。時間稼ぎ、などと消極的な動機で撃ってばかりでは倒せるものも倒せない。
引き金を絞ると、弾丸はアレンが想定したのと寸分違わぬ軌道でオークの眉間に着弾した。
「ひゅぅ、やるじゃねーのプレイヤーキラーキラー! 噂通り大した腕前だなぁ——だけど」
今日のエイムは冴えている。
感覚から確信する。人間である以上誰しも、エイムの質は日によって若干のブレがある。調子の悪い日はだいたい回線のせいにするのがFPSプレイヤーの常だったが、幸い今日のアレンは絶好調だった。
「————ォォォオオオオ!」
「あれ!?」
エイムはよかったが、オークは倒れなかった。
手痛い攻撃に激怒し、アレンへ標的を変更。大股でのっしのっしとアレンへ近づき、棍棒を振り上げる。
「そいつの弱点は頭じゃねーんだよ。いくぜ、手本を見せてやる——耳鳴りの時間だ! 『ファイアチャージ』ッ!」
ブウウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥ————!!
オークの雄叫びさえ掻き消す叫び。コラルのチェーンソー——『マスターキー』の火を吹くようなエンジンの音。
否。火を吹くような、ではない。その血に飢えた銀の鎖鋸は、実際に炎をその連続する刃から吹き出していた。
「きゃっ……な、なんですかアレ!? 燃えてる……チェーンソーっ?」
「キ——ヒャァーハハハハハハハハハハァッ!」
煌々と周囲を照らす、炎上するチェーンソー。喜々としてそれを振りかぶると、コラルはオークの懐へ潜り込み、大きな下腹を斬り上げる。するとうなる炎は周囲に飛び散り、オークの体表をめらめらと焼く。
「ゥ、ォォ——ッ」
苦しげなうめき声を漏らし、オークは膝から崩れ落ちた。コラルの一撃でHPがゼロになったらしく、そのまま光の粒になって消えていく。
FPSプレイヤーであるアレンには到底できない、対モンスターの動き。それを見せられて目を丸くするアレンに、コラルはチェーンソーにまとわせた炎を消しながら爽やかに笑いかけた。
「いいか、モンスターどもの弱点は、人間と違って頭とは限らねえ。まずは敵を観察するこったな」
「観察……。なるほど、その通りだな。俺はどうも、ヘッドショットが癖になってるみたいだ。忠告痛み入る」
「ははっ、癖で頭を撃つってのも普通じゃねーな。ま、勉強代は今の中型モンスターのSPと経験値で勘弁しといてやるよ。じゃ、せいぜい気張りなよ」
「行くのか?」
「あんまりアイツらを待たせても悪いだろ?」
今のが最後の一匹だったらしく、モンスターたちの攻勢が止む。だがレーヴンの演説では、また間を置いてモンスターの波がやってくるはずだった。
コラルは手をひらひらと振りながら、遠くに見える一団の方へと歩き去っていく。その一団の中に、見覚えのある兄妹がいることにアレンは気が付き、元気そうな姿を見て思わず頬がほころんだ。
「アレンさん、今の人って……」
「<切断同盟>のギルドマスター、コラルだそうだ」
「あっ。マツさんとハーベストさんのギルドの……。なんだかすごい人でしたね」
「嵐みたいな女だったな。……けど、ためになる教えを授かった。さ、今のうちにポーションでHPを回復しておこう。また次の波が来るはずだ」
「はいっ」
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